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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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273 戦争観戦

本日二話目
 分体を通していくつもある戦場の風景を同時に把握。
 アーグナーのとこの第一軍は苦戦中。
 今回攻め込んだ中でも一番きついとこだし、仕方ない。
 むしろ苦戦で済ませてるアーグナーの指揮能力パネエ。
 私だったらとっくの昔に敗戦してるわ。

 第二軍は、まさかの猿軍団。
 うん。
 昔私がエルロー大迷宮の下層で戦ったことのある猿、そいつらを砦にけしかけることで、自身の軍団を無傷の状態で人族の砦を陥落させた。
 どうもあの猿、同族を殺した相手にしつこくまとわりつくという、はた迷惑な性質があるんだとか。
 だから、私が下層で戦った時も、全滅するまで襲いかかってきたわけね。
 しかも、一定期間ごとに繁殖して数を増やし、人里とかに降りてくるって言うんだから厄介この上ない。

 分体が見る限り、第二軍が担当してた砦は猿に占拠されております。
 猿の数が半端ない。
 私が戦ったのとは比べ物にならないくらいの大量の猿が砦を埋め尽くしている。
 猿の津波。
 イヤ、あれはさすがに人族の皆さんに同情するわ。
 それをけしかけたおっぱい星人、なかなかやるわー。
 まあ、魔王に殺されたくねーっていう保身に走りまくった結果思いついたんだろうけど。

 第三軍は、アホ巨漢が自ら砦に突貫して城壁を破砕。
 そこから雪崩込んで砦を制圧。
 なんという力技。
 大将が真っ先に前に出るってどうなの?

 第四軍、メラのところは、まさかの敗退。
 転生者が二人も参戦してて、その上なんかやたら強い魔法使いの女がいたからねー。
 さすがのメラも三人がかりで粘られたら撤退せざるをえなかったと。
 軍の被害を考えないで、メラだけで戦い続けたら勝てただろうけどね。
 そこらへん真面目に魔族軍の将軍として仕事してるメラには、撤退を選択するしかなかった。
 転生者を殺すわけにもいかなかったし。

 第五軍は、第一軍と似たり寄ったりの状況。
 第一軍よりも相手の戦力は下なんだけど、それでも押されてる。
 ここら辺は兵の質やら将の質やら、やっぱり第一軍の方が優れてるからだろうね。
 なんだかんだ言ってアーグナーは優秀だし。

 第六軍は、哀れショタ。
 なーんか相手の大将に見覚えがあると思ったら、昔私に弟子入り志願してきたおっさんだった。
 あの当時は老人一歩手前のおっさんだったけど、今では立派な爺。
 爺のくせにやたらハッスルして、ショタのことを射殺しおった。
 なんか、ちょっと見ない間に爺さん強くなってね?
 あの当時も人族にしては魔法能力高いなーと思ってたけど、今はさらに磨きがかかってるように見えるんだけど。

 第八軍、鬼くんのところは、あー、うん、頑張れ兵士諸君。
 鬼くんが鬼畜。
 だって鬼だもん。
 私が言えた義理じゃないけど、ひっでえなおい。

 各地の戦況はそんな感じだけど、密かにもう一箇所、重要な戦闘があった。
 エルフに流した餌情報に引っかかってくれた。
 エルフは転生者にやたら固執してるし、吸血っ子がいるよーって情報流せば食いつくんじゃないかなーと思ってたけど、予想以上の成果を上げてくれたよ。
 吸血っ子が撃破したのは、ポティマスの憑依体。
 しかも、サイボーグ化された。

 エルフが旧文明の技術を持ってるのはわかってたけど、それがどの程度発展してるのかは謎だった。
 エルフの里に仕込んだ私の分体も、それらが保管されているだろう施設には侵入できずにいる。
 どうせ碌でもない兵器の一つや二つや三つは隠し持ってるんだろうと思ってたけど、その一端がノコノコと誘い出されてくれたわけだ。
 サイボーグポティのボディは吸血っ子とフェルミナちゃんが回収してくれたから、後で私が見て解析してみよう。
 場合によっては今のエルフの技術レベルが知れるかもしれない。

 しかし、そんなものまで出してきて、ポティマスは吸血っ子を始末したかったわけか。
 なんか、嫌な予感がするな。
 転生者にこれほど固執する理由はなんだろう?
 飼い殺しにしてる理由は?
 何かあるな。
 エルフの里にいる転生者たちは、私の分体が密かに見守ってるから、何かしようものなら守れるけど。
 気をつけといたほうが良さそう。

「白。手は出すな」

 他の戦場の把握しをしてたら、横から声をかけられた。
 ああ、勇者がすぐそこまで迫ってたからね。
 チンピラは迎え撃つつもりらしい。

 うーむ。
 正直、私が出てサクッとやるのが一番手っ取り早いんだけど。
 ここまで覚悟完了って顔されるとなあ。
 止めるに止められない。

「第十軍、決着がつくまで手出しは無用」

 チンピラが勇者の前に進み出ていくのを見送りながら、第十軍に命令を下す。

「よろしいのですか?」

 進言してきたのは、ワルドくん。
 今回は吸血っ子と別にして、私の補佐に回していた。
 ワルドくんは間接的に私の強さを知っている。
 なんせ、惚れ込んだ吸血っ子が敵わないと説明してるはずだからね。
 だから、私が勇者に勝てるのも知ってる。
 けど。

「誇りは?」
「え?」
「それで彼の誇りは?」

 私の問いの意味が理解できなかったのだろう。
 ワルドくんは怪訝な顔をする。

 チンピラはこの戦いに相当な想いで挑んでいる。
 私は確かに勇者に勝てる。
 けど、それで勇者を倒してチンピラを助けても、チンピラの誇りは傷つけられる。

 ただ生きてるだけじゃ、意味がない。
 誇りがなければ、生きている意味がない。
 かつての私は生きるのに必死で、その誇りを持つ余裕すらなかった。
 けど、誇りのない生なんて、空っぽなんだよ。

 昔の私はただ生きたかった。
 だって、命以外何もなかったから。
 記憶も、魂も、すべてが偽物。
 命以外に、守るものがなかった。
 けど、マイホームを焼かれ、初めて挫折した時に悟った。
 生きているだけじゃ、意味がないって。

 チンピラの命を助けることはできる。
 けど、それは同時にチンピラの誇りを汚す行為でもある。
 どっちを選ぶのかは人それぞれだろうけど、私は誇りを取る。
 その結果、チンピラが死のうとも。
 その想いを、現在進行形で踏みにじってるのが私たちだとしても。

 チンピラが望む魔族の平和、兄であるバルトに対する想い。
 それらを叶えてやることは、できない。
 私と魔王が、させない。
 私たちが、チンピラの誇りを踏みつけている。
 だからこそ、最期の矜持くらい守ってやりたい。
 勇者との一対一の真剣勝負。
 そこに割って入るような、無粋なことはしない。

 結果、彼は死んだ。

 勝ち目のない相手に、何度も何度も倒されて。
 それでも最期のその時まで、諦めずに何度も何度も立ち上がった。
 その意志が、矜持が、そうさせるかのように。

 お疲れ様。
 来世では幸せになれることを祈るよ、ブロウ。
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