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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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274 勇者殺害

本日三話目
 ブロウが息絶えた。
 それを見届けた私は、一歩進み出る。

 勇者が私のことに気づく。
 その顔には驚愕の表情。
 どうやら私が、かつて敗北したことのある迷宮の悪夢と同一の存在であると、直感でわかったみたい。

 勇者ユリウスは私の分体も見分け、その姿を発見したら執拗に追い掛け回して始末して回っていた。
 監視用の非戦闘向け分体だと、勇者には勝てない。
 おかげで、私は勇者の動向を監視できなかった。
 きっと、私に手も足も出なかったことが強く印象に残って、私という存在に敏感になってるんだと思う。

 だから、咄嗟に私に向けて駆け出してきたのも、想定の範囲内。
 加速された思考の中、勇者の必死の形相を眺める。
 残念ながら、どれだけ力を振り絞ろうとも、勇者が私に勝つことは絶対にできない。

 目を開ける。
 せめてもの慈悲で、痛みも感じる間もなく殺してやろう。
 改良された私の邪眼、死滅の邪眼が勇者を襲う。
 私が神になっても失わなかった属性は二つ。
 闇と、腐蝕。
 正確には、闇と、死。
 邪神Dが司る属性。

 死滅の邪眼は勇者に死を与え、その肉体を滅ぼす。
 D本人の力に比べれば弱いけど、それでもまごうことなき神の力。
 神でもない勇者に耐えられる道理はない。

 勇者に間違いなく止めを刺し、ついでに勇者の仲間も同じように始末する。
 一人だけ耐えたけど、それも想定内。
 想定外は、もっと別の場所で起きた。

「あとは任せる」
「え?」

 緊急事態故に、ワルドくんに戦場のことを丸投げし、転移する。
 訪れたのは、幾何学模様を描く巨大な魔術陣が広がる、広大な空間。
 その中心には、上半身だけの女の姿。

 エルロー大迷宮最下層、その先に存在する女神の封印地。
 この世界を支えるシステム、その核。

 私は足早に女神に近づく。
 その半身は、前に見たときよりも減っている。
 私の想定よりずっと多く。

 瞬間的に沸騰しそうになる怒りを抑え、女神の顎を掴む。
 そのまま握りつぶさなかっただけ、まだ冷静であると信じたい。

「自分が何をしたのか、わかっているのか?」

 ドスが効いた声になってしまうのは、抑えられない。
 目を開いて、まっすぐに女神を睨みつける。
 女神の目は虚ろで、その口からはシステムメッセージが呟かれるのみ。

「ふざけるな」

 大きな声ではなかった。
 けど、これ以上ないくらい怒りに満ちた声が出た。

 誰が、どうして、何のために、この戦争をしたと思っている?
 それを、この女神が台無しにした。
 他ならない、女神をシステムから解放するための布石だったのに、それをこいつは自分から台無しにしやがった。

 今回の戦争の目的は、人族と魔族の戦える人員を間引きし、エネルギーを確保すると同時に、システム崩壊時に巻き込まれる人数を減らすこと。
 そして、勇者を倒すことによって、システムの勇者関連の記述を削除し、そこに回されていたエネルギーを確保することだった。
 他にも細々とした理由はあるけど、大きな理由はその二つ。
 どっちもエネルギーを一気に集めるための方策。

 けど、それなのに、集まったエネルギーは私の想定したものよりも低い。
 低くされた。
 女神が余計な介入をしてきたせいで。
 勇者システムの分解を、女神は邪魔してきた。
 その身と、今回流入してきたエネルギーの一部を使って。

 意思の疎通はできないから推測でしかないけど、多分女神は私のやろうとしていることの全貌を把握している。
 まあ、システムのハッキングとかいろいろしてるし、そのシステムの核になってる女神がそれを知ってもおかしくはない。
 問題は、それを知った上で、私の行動を邪魔しに来ているということ。

「そんなに人が死ぬのは嫌か? 今みんなが殺し合ってるのは誰のためなのかわかってるくせに?」

 女神の顎を持つ手の力が強くなる。
 魔王が死を覚悟してまで行動を起こしたのに、この女はその行動を無駄にする。
 許せないよねえ。
 ふざけんなって話だよ。

「よく見ておけ」

 女神の目の前に映像を映し出す。
 そこには戦場が映し出される。
 第一軍が戦う戦場だ。
 それだけでも凄惨で、この女神にとっては見るに堪えない景色だろう。

 けど、それだけじゃ済まさない。
 私はその戦場に、クイーンタラテクトを一体召喚する。
 そして、魔族も人族も等しく蹂躙するよう命令を下す。

「目をそらすなよ? お前が余計なことをしたせいで、私はより多くの命を奪わなければならなくなったんだから。この景色は、お前が望んで、引き起こしたんだ」

 反論はない。
 けど、かすかに頭を振るような仕草が見られた。
 私は一瞬たりとも映像から目を離させないために、顎を持つ手に力を込める。

 愚かな女神。
 誰よりも平和を望みながら、誰よりも血塗られた道を世界の人々に歩ませている張本人。
 それがDの悪意ある救済によるものだとしても。
 今回のこともそう。
 黙っていれば私はこんな虐殺をするつもりなんてなかった。
 アーグナーにはまだまだ働いてもらうつもりだったんだから。
 それを、予定外に潰さなければならなくなった。

 第二軍や第五軍を潰さなかったのは、今後のことも考えるとそのほうがよかったから。
 第一軍は魔族の精鋭。
 そして、対する人族軍も同じく。
 その分全滅した際に回収できるエネルギー量も多い。
 できるだけ少ない被害人数で、多くのエネルギーを回収するには、第一軍を潰すしかなかった。

 すまん、アーグナー。
 お前の望む魔族の未来を叶えるためには、お前を切り捨てるしかなかった。
 それすらも、場合によっては叶えられないかもしれないっていうのに。

 クイーンタラテクトが生きとし生ける物すべてを蹂躙していくさまを、女神に余すことなく見せつける。
 全てが終わっても、しばらくはそのまま死が充満した景色を見せ続けた。

「余計なことはするな。その度に死者の数が増えるのだと理解しろ」

 掴んでいた顎を乱暴に離す。
 心なしか、もともと虚ろだったその目が、さらに死んだ魚のようになった気がする。
 いい気味だ。
 それでもイラ立ちは収まらない。
 怒りのあまり普通に喋ってしまうくらいには。
 こんなくだらないことのために、アーグナーを犠牲にしなければならないなんて。
 ちくしょうが。

 それよりも、新しく勇者になったのが誰か、早く確かめなければならない。
 神言教に接触して、捜索させなければ。

 今後の予定を考えている時、分体の一つが異常を察知する。
 山田くんを見張らせている分体だ。
 山田君が授業中に突然立ち上がり、挙動不審な行動をしている。

 まさか。
 まさか、まさか、まさか!?

「お前、お前!」

 女神をぶん殴る。

「どこまで人の邪魔をすれば気が済む! どこまで人の気持ちを踏みにじれば気が済む! そんなにも人の命を救いたいか!? それこそが人を死に追いやるとなぜわからない!?」

 今すぐこの女神をぶち殺したいのを我慢する。
 それをしてしまえば、何のために今まで行動してきたのかわからなくなる。

 この女神は、勇者システムを存続させた挙句、山田くんを次の勇者に指定しやがった。
 転生者である、山田君を。
 私が殺せないと、殺さないと知っていて、転生者を選んだに違いない。
 どうして私が勇者システムの破棄を敢行しようとしていたのか、女神は知っているはずなのにだ。
 エネルギーの回収?
 それも確かに目的の一つではある。
 けど、最大の目的は、魔王を殺させないため。
 システムによって、魔王は絶対に勇者に殺される。
 たとえ魔王のステータスが、勇者よりもはるかに高かろうと。
 その憂いをなくすために、勇者システムを破棄しようとしていたっていうのに。

「そんなに魔王に死んでほしいのか!? 誰でもない、お前のためにずっと頑張ってきたあの魔王を!」

 ギリッ、歯が鳴った。
 これ以上ここにいると、本気で女神を殺したくなってくる。
 私は女神に背を向け、転移でその場を後にした。
 女神がどういう表情をしているのか、見たくもなかった。
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