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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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288 守護者

 私がこっそりと見守る中、第三王子たちの蘇生が完了した。
 あっさりしたもんだわ。
 人の生き死にだっていうのに。
 神の力は生死すら操ってみせる。
 Dの途方もない力の一端を見せつけられているようで、なんだか落ち着かない。

 私も死者蘇生ができないわけじゃない。
 ただ、それはシステムというものが存在するこの世界限定の話。
 もともと生死の概念が他の世界とは異なるこの世界だからこそ行使できる、限定的な力。
 システムのない世界で死者の蘇生なんて、私には逆立ちしたってできっこない。
 それを、Dは一から作り上げてしまっている。
 神になる前からその力の上限が見通せなかったけど、神になってからも底が見通せない。
 素直に恐ろしい。

 そんな奇跡の業だというのに、山田くんはわずかな代償でそれを行使している。
 それがどれだけ破格のことなのか理解していない。
 高々禁忌のレベルが上がる程度の代償で済む御業じゃないというのに。
 そもそもそんな簡単にポンポン生き返ることができるんだったら、私もそこまで生に執着しないって。

 うーん。
 山田くんのMPが足りなくても困るから三人に抑えたけど、もうちょい人数増やしてもよかったかな?
 どうも様子を見るに、山田くん禁忌カンストしてないっぽいし。
 まあ、それでも禁忌のレベルは三つ上がってるだろうし、無駄ってわけじゃない。
 それに、山田くんの禁忌カンストはおまけみたいなもん。
 というか、今回のこれ自体がおまけみたいなもんだし。
 失敗してもそこまで気にするもんじゃない。
 もう一つの目的は果たせたしね。

 蘇生された第三王子の魂を観察する。
 うん。
 ポティマスの魂は剥がれてる。
 一回死ねばポティマスを引き剥がすことができるとわかっただけでも十分。

 目的も果たしたし、後は山田くんたちが無事に脱出するのを見送るだけ。
 またあの大集団の中に放り込まれるのか。
 イヤだー。
 もう少しゆっくりしていこう、そうしよう。

「シュン、念のため転移陣の確認だけしてきてくれ。まず破壊されていて起動はできないだろうが。俺はここでレストンたちの容態を見ている」
「わかりました」

 どうやら山田くんたちは転移陣の確認をしに行くらしい。
 転移陣はこの世界では重要な移動手段の一つ。
 大陸を一瞬で渡れるんだから、そりゃ便利だよね。
 転移陣使わないで大陸を渡ろうと思ったら、あの水龍だらけの海を越えるか、エルロー大迷宮を抜けるかしか手段がない。
 海はムリゲーだから実質エルロー大迷宮しかないわな。

 山田くんたちは転移陣の確認に向かう。
 もちろん転移陣は夏目くんの手ですでに破壊済み。
 そう簡単に大陸を渡らせるようなことはしない。
 まあ、そんなことを言い出したのは、言う通り念のためと、少しだけ自由に動きたかったからかな。

 私のいる部屋の扉が開く。
 ノックもなしとは、礼儀がなってないなあ。

「ずいぶんと趣味の悪いことをする」

 しかも入ってきて第一声がこれ。
 おこなの?
 おこなんだな。
 その証拠に、私が座っている席の対面の椅子にドッカリと腰を落とす様子は、無造作で乱暴。

「ユリウスの師であるロナント様を、ユリウスの弟であるシュンと戦わせる。演出としては劇的だが、やられたほうの身にもなれ。ロナント様がどんな気持ちで撤退を選んだのか、貴様にはわからないのか?」

 そうは言われてもねえ。
 あの爺ここに配置したの私じゃねーし。
 抗議は受け付けないという意思表示のために、無視してお茶を飲む。

「人の所業とは思えんな」

 あ、さーせん。
 今も昔は私人じゃないんで。
 けど、そんな悪鬼羅刹のごとく言われるとこっちも気分はよくない。

「そういう黒は神らしくない」

 だから言い返してやった。
 私の対面に座る、ハイリンスとかいう名前の黒の分体に対して。

「そうだな。それは私自身思うところだ。なりたてであるというのに貴様のほうがよっぽど神らしい」

 黒はそういって深々と溜息を吐いた。

「わかってはいるのだ。私がこの件で何を言ってもそれはただの八つ当たりでしかないと。お前たちの進む道が最善だと理解している。だが、それでも、それでも、この感情は抑えがたい」

 嘆く。
 まあ、幼馴染として接してきた先代勇者のユリウスを見殺しにしなきゃいけなくて、その上その弟がいろいろと辛い目にあってるのを見れば、忸怩たる思いがするでしょうね。
 ま、私の知ったことではないな。
 世界の管理の傍ら、勇者と一緒に正義の味方ごっこをして遊んでたやつの言うことなんか知らん知らん。

「蘇生による乖離を確認」

 だから、そんな黒の感情は無視して実務的な報告を済ます。

「そうか。乖離できなければまた始末しなければならなかったが、僥倖だった」

 心の底からの安堵の表情。
 ハイリンスとして第三王子とも少なからず交流があるからね。
 できれば生かしたいという気持ちがあったはず。
 私も無駄な殺生をしたいわけじゃないし、そっちの方が助かる。

「これならば、あの王の蘇生もさせておくべきだったかもしれん」

 けど、続く言葉には賛同できない。
 それは助けられる人間は全員助けたかったという言葉と同義。
 そんなこと、できもしないくせに。

「わかっている。肩を持ちすぎだと言いたいのだろう? 私は貴様らに託した。だからそのやり方に口を出す気はない」
「ならいい」

 さっき思いっきり文句言ってきてたけどな!
 忘れてやるよ。
 優しい私に感謝するがいい。

「次は、エルフの里か」

 ですです。
 現在移動中でっす。
 ああ、イヤなこと思い出した。
 またあの大所帯の中に戻らねばならんのか。
 このまま移動が完了するまでどっかで時間潰してちゃダメかな?

「貴様らのことだ。心配はしていない。だが、奴も伊達に長く生きてきたわけじゃない。油断はしないことだ」

 忠告痛み入るってか。
 そんな事百も承知。
 こちとら準備万端で挑むんだから、負けるなんてことは万に一つもない。
 被害が大きいか小さいかの違いだけ。

「そろそろシュンたちが戻ってくる。これで失礼する」

 そう言って黒は部屋を後にしていった。

 あの男が山田くんたちを守っている限り、不測の事態はあり得ない。
 だからこそ、私は安心していられる。
 山田くんたちが死ぬようなことは絶対にない。
 あってもあの男が本気を出せば私と同じように蘇生させることもできる。

 ハイリンスという男は黒の分体。
 より正確に言うなら、死産した王国の貴族の息子の体に魂の一部を移植した存在。
 魂は神のそれだけど、体はまんま人間なので、成長するしステータスも反映される。
 まあ、魂経由で黒の力の一端を使うことはできるから、本気を出せばそれこそ神としての力を使える。
 体はもともと黒とは縁もゆかりもない人間のものなので、見た目黒とは似ても似つかない。
 黒は時々こういう分体を生み出して、人間社会に紛れて活動していたらしい。
 その目的は、知らん。
 たぶん暇つぶしだとか、人の世界に紛れて感傷に浸るとか、そういうなんか実務的な理由とは程遠いものだと思う。
 だって、世界の管理に必要ないことだもん。
 だから遊び。

 ただ、遊びだとしても情は移る。
 ユリウスとは親友同士で、苦楽を共にしてきた。
 そのユリウスを私は殺した。
 黒としては複雑な心境だろう。
 たとえそれがどうしても必要なことだと頭でわかっていても。

 だからかな。
 あんなに山田くんのことを気にかけるのは。
 贖罪のつもりなんかね。
 兄を見殺しにしてしまったことに対しての。
 さっきみたいにちょっとしたことで私に文句言いに来るくらい過保護になるのも、そのせいか。

 しかし、人の気持ちねえ。
 あの爺、弟子の弟だからわざわざ「勝てない」宣言して撤退したのか。
 あの爺にもそういう感傷みたいなもんがあったのか。
 なるほどなー。

 ……まあ、人の気持なんか考える必要はないな。
 私は私の為すべきことをするだけ。
 ついては、戻らなければならない。
 あの人混みの中に。
 ……為すべきこと、放棄したくなってきた。
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