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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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第三回非公式会談①

教皇視点
「つまり、そちらの不手際であると?」

 私の問いに、白様は無言で頷いた。
 頭を抱えたい衝動を何とか抑え込み、私は手元にある資料に視線を落とした。
 そこには今回のことの顛末が事細かに書かれている。
 白様が何を狙ってそのような行動を起こしたかも。

 魔族の大規模な侵攻がいったん終結し、その後処理に追われている最中、その資料は唐突に送られてきた。
 手渡してきたのがアリエル様の置いていったパペットタラテクトのアエルだった時点で嫌な予感はした。
 そして、中身を見てその予感は現実となる。
 それは白様からの報告書。
 アナレイト王国を転覆させる、その準備が着々と進んでいるという、予想だにしなかった内容の。

「イヤー。ごめんね? まさかこんなことになってるとは。イヤ、ホント、マジで」

 アリエル様がどこか遠くを見つめながら謝罪を口にする。
 軽い口調ながら、どこか本気ですまないと思っているかのように感じられるのは、私の勘違いだろうか?

「とりあえず、その洗脳は解いていただきたい」

 資料によると、アナレイト王国の学園に留学させていた、我が神言教が抱える転生者の一人、ユーリーン・ウレンと、そのサポートのために同国に派遣していた信徒数名が洗脳されているという。
 洗脳したのは、レングザンド帝国のユーゴー王子。
 ユーゴー王子は白様の手駒として活動していたが、本人の裁量に任せていたため、このような手違いが発生したと。

 白様が神言教との密約を話さなかった理由はわかる。
 私とてこの密約は信頼できるほんの一部の人間にしか伝えていない。
 魔族でもそれは同様であろうし、ましてや相手は魔族ではない人族の、しかも帝国の王子。
 どこでこの情報が漏れ、取り返しのつかない事態になるかわかったものではない。

 しかし、起きてしまったものは仕方がない、とは言い難い。
 協定の範囲外のこととはいえ、これはれっきとした魔族による神言教への個別攻撃。
 下手人は帝国の王子とはいえ、その背後に白様がいたのであれば、それは魔族からの攻撃と受け取っていいだろう。
 事故とは言え、はいそうですか、では済まされない。

「私からご説明申し上げます」

 口を開いたのは、白様ではなく、その隣に座っていた少女だった。
 名をフェルミナというその少女は、かなりの力を持つ魔族だとわかる。
 おかしなことに、魔族側として参加しているメンバーで、彼女が唯一の魔族だ。
 その唯一の魔族は、あちらのメンバーの中では立場が下のようだ。

「まず、洗脳したユーリーン嬢を始めとしたそちらの人員について、このまま洗脳を維持したいと考えております」

 列席するこちらのメンバーがザワリとする。
 それを片手を上げることで鎮め、まっすぐにフェルミナ嬢を見つめる。
 フェルミナ嬢は私の視線を受け止めても、わずかな緊張感しか表に出さなかった。
 おそらくまだ魔族としても若いだろうに、大した胆力だ。
 アリエル様や白様といった、高位の存在に普段から触れているおかげか。

「理由をお聞きしても?」

 静かに、しかし有無を言わせぬよう、声に意思を乗せる。
 フェルミナ嬢は、緊張を飲み込むように喉を一度動かし、説明を始めた。

「その前に、お知らせしたいことがございます。此度の戦いで勇者がお亡くなりになり、代替わりしたと思われます。その新勇者ですが、アナレイト王国第四王子、シュレイン・ザガン・アナレイトであるとこちらの調査で判明しております」

 また、こちら側がザワリとする。
 私も内心の動揺を外に出さないようにする。
 まだ神言教の情報網では掴めていない新勇者を、魔族がいち早く把握している。
 情報戦では完敗していると言えよう。
 恐ろしい。

「彼が新勇者に任命されるのはこちらとしても計算外でした。我々は転生者はなるべく生かす方向で考えております。ですが、ご存知の通り、因果律により勇者は魔王を戦力差関係なしに倒しうる存在です。それを考慮し、できるだけ新勇者であるシュレイン氏には戦場より遠ざかっていただくか、もしくは死んでいただく必要があります」

 魔王となったアリエル様にとって、勇者とは天敵。
 ステータスでは他の追随を許さないアリエル様が敗れるとすれば、それはシステムの括りを抜け出した神か、魔王をステータス差関係なしに屠る可能性を秘めた勇者のみ。
 その勇者を遠ざけようとするのは当然と言えよう。
 我々をはるかに上回る情報網を持つ魔族ならば、新勇者を発見し次第どうにかするのも容易かっただろう。
 それが転生者でなければ。

 転生者でもある白様は、同じ転生者をなるべく生かす方針のようだ。
 であれば、新たに勇者となったシュレイン少年に、下手な手出しはできない。
 なるべく穏便に事が運ぶようにするはずだ。
 こちらとしても、アリエル様を打倒しうる存在を、むざむざ死なせるのは惜しい。
 それが転生者で、勇者となる前から高いステータスを誇る人材であるならばなおさら。

 しかし、白様方の言い分を鵜吞みにするわけにはいかない。
 戦争が始まる前に、アリエル様は白様やアリエル様の直接参戦はないと明言された。
 が、蓋を開けてみれば白様が勇者ユリウスを殺害するという行動をとられている。
 この場での発言を覆している。
 非公式ゆえか、この場での発言は全て履行されるわけではないと心得なければならない。

 であるならば、転生者をできるだけ生かしたいというその言も、どこまで信用できるものか。
 大体、その言を信じるならば、洗脳されたユーリーンを即刻開放していなければならない。
 彼女もまた、転生者なのだから。

「そこで、シュレイン氏には身動きのとりずらい状況になっていただきます」
「ふむ。それと、洗脳された我が信徒たちとどのような関係が?」

 私の問いかけに、フェルミナ嬢は手元から更なる資料をこちらに差し出した。

「ええ。この際ですので、神言教には堂々と帝国を、ひいてはユーゴー王子をバックアップしていただきたいのです」

 その資料には、王国転覆の詳細計画と、神言教にどうしてほしいのかが書かれていた。
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