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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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269 それぞれの決断

本日三話目
「本当に、それ以外どうしようもないんですか?」
「ない」

 震える声で質問してきた鬼くんの希望を、バッサリと切り捨てる。
 既にこの世界は終わりに片足を突っ込んでいる。
 もはやなんの犠牲もなく円満に解決することなだ不可能。
 そこまで泥沼になってしまっている。

「ねえ、スキルを多く持っているってことは、私たちも死ぬってこと?」

 吸血っ子の声は震えていない。
 けど、瞳が揺れ動いていることから、動揺しているのはわかる。

「システムの魂保護機能を拡張して、転生者だけは助かるように改良中」

 まだ完成はしてないけど、システムを崩壊させる時までには間に合うようにしている。
 というか、それが完成しなかったらシステム崩壊も遅めるつもりでいるから、心配する必要はない。

「だったら、それを全世界の人間に適用すれば!」
「不可能。それをするには余剰エネルギーが大量に必要」

 それこそ、神をもう一人犠牲にするくらいの量のエネルギーが必要になる。
 そんなエネルギーがあるのなら、素直にシステムにぶち込んだほうがいい。

「システムが崩壊したあと、この世界はどうなるの?」
「さあ?」

 そんなことは知らん。
 私に課せられた任務は、魔王の手伝いをするということ。
 システムがなくなったあとのこの世界の行く末まで見守るつもりはない。

「こっちは真面目に聞いてるんだけど?」
「真面目に答えてる」

 システム崩壊後の世界がどうなっていくのか、それはこの世界の人間たちの決めることで、私は知ったことではない。
 そのまま人魔で争い続けるもよし。
 崩壊していた半球を復興させるべく動くもよし。
 何をしてもそれはこの世界の住人の勝手だ。
 その先に、また崩壊が待っていたとしても、救ってくれる女神様はもういないけど。

「白さん、システムがなくなった後の死者は、どうなるんですか?」
「通常の輪廻の輪に戻る」

 システムがある時は、この世界で死んだ魂は、そのままこの世界で生まれなおす。
 けど、それは本来ならば不自然な魂の流れ。
 死んだものは輪廻の輪を巡り、あらゆる世界で生まれなおすのが通常。
 システムがなくなればその通常の状態に戻るだけ。

「じゃあ、システム崩壊前に死んで、生まれなおす前にシステムが崩壊した場合は?」
「その場合も輪廻の輪に戻る」

 システムはあくまで魂の一時保管場所。
 それがなくなれば、みんなこの世の摂理に従って輪廻の輪に戻っていく。
 システムが崩壊しようと、それに巻き込まれて魂が崩壊するなんてことはない。
 ただ、生きている時にシステムが崩壊すると、スキルを引っこ抜かれるその反動で死んだり魂が崩壊したりする。
 ぶっちゃけ、生きてるよりも死んでたほうが安全だというこの矛盾。
 まあ、死ぬことに変わりはないから、あれだけど。

「そうか。死んでたほうがいいのか」

 鬼くんもそれを理解したらしい。
 そして、決意したようだ。

「わかった。白さん、僕は白さんに協力するよ」

 鬼くんがそう言って手を差し伸べてくる。
 お、おう。
 これは、あれか?
 握手的なあれか?
 応じなきゃ変よね?

 恐る恐る手を伸ばし、握手。
 なんか変な感じだ。

 と、妙な気恥ずかしさを感じてたら、鬼くんと繋いだ手を吸血っ子が引き剥がした。
 そんでもってその手をガシッと掴んでブンブンと振る。
 何がしたいんじゃコイツは?

 ひとしきりブンブンして満足したのか、吸血っ子が私の手を離す。
 んでもってなぜか鼻息荒く鬼くんのことを睨んだ。
 何へんな対抗心燃やしてんだろう?

 呆気にとられる私の手を、今度は魔王がとった。
 いつもヘラヘラと笑っている魔王らしくなく、顔を俯けている。

「白ちゃん」

 消え入りそうな声で、私の手を取りながら、私のことを呼ぶ。

「白ちゃん」

 もう一度囁いた時、私の手に水が落ちた。
 その水の雫は一滴だけじゃなく、次々と私と魔王の手に落ちる。

「ごめんね」

 その謝罪は、何の意味だったのか。

「ありがとう」

 その感謝は、何の意味だったのか。

 ただただ、魔王は泣き続けた。

 たった一人、女神を想い続けた魔王。

 神でもなく、人でもなく、魔でもなく。

 彼女は弱かった。

 女神を救う力もなく。

 彼女は強かった。

 たった一人、女神の理想を胸に世界を見守り続けた。

 かつての仲間は既になく。

 それでも一人、孤独に戦い続けた。

 そして、己の死期を悟った魔王は、初めて女神の意思に反した。

 女神の意思に反してでも、女神を救うために。


 私はその覚悟と想いを見た。
 あくまでもそれはマザーを始めとした魔王の配下の魂を食らったことで垣間見た、眷属から見た彼女の姿だけれど。
 それでも、本物の彼女の想いは確かに見えた。

 私は、女神を救いたいとは思わない。
 正直に言うと、女神自身はむしろ嫌いだ。
 そのあり方に反吐が出る。
 そのあり方を認める気持ちはあれど、好きにはなれない。

 ただ、私は魔王の願いを叶えたかった。
 この、弱くも強い少女の願いを。
 私みたいなチートを持たない、真に弱かった彼女。
 それでも生き続け、抗い続け、守り続けた強い彼女。
 その彼女の、最期に華を添えたい。

 魔王アリエル。
 彼女の魂は限界を迎えていた。
 相手の魂の一部を経験値という形で取り込むシステム。
 それは、本来の己の魂を歪める、不自然な進化の形。
 魔王の魂は、長い時を経て、多くの経験地を溜め込んだ。
 それは魔王を強くし、けれど、その魂を歪に膨らませていた。
 彼女は神へと至れなかった。
 その魂が、神へと至ることに耐えられなかった。
 魔王の魂が崩壊するのは、もはや時間の問題になっていた。
 だから、最期に大仕事をするために、彼女は魔王になった。

 最初はDに無理矢理押し付けられて。
 だけど、一緒に旅をして、美味しいものを食べさせてもらって、一緒におしゃべりして。
 そうするうちに情が湧いたとでも言えばいいのか。
 私は、魔王のその意思を尊重し、願いを叶えたい。
 女神を救いたいという、その願いを。
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