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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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鬼と忍者

鬼くん視点
 会議室から出て、案内されたのは草間の私室だった。
 広さにして六畳といったところかな。
 けれど、衣服や、何に使うのかさっぱりわからない謎の物体の数々が散乱しているため、実際の広さよりもだいぶ狭苦しく感じる。
 言っちゃなんだが、汚い。
 床が見えないってどういうことだよ。

「草間、掃除しろよ」
「悪い悪い。人をこの部屋に入れることなんかないからさー」

 悪びれもせずたははと笑う草間に、怒る気力もなくなる。

「とりあえず座るか?」

 ゴミの山をかき分けて、椅子を引っ張り出す。
 そこ以外だとベッドしか座れそうな場所がなかったので、ありがたく座らせてもらう。
 草間は案の定ベッドに腰掛けた。
 そこしか座る場所がないもんな。

「とりあえず、久しぶり」
「おう。この前は話す暇もなかったもんな」

 前回の会談の時は、顔を合わせはしたけれど、一言も喋ることなく撤収してしまった。
 なので、こうして対面で会話をするのは前世以来初めてのことだ。
 本当に久しぶりだと言える。
 特に、僕の場合男の転生者で、それなりに仲の良かった相手というのは初めてのことだ。
 白さんもソフィアさんも、転生前は交流があったわけではないし、話が盛り上がるということもなかったから余計にこの再会はなにかこみ上げてくるものがある。

「マジで久しぶりだよなー。今までどうしてたん?」
「それは話すとだいぶ長くなるなあ」

 この世界ではいろいろなことがあった。
 それを話し始めると、相当長くなる。
 久しぶりに再会した友人との会話を楽しみたい気持ちもあるけれど、ずっと話し続けるわけにもいかないだろう。
 それに、どうしたって僕の過去を話すと暗い話しになってしまう。
 せっかくのこの機会を、暗い雰囲気にしたくなかった。

「ていうか、魔族として参戦するとかマジなん?」
「マジなつもりだよ」
「えー。やめとけよ。戦争とか正気じゃねーだろ」

 心底嫌そうな顔をする草間に、苦笑が漏れる。
 どうやら草間は今まで僕ほど過酷な境遇は味わってこなかったらしい。
 戦争を忌避するその態度が、僕には羨ましく、また眩しく映った。

「草間は参戦しないの?」
「しないしない。戦争とか命がいくつあっても足りないだろ。させられそうになったらとんずらするわ。あ、これオフレコな」

 仮にも人族の代表とも言える組織である神言教の中枢に在籍している人間とは思えない軽い態度で参戦を否定する。
 自由でいいなあ。
 そのくせ、こいつはきっといざとなったら流されて参戦することになってしまうんだろう。
 草間はそういう奴だった。
 長いものに巻かれて美味しいところだけ持っていこうとして、逆に貧乏くじを引く。
 そんな奴だ。

「それにしても、会談中、緊張しすぎじゃないか?」
「バッカ! オメエあんなん緊張するなって方が無理だろ! なんで俺あんな場所にいんの? マジで場違い感半端ねーんだよ」

 相変わらずの小市民っぷりに安心する。
 変わっていないな。
 本人も言うように、学校の授業中に当てられただけで緊張していた草間が、あのピリピリとした雰囲気の会談で緊張するなという方が酷なのかもしれない。

「むしろあの中で堂々と発言できるお前がすげーよ」
「はは。なんか一周回って振り切れちゃったのかもね」

 それをやけっぱちとも言うかもしれないけれど。
 あれでも草間とは違った意味でかなり緊張しながら発言していたんだけどな。
 一歩間違えれば消されるかもしれないという緊張感で。

「なあ、笹やん」

 草間が前と同じように呼びかけてくる。

「あ、すまん。できればラースって呼んでくれ」

 草間になら前と同じように呼んでもらってもいい気もした。
 けれど、僕はやっぱり前の名前を名乗りたくない。
 それは、言ってしまえばつまらないこだわりみたいなものだけれど、どうしても、前世の名前と今世の親にもらった名前は、今の僕に名乗る資格が無いと思えてしまう。

「笹やん、いつの間に厨二病に目覚めたん?」
「そういうわけではないんだけどね。ちょっと複雑な事情があってできれば本名で呼ばれたくないんだ」
「ふうーん。まあ、そう言うなら」

 納得したわけではないだろうけど、草間は了承してくれた。
 けど、厨二病か。
 ソフィアさんにも言われたけど、地味に凹む。

「あ、でさあ、笹、あーっと、ラース? まさかとは思うけど、お前若葉さんとつきあってるとかそういうことはないよな?」
「は?」
「は? じゃねーよ! お前学校の麗しの女神若葉さんの横にいるとかどんだけだよ! 他の連中が知ったらお前殺されるぞ!? たとえつきあってるという事実がなくてもだ!」

 あ、あー。
 確かに白さん、というよりも前世の若葉さんはもてた。
 ただ、近寄りがたい雰囲気のせいで告白だとかそういったことをする奴がいなかっただけで、遠巻きに崇められていたのは事実だ。
 その若葉さんの近くにいるってだけで、一部の連中には殺意を向けられるかもしれない。

「大丈夫。そんな甘い関係じゃないから」

 今の白さんを知る身としては、間違ってもそういう感情を持つことはないだろう。

「よし。ならば若葉さんに変な虫がつかないように監視してろよ! お前だけが頼りだからな!」
「はいはい」

 適当に流しておく。
 どうせ僕が何もせずとも、白さんに彼氏ができるとは思えない。
 白さん、そういうことに興味がなさそうだし。

「ていうかさ、若葉さんにしろ、笹、ラースにしろ、なんで顔前と変わってねーの? 俺の知ってる限りだと生まれ変わったら顔も変わるはずなんだけど」
「それは僕もよくわからない」

 そう願ってこの顔になったわけじゃないし。

「共通点は、僕も白さんも元は魔物だったってことかな。魔物から進化して人型になると前世の顔になるとか?」
「そういや、若葉さん、迷宮の悪夢とか呼ばれてる魔物だったらしいな。爺が言ってた」
「爺?」
「教皇」

 なんでこいつは会談の席であれだけ緊張しまくってたくせに、大組織の長を爺呼ばわりできるんだろう?
 そこらへんの基準がいまいちよくわからない。

「俺も話し聞いただけであれなんだけど、若葉さん相当やらかしてるって本当?」
「本当だよ。ちょっと怖いくらいね」

 草間が白さんに抱く幻想を壊すようで申し訳ないけど、白さんが色々とやばいことに手を出しているのは事実。
 その口から虐殺をしていると聞いているし、これからもすると宣言されている。
 僕にはそれを止めることはできないし、これからはそれを手伝う立ち位置だ。

「あの若葉さんがなあ。それはそれでありだな」

 ありなのか。

「若葉さんなら何をしても何かありえそうって思っちゃうじゃん?」
「そういうもんかね」

 確かに、前世の頃から若葉さんは謎めいていたけど。

「それでも生まれ変わって変わった気がするな」
「そりゃ、そうだろ。もう十年以上経ってるんだぜ? 変わりもするだろ」
「そういう草間はあんま変わってないけどな」

 墓穴掘ったー、とベッドに倒れこむ草間。
 むしろ、僕はそんな変わっていない草間の態度にホッとしているんだけど。

「そういや変わったって言えば、リホ子の奴、変わりすぎじゃね?」
「あら? それは誰のことを言ってるのかしら?」

 思い出したかのように言った草間の言葉に、第三者の声が答える。
 ギギギッ、と音がしそうな感じで首を巡らす草間の動きに合わせ、僕も同じような感じで後ろを振り向く。
 そこには、ものすごく怖い笑顔を浮かべたソフィアさんが佇んでいた。
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