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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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278 ブラコン妹の上手なたぶらかし方

 今日、お兄さんなんか様子変だったよね?
 理由知りたい?
 教えてしんぜよう。
 お兄さん、なんと勇者に選ばれたんだよ。
 前の勇者も君のお兄さんだったはずだけど、私が殺りました。
 勇者って邪魔なんだよね。
 消しちゃおうかなー。
 どうしようかなー。
 誰か協力してくれたら消すのやめてもいいんだけどなー。
 チラ。

 以上、妹ちゃんとのやり取りをダイジェストにてお送りしました。
 なお、山田くんが勇者になったって件で妹ちゃんが興奮しすぎて鼻血吹いたのにはビビッた。
 興奮しすぎると鼻血出るって迷信じゃなかったんだ。
 そこから兄様トークが始まりそうになったけど、フェルミナちゃんが止めて事なきを得た。
 ナイスだ、フェルミナちゃん。
 さすが元名門貴族。
 トーク力は私の比じゃないぜ。

 ちなみに、山田くんが勇者になったってところで、もう一人ギャースカ言い始めたのがいた。
 まあ、吸血っ子なんだけど。
 そう言えば説明忘れてたわ。
 手っ取り早く黙らせるために蹴り飛ばしておいた。
 ギャグマンガみたいに壁にめり込ませておいたから、しばらくは大人しくなるはず。
 それを見た妹ちゃんが恐怖に顔面蒼白にしてた気がするけど、気にしない。
 あと、フェルミナちゃんが鼻で笑った気もするけど、それもきっと気のせい。

「どうしろっていうの?」

 で、現在妹ちゃんが途方にくれてます。

「簡単なことです。あなたのお兄様を助けたければ祖国を裏切ればいいのです。それができないのであれば、祖国もお兄様の命も、ついでにあなたの命も失う。どちらを選びますか?」

 フェルミナちゃんが、心なしか生き生きと妹ちゃんを追い詰めていく。
 こうして見ると悪役令嬢っぽい。
 普段は色々と抑圧されてるけど、フェルミナちゃんってもともといいとこのお嬢様だしなー。
 命令されるよりも命令する方が性に合ってるんだろうね。

 妹ちゃんが苦悶の表情を浮かべながら悩む。
 時折不穏な気配をにじませるものの、すぐに抑えて思い止まってる。
 襲いかかっても返り討ちに合うってことがわかってるみたい。
 まあ、妹ちゃんじゃあ、どうあがいても私には勝てない。
 転生者でもない人族としては破格の強さだけど、それでもフェルミナちゃんにも届かないだろうし。

 妹ちゃんは悩んで悩んで、最終的には折れた。
 正直、ここまで悩むとは意外だった。
 だって、この子病的なまでのブラコンだし。
 兄様のためなら! てな感じで即答するもんだと思ってたけど。

 分体が監視で見てきた限り、この子に祖国愛なんてものはない。
 むしろ、嫌ってすらいるかも。
 育ってきた家庭環境にもよるんだろうけど、この子の母親とお兄さん、山田君じゃないやつね、が、割とろくでもないから。
 まあ、この国の王妃と次期国王なんだけど。
 だから、国を潰すのに抵抗はないと思ってたんだけどなあ。

 あ、そっか。
 私らに協力するってことは、愛する兄様と敵対するってことか。
 だからあれだけ悩んで、こんな落ち込んでんのか。
 妹ちゃんはこの世の終わりだー、みたいな顔してうなだれてる。
 フェルミナちゃんと、いつの間にか復活してた吸血っ子が、その妹ちゃんの顔を見てニヤニヤしてる。
 こいつら……。

「愛し合うのに敵同士」

 妹ちゃんの耳元で囁く。
 ビクッと大げさに肩が揺れた。

「だからこそ燃え上がる禁断の恋心」

 今度はピクピクっと反応する。

「真実を知った時、彼はあなたを強烈に意識する」
「やりましょう!」

 チョロイ。
 なんだこの頭パーなヤンデレブラコンは?
 さっきまでの絶望顔が嘘のように、今は口を開けてだらしない笑みを浮かべている。
 ダメだこいつ、早く何とかしないと。
 イヤ、もう手遅れです。
 モチベーション保たせるために、今度敵と恋に落ちるヒロインを主役にした小説でも渡しておこう。
 最終的には二人は結ばれてハッピーエンドなやつね。
 まあ、妹ちゃんと山田くんがそうなるとは思ってないけど。

 苦難を乗り越えて兄様と結ばれる妄想を繰り広げる妹ちゃんを確保し、次は夏目くんのところに行く。
 転移で直接夏目くんのところにゴー。

「あ? なんだ?」

 転移したら、夏目くんは絶賛監視の人を洗脳してる最中だった。
 分体で行動を見てたけど、夏目くんは監視してる人を徐々に洗脳で切り崩していってるらしい。
 で、その監視を担当してるのは大島くんの実家。
 大島くんの実家は王国の公爵。
 公爵夫妻はポティマスに既に唾つけられてる。
 ということで、夏目くんは私が指示を出さずとも、いい感じに行動してくれてたんよね。

「ん? お前、若葉か?」

 幻覚で隠してあるはずなのに、一発でバレた。
 草間くんにも一発で素顔がバレてたっぽいし、もともと顔を知られてると効果がないっぽいな。
 そういえば、こうして割と正気な状態で会うのは初めてか。
 まあ、その正気もログアウトさせるけど。
 夏目くんの頭の中の分体、ヤッちゃいなさい。

「あへい?」

 夏目くんが変な声を出して白目をむく。

「「「うわ」」」

 吸血っ子、フェルミナちゃん、妹ちゃんの声が重なる。
 同じ反応をしたのが気に食わなかったのか、吸血っ子とフェルミナちゃんがにらみ合いを始めた。
 くだらんことで喧嘩すんなし。

 とりあえず、夏目くんに取り憑いた分体を経由して、妹ちゃんが従順な協力者だと暗示をかける。
 ついでに王国を転覆させるように行動するよう誘導。
 これでよし。
 あ、私らのことも支援者として記憶を改竄しておくか。

 夏目くんの記憶を捏造し終えると、白目を向いて奇声を発しながらガクガクと痙攣していた体がビクッと大きく跳ねて動きを止める。
 そして、何事もなかったかのように普段の表情に戻った。

「ああ、白か。何の用だ?」

 今の夏目くんには私は若葉姫色ではなく、白として認識するように設定しておいた。
 特に意味はない。

「この子達を使って」

 私は後ろに控える吸血っ子たちを示す。
 妹ちゃんには夏目くんの手伝いをさせ、吸血っ子には帝国を内部から掌握してもらう。
 フェルミナちゃんは、私と一緒に魔族領に帰ってお仕事だな。
 という具合の話を一通りして、とりあえずは妹ちゃんに夏目くんの補佐兼手綱役をやらせる。
 帝国との兼ね合いは少し時間を貰うとの夏目くんの言により、吸血っ子の出番はもう少し先になりそう。
 なので、妹ちゃんを夏目くんに預けて退散した。
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