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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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人魔大戦前 ロナントの場合

本日二話目
ロナント視点
戦争のちょっと前
「久しいの」
「お久しぶりです、師匠」

 儂は久しぶりに弟子一号こと、勇者ユリウスと会っておった。
 こうして顔を合わせるのは数年ぶりとなる。
 神言教の横槍が入るせいで、まともに会うことさえできないのじゃ。
 まったく、忌々しいことよ。

「元気そうでなによりじゃの」
「師匠の方こそ。もうお年ですのに、未だ現役で元気そうじゃありませんか」
「儂を誰だと思っとる? 死ぬその時までバリバリ現役じゃよ」
「師匠らしい」

 上品に笑う弟子一号。
 儂が面倒を見ておった時は、まだあどけなさも残っておったが、もはや一端の大人となったのう。

「ユリウス、っと。ロナント様。いつお越しになっていたんです?」

 扉をノックもなしに開けて入ってきたのは、ハイリンスとか言ったかの?
 弟子一号の友人兼仲間の一人じゃな。

「今さっきじゃ」
「急に転移してきたんだよ。ビックリするからやめて欲しいってさんざん言ってるんだけどね」
「転移の予兆もわからんようではまだまだということよ」

 弟子一号の愚痴を聞き流す。
 こうしてお忍びで会わねば、神言教がうるさいんでな。

「相変わらずな方だ」

 ハイリンスの小僧が嘆息しておるが、儂とて最低限の公序良俗はわきまえておるわい。

「で? 師匠もハイリンスも、何か用があってきたんじゃないんですか?」
「うむ。じゃが、ハイリンスの小僧の要件から先でいいぞい」

 儂の要件は大したことではない。
 ただのお節介じゃ。
 だったら後回しでもいいじゃろ。

「小僧。まあ、ロナント様から見れば小僧でしょうけど」
「小僧を小僧と言って何が悪い? 反論したけりゃまずは儂に勝てるようになってからせい」
「勘弁してください」

 小僧が苦笑し、さっと真剣な面持ちになる。

「ロナント様。これからここで話すことは一応軍事機密です」
「あい、わかった。ここで見聞きしたことは口外せぬと約束しよう」

 小僧としては、できれば儂に席を外して欲しかったのじゃろうが、儂が立ち去らないだろうと諦めてもおる。
 そこそこの付き合いじゃが、それくらい儂のことはわかっておろう。
 案の定、諦めた顔をして報告を始めた。

「斥候部隊が定刻に戻らなかった。始末されたと見るのがいいだろう」

 小僧の報告に、弟子一号が沈痛な面持ちになる。
 人族の最前線とも言うべきこの場にいる部隊は、そんじょそこらの部隊とは違う。
 精鋭中の精鋭。
 その斥候部隊が、何の情報も得られず戻ってこなかった。
 その意味するところは、相手がそれだけ危険であるということじゃろう。

「ふむ。戻ってこなかった部隊はいくつくらいじゃ?」
「全てです」

 なんとまあ。
 それは予想以上にやばいのう。

 斥候部隊は今回のような大規模な戦いの前では、いくつかの隊に分散して情報収集を図る。
 一隊が見つかって全滅させられても、他の隊が情報を持ち帰れるようにのう。
 しかし、今回その全ての隊が戻ってこなかった。
 ということはじゃ、相手は斥候の隠密能力を上回る索敵能力を有し、その上で斥候部隊を速やかに始末できるだけの実力があるということじゃろう。
 それも、分散した斥候部隊を同時に襲撃できるだけの数がおるということじゃ。

 斥候が部隊同士で連絡を取り合っていないはずもなし。
 どこかの部隊に異変が生じれば、速やかに撤退できるように訓練されていたはずじゃ。
 それをさせてもらえなかったということは、同時に襲撃されたのじゃろう。

 斥候部隊を発見できる索敵能力。
 斥候部隊を殲滅できる戦闘能力。
 それらを持った敵部隊が、少なくとも斥候部隊と同じ数だけ存在しておるということじゃ。

「厳しい戦いになりそうだね」

 弟子一号は沈んだ声でそうのたまった。
 大方犠牲となった斥候部隊の隊員のことでも考えておるんじゃろうよ。

「弟子一号」

 儂はそんな馬鹿弟子に説教をかますべく、低い声で呼びかけた。

「貴様のことじゃ、斥候部隊の犠牲者のことでも考えておるんじゃろうが、そんなことを考える暇があるのなら自分のことを考えよ」
「師匠! そんなことってなんですか!?」

 普段声を荒げることのない弟子一号じゃが、こと人の生き死にに関しては敏感になる。

「今考えるべきなのは斥候部隊の犠牲のことではないと言っておるんじゃ」
「師匠。師匠でも言っていいことと悪いことがあります。それ以上言うなら、許しませんよ」
「ほう? どう許さないと?」

 儂の威圧に、小僧が怯む。
 弟子一号は表面上動揺を見せなんだが、あくまで見せかけだけじゃな。

「貴様が、儂に、どう、許さないと? まさか、儂に勝てるだなどと思ってはおらんじゃろうな?」

 一言ずつあえて強調し、低い声で問いかける。
 唾を飲み込んだのは、弟子一号か小僧か。

「思い上がるでない。上には上がおる。貴様が勇者じゃろうとなんじゃろうとな」

 威圧を解き、杖で軽く弟子一号の額を小突く。

「斥候部隊のことにしてもそうじゃ。そやつらは己の仕事を全うして、力及ばず戦死した。その死を悼むのは間違っておらん。じゃがな、その死に貴様が責任を感じるのはお門違いじゃ。勇者じゃろうと何でもかんでも救えると思っておったら大間違いじゃからな? それとも、貴様が斥候に出てれば良かったなどと、そんな見当違いのことを考えてはおらんじゃろうな? それこそ死んだ連中の仕事を奪い、あまつさえそやつらを無能呼ばわりする最大の侮辱だろうて。まさかまさか、勇者ともあろうものがそんなクズ以下のゲスな考えをしてるわけもないわな」

 儂の指摘に、弟子一号は返す言葉が思い浮かばないようじゃった。
 言葉もなくうなだれる。
 昔っからこやつはそうじゃ。
 抱えんでいいものまで抱え込む。
 人が戦って死ぬのはいつだってそやつの責任じゃ。
 他の誰でもない、戦う本人だけの。
 それをこやつは、何を勘違いしておるのか全てを救わなければ満足しない。
 そんなこと、神でもなければ不可能であろうに。

「ユリウス」

 弟子一号ではなく、名前で呼ぶ。
 ユリウスが下げていた頭をゆるゆると持ち上げる。

「戦いの場では己のことを考えろ」

 他に気を取られているようでは、生き残れるものも生き残れぬ。

「上には上がおる。それはお主もよく知っておろう? 他者を守れるのは、強きものだけじゃ。貴様は弱い。この儂にさえ勝てぬほどな」
「そういう師匠は、強いからそう言えるんですよ」

 ユリウスの弱々しい反論に、儂はハッと笑ってみせる。

「儂よりも上はおるわ。それは貴様もよく知っておろう?」

 あのお方を共通して知るユリウスならば、わかっておるはずじゃ。
 儂ら人族などでは到底抗えぬ、そんな力が存在することを。

「良いか? 危うくなったら迷うことなく逃げよ。貴様は曲がりなりにも勇者なんじゃからの。勇者が逃げたという事実よりも、勇者が死んだということのほうが大問題じゃ。そこら辺よくよく頭に刻み込んでおれ」
「大丈夫ですよ。ユリウスはこの俺が守りますから」

 小僧がなにかほざいておるのう。

「弟子一号よりも弱っちい奴が言っても説得力ないのう」
「こりゃ、手厳しい!」

 ふざけた態度を取るのは、この場の空気を明るくするためじゃろう。
 このまま弟子一号が沈んだまま戦場に向かうことがないよう、気持ちを上向けさせようとしておる。
 戦闘力はちと頼りないが、良き友を持った。

「ふふ。それじゃあ守ってもらおうかな」
「おう。安心するがいい」

 小僧の目論見通り、弟子一号は少し気分を持ち直したようじゃ。

「それにしても、ロナント様。弟子が気がかりで叱咤しに来るなんて、可愛いところがありますね」
「べ、別にそんなことを思っとらんわ!」

 何を言っておるんじゃコヤツは!?
 弟子一号のいい友とか思ったが、儂の勘違いだったようじゃな!

「ほら。照れてる照れてる」
「照れとらんわ! まったく! 儂は帰るぞ!」
「ええ。師匠、今日はありがとうございました」
「ふん」

 転移を発動し、その場を後にする。




 それが、儂とユリウスの今生の別れじゃった。
参考資料
ま、待ってくだされ! 時点のロナント:魔法系ステータス1500物理系ステータス300
エルフの里戦時点のロナント:魔法系ステータス4000物理系ステータス400

成長期過ぎたどころかあとはもう下降してくだけの老人のくせに魔法系ステータス倍以上にしたHENTAI。

ユリウス:平均ステータス2600

クニヒコやアサカよりもちょい強いくらい
+注意+
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