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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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エルフの長の誤算

ポの字視点
 人族と魔族の戦争が終結した。
 結果は、引き分けといったところか。
 双方ともに被害甚大。

 人族は国境の守りの要である砦をいくつか落とされ、いつ魔族の再侵攻にさらされるかわからない状況となった。
 だけでなく、それだけの砦が落とされたということは、人的被害もそれなりだということ。
 中でも勇者が死んだのは、人族にとって大きな痛手と言える。
 かの勇者には期待していなかったが、それでももしかすればという淡い思いがあったのも否めない。
 アリエルと刺し違えてくれれば言うことなしだったのだが、所詮現実の見えていない夢見がちな子供だったということだ。

 魔族はいくつかの砦を落とすことに成功したが、失敗した箇所もある。
 攻略に成功した砦にしても、無傷で済んだわけではない。
 単純な死傷者の数では、人族と大差ないだろう。
 そして、人族よりも全体数が少ない魔族にしてみれば、その被害は大きい。
 後先を考えずに徴兵したのだから、その損失は下手をすれば魔族という種族の存続にさえ暗い影を落としかねない。
 尤も、そうなることをわかった上で、アリエルは無理な徴兵を押し通しているのだから、予定通りとも言えるか。

 そう、予定通り。
 此度の戦争は全てアリエルの手のひらの上。
 人族と魔族、それぞれの被害状況や、確実に始末しておくべき人物をこの機に亡き者にする手腕。
 全て見事と言うべきだろう。
 いっそ芸術的ですらある。
 なにせ、この私すら手玉に取ってみせたのだからな。

 戦争が始まる前から、魔族領でのエルフの活動がしにくくなっているのは感じていた。
 その時点でアーグナーが我らの協力者であるのは見抜かれていると思っていたが、こちらの動きをことごとく掴まれた上に、一方的に潰されていくのは忸怩たる思いがしたものだ。
 アリエルにそのような情報戦を制するだけの手駒がいたことに驚く。
 アリエルの力は純粋な戦闘力だけだと見くびっていた。

 おそらく、白とかいう、ここ最近そばに侍るようになった個体が、情報収集能力に長けているのだろう。
 妨害されているため、確たる情報はないものの、魔族の間で白の率いる軍がそれに特化しているらしいという噂が流れている。
 どこでそんな技能を持った集団を見つけたのか。
 そいつらに裏で動き回られているせいで、思うように身動きがとれないのがもどかしい限りだ。
 魔族領での情報戦は完全に敗退している。
 もはやどれが本当で、どれが偽の情報であるのかさえわからない。

 だからこそ、アリエルが出陣したあとに、転生者の一人である吸血鬼の娘が一人でいるという情報を得た時、罠ではないかと警戒した。
 警戒した上で、罠ごとひねり潰すつもりで、あえてその誘いに乗ってやった。
 万が一のことを考え、失っても痛くない旧式の体を使って。
 旧式とはいえ、それなりに戦闘能力のある体だ。

 それを、あの吸血鬼の娘はいとも容易く粉砕してみせた。
 交戦してみた感触から、本気を出せば上位龍と同等か、もしくはそれ以上の実力を有しているだろう。
 私が知る他の転生者とは、戦闘力の桁が違う。
 アリエルが戦闘のイロハを教え込んだに違いない。
 でなければ、あのような小娘があそこまでの戦闘能力を有するはずがない。

 しかも、かの小娘はその後、数日間に渡って世界各地に出没し、エルフの拠点を襲撃していった。
 たった一人の小娘に、世界中にあるエルフの拠点を破壊され、人員を減らされた。
 まさか、魔族領だけでなく、人族領のエルフの拠点まで割れているとは、誤算としか言いようがない。
 どうやって嗅ぎつけられたのか、見当もつかない。

 吸血鬼の娘の戦闘能力は、ただのエルフの手に負えるものではなくなっている。
 あれを殺すには、抗魔搭載型グローリアを投入する他ないだろう。
 でなければ、里にある対神グローリアを使うか。
 さすがにあんな小娘にそれを使う気はないがな。

 それに、吸血鬼の娘だけでなく、おそらくそれ以外にも厄介な人物がいる。
 エルフの拠点を割り出した者。
 世界各地を瞬時に移動していたことから、空間魔法を高レベルで保持している者。
 少なくとも、その二つの能力を持った人物がいる。
 私の予想では、白と呼ばれる娘が関与していると思うのだが、それも確証がない。
 最悪の予想としては、それら全ての能力を吸血鬼の娘が有しているということだが、いかな転生者とはいえ、それだけの能力を一個人が全て保持しているとは考えにくい。
 既に見せている能力だけでも厄介なことに変わりはないのだがな。

 赤子の時に殺せなかったのが悔やまれる。
 そして、転生者の可能性を垣間見て、私の選択は間違っていなかったことを確信した。
 やはり、転生者は可能性の塊だ。
 この世界の常識では測れない、未知なる存在。
 それがあれば、私は……。

 何はともあれ、これはアリエルからの宣戦布告といったところだろう。
 寿命で死ぬまで大人しくしていれば、楽に死ねたものを。
 システムの恩恵で多少強くなっただけの小娘が、私に本気で勝てるとでも思っているのか?
 馬鹿馬鹿しい。
 私が恐るのは今も昔も神だけだ。
 そして、この星にいる神は残すところあと一人だけ。
 ギュリエディストディエスさえ始末してしまえば、あとは死に体のサリエルのみ。

 アリエルがエルフの里に攻め込んでくるというのであれば、殲滅するまで。
 対ギュリエディストディエス用に開発してきた兵器の数々。
 小娘に対して使うには少々大げさかもしれないが、本番前の慣らし運転だとでも思っておこう。

「グローリア各種の点検を徹底的にしておけ。いつでも動かせるようにな」
「はっ!」

 さて、外で散々好き勝手してくれた報い、受けてもらおう。
すんません、その白いの神なんすよ
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