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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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人魔大戦 メラゾフィスの場合

 メラゾフィスという男は凡人である。
 それを魔族の彼の部下が聞けば鼻で笑うだろうが。
 誰がたった一人で戦況を覆しかねないほどの力を持った男を凡人などと言えよう。
 それでも、彼はまごうことなき凡人だ。
 ただ、その凡人である彼の人生は平凡ではない。

 彼に特別な才能はない。
 何をやらせても人並み。
 それは逆に言えば、何をやらせても人並みにはできるということでもある。
 よく言えばなんでもできる。
 悪く言えば器用貧乏。
 そんな何をしても人並みにこなせる器用な彼は、いろいろな技能を身につけていた。

 彼がそうなった経緯は、彼の生い立ちに関係している。
 彼の家は代々ある貴族に仕えることを生業にしてきた。
 当然のように彼もその貴族に仕えることが定められていた。
 そこで、彼は運命の出会いを果たす。

 その貴族のお嬢様と。
 彼女とメラゾフィスは、始めは従者と主人という間柄ではなく、幼馴染のようにして育った。
 その過程で、彼はお嬢様に淡い恋心を抱いた。
 しかし、それは叶わぬ恋。
 彼女には幼い頃から婚約者がおり、しかもその婚約者と彼女は相思相愛の仲だった。
 彼に間に割って入る余地はなかった。
 割って入ろうとも思わなかった。
 彼は、想い人が幸せならそれでよかったのだから。

 メラゾフィスはそんな彼女を支えるべく、従者としての己を磨いた。
 時間があれば手当たり次第に役に立ちそうな技能を磨き、勉学に励む。
 その働きを認められ、彼女の婚約者にも信頼された。
 そして、彼女が嫁ぐ際にも、彼は共についていった。

 彼女の婚約者は、そんなメラゾフィスの想いを知っていた。
 知っていたからこそ、メラゾフィスのことを信頼していた。
 メラゾフィスならば、彼女を決して悲しませないと確信していたから。
 同じ女性を愛した者同士で、何か通じるものがあったのだろう。

 だからこそ、最愛の娘を託した。
 もうどうしようもなかったから。
 メラゾフィスの愛する彼女と、その夫は、どうあっても逃げられなかった。
 物理的にも政治的にも、逃げ場を失っていた。
 娘だけはと、最も信頼を寄せるメラゾフィスに託したのだ。

 メラゾフィスは、その気持ちを受け取った。
 愛する女性を守れない、己の無力さを噛み締めながら、それでも彼女の娘は守ってみせると、固く誓って。

 その誓いさえ、呆気なく踏みにじられた。

 彼は何もできなかった。
 何もできず、守るべき存在から力を借りる始末。
 人であることを捨て、それでも無力に打ちのめされた。

 一度盗賊に為す術もなく倒されてから、メラゾフィスは剣の素振りを毎朝欠かさず行っていた。
 それで劇的に強くなれるはずもない。
 それでも、無力な自分を少しでも変えたくて、今度こそお守りできるようにと、ひと振りごとに魂を込めて振り続けた。

 その努力も、やはり実らなかった。
 どうあがいたところで、メラゾフィスは凡人。
 もとより戦うことを生業にしていたわけではなく、才能のない彼が剣を振ろうとも、守れるものなどたかがしれていた。

 それでも、彼は死ななかった。
 二度も、とある蜘蛛に救われて。
 あるいは、その時彼は一度死んだのかもしれない。
 大切な、愛する女性を失って。

 その後の彼の人生は、愛する女性の忘れ形見を守るために費やされた。
 その成長を見守り、そばにいる。

 しかし、メラゾフィスのお嬢様は、只人ではなかった。
 転生者、しかも人ではなく吸血鬼の始祖。
 メラゾフィス自身も、お嬢様の手によって吸血鬼となった。

 転生者のステータスやスキルの上がり方は、この世界の普通の人間よりも大きい。
 それに加え、お嬢様は赤ん坊の頃から過酷な旅路を強制され、ステータスを伸ばされていた。
 ステータスの伸びが最も高いのは、幼少時。
 成長とともにその数値は徐々に下がっていく。
 その幼少時に、普通ならば考えられない、虐待とも言える過酷な環境に身を置いていたお嬢様のステータスは、同じ転生者でさえもはるかに上回るまでに成長していた。

 同じ環境に身を置きながらも、メラゾフィスのステータスの伸びはお嬢様より低い。
 それは彼がこの世界の人間であり、同時に成人していて成長期を過ぎていたことが原因。
 吸血鬼に生まれ変わったことによって、彼のステータスは人であった頃よりも伸びているが、それも規格外なお嬢様から見れば誤差のようなもの。
 メラゾフィスは、守るべきお嬢様よりも弱くなってしまっていた。

 それでも、メラゾフィスのやることに変わりはない。
 魔王にお互い依存しすぎないようにと引き離されようと、思うのはお嬢様のことだけ。
 お嬢様をお守りする、それだけ。

 だから、力がいる。
 お嬢様は既に自分では及ばない程の力を持っている。
 だからといって、自分が力を持たなくていいはずがない。
 少しでも、せめてお嬢様の足を引っ張らない程度には、力をつけなければならない。

 メラゾフィスはそうして、毎日鍛錬を欠かさなかった。
 それは常人が見れば目を疑っただろう、過酷な内容の鍛錬。
 常人であれば、すぐさま体を壊すか、精神を病むほどの。
 それを可能にしたのは、魔族領にたどり着くまでの過酷な旅路による経験。
 常識外れの蜘蛛が施した、常識外れの鍛錬。
 その旅路で鍛えられたスキルをフルに使い、メラゾフィスは地獄とも言うべき自己鍛錬に励み続けた。
 彼も気づかぬうちに、常識から外れていた。

 状態異常無効のスキルにより、睡眠を必要としなくなり。
 HPMP自動回復により体が壊れることも厭わず。
 壊れたら壊れたで治療魔法のスキル上げができると喜ぶ。
 仕事中ですら魔力操作や気闘法などの傍目にはわからないスキルの強化に費やし。

 そして、メラゾフィスの平均ステータスは5000にまで伸びた。
 それは、下位龍種と互角以上に渡り合えるだけの、この世界では十分すぎるほどの力。
 それでも彼は満足しない。
 お嬢様は、そのさらに三倍ほどの力を有しているのだから。



「バルト様に報告を」
「はっ!」

 メラゾフィスは敗戦の報告を部下にさせていた。
 メラゾフィス個人としても、戦場全体として見ても、此度の戦いは敗戦だった。

 巡りあわせが悪かった。
 戦える転生者二人に、援護に人族最高クラスの魔法使い。
 三人がかりの上に、太陽の輝く昼間。

 転生者は殺すわけにはいかない。
 太陽の光で弱体化した状態で、相手を殺さないように戦わなければならない。
 戦いの才能のない凡人にはなかなかに厳しい注文だった。
 それゆえに、ステータス上は優っているはずの相手に長々と戦い続け、不利になる戦場のフォローもできなかった。

 転生者二人が強かったのももちろんある。
 メラゾフィスは鑑定のスキルも保持している。
 それは蜘蛛の方針であり、その有用性から彼も長い年月をかけて徐々にレベルを上げていた。
 その鑑定が見破った転生者のステータスは、上位竜クラス。
 スキルのことを考えれば、下位クラスの龍種に届くかもしれないと思わせるものだった。
 少年の方は物理よりの平均ステータス2500前後。
 少女の方は魔法よりだが、少年同様平均ステータス2500前後。
 ステータスは単純な足し算では測れないが、二人合わせればその数値はメラゾフィスに並ぶ。

 その上で、援護の魔法射撃。
 そちらは距離があったこともあって鑑定はできなかったが、メラゾフィスは魔法攻撃力2000は下らないだろうと予想している。

 トップクラスの人族のステータスは1000を超えるかどうかといったライン。
 それを大きく上回っている三人が相手だったのだから、メラゾフィスの苦戦も頷けるものだった。
 現に、メラゾフィスが相手をする前に、転生者二人は魔族の軍勢を蹴散らしており、魔法使いは大魔法で大きな打撃を与えている。
 それらの被害の立て直しができず、敗戦に至ったといっても良かった。

「軍団長、お怪我が」
「かすり傷だ」

 メラゾフィスの胸には穴が空いている。
 最後の最後に油断し、狙撃されてしまったものだ。
 が、本人の言うとおり、鎧こそ貫通しているものの、肉体にはかすり傷しか付けられていない。
 メラゾフィスの魔法防御力はおよそ5000。
 魔法の直撃を受けようとも、それが皮膚を貫通し、心臓に届くということなどありえない。
 尤も、それが心臓に届いたとしても、メラゾフィスを倒すことなどできなかっただろう。

「私もまだまだだな」

 彼の呟きを、部下たちは遠い目で聞き流した。

 メラゾフィスという男は凡人である。
 目立った才能は一つもない。
 ただ、彼に才能というものがあるとすれば、それは耐え忍ぶ才能だろう。
 努力の才能では足りない。
 努力などというものを超越した地獄の果てに、今の彼があるのだから。
 誰が好き好んで毎日死の一歩手前まで己を虐め抜くだろう?
 それをなしてしまう男の才能は、努力の才能と呼ぶにはいささか物足りない。

 それを示すが如く、彼はあるスキルを最近手に入れた。
 忍耐という、そのスキルを。

 メラゾフィスという男は凡人である。
 ただ、凡人が平凡であるとは限らないという、それだけの話。
参考資料
エルフの里戦時
シュン:平均ステータス3000
カティア:平均ステータス1800
先生:魔法系ステータス1500、物理系ステータス500

勇者の称号がなかったらシュンよりもクニヒコとアサカの方が強いです。
先生は戦闘よりも生徒の捜索に力を入れていたため、実はシュンとカティアに追い抜かれてました。
+注意+
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