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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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非公式会談⑦

吸血っ子視点
 私に家族はいない。
 あえて言うならばメラゾフィスがそれに近いけど、彼と私に血縁上の繋がりはない。
 血の繋がった家族が、私にはいない。
 なぜなら、神言教に殺されたから。

 一度会ったきりの祖父母はまだ生きているかもしれないけれど、今会っても血縁者という実感は湧かないと思う。
 実の両親でさえ、転生した私にはどこか他人に感じられ、血縁者だという実感がなかったのだから。

 それでも、私の両親は、私のことを愛してくれていた。
 戦争もなく、平和に過ごしていれば、あの優しい両親のもとでつつがなく暮らしていたかもしれない。
 メラゾフィスも吸血鬼になることがなく、私を逃がす時に犠牲になったノイリアも死なずに済んだかもしれない。
 ノイリアだけじゃない。
 両親と一緒に、最期を迎える覚悟を決めた屋敷の従者たちも多かった。

 戦争さえなければ、あの街で、あの屋敷で、両親と従者に囲まれ、吸血鬼であることを隠して、普通の人間のように暮らす。
 そんな未来があったかもしれない。

 吸血鬼であることをもう私は捨てられない。
 けど、違う未来があったのなら、もしかしたら人として生きる道もあったんだと思う。
 貧弱な私の想像力じゃ、それが幸せだったのかどうか、わからないけれど。

 それでも、私が一つの未来の可能性を奪われたことに違いはない。
 今まで国と国との戦争なんて、スケールが大きすぎて何を恨めばいいのかもわからなかった。
 そのモヤモヤをご主人様への不満に変えていたのは否定できない。
 そうでもしないと、私の中で渦巻く黒い感情を整理できなかった。

 そうして時間をかけて整理した感情。
 だけど、今目の前に、その元凶となった存在がいる。
 ご主人様に向けていた八つ当たりとは違う。
 正真正銘の、戦争を引き起こした元凶。
 私の両親を殺し、私の居場所を奪い、私の未来を奪った存在。

「なぜ、サリエーラ国に戦争を仕掛けたの?」

 溢れ出そうになる殺意を押し込め、そう問いただす。
 私は今まで、あの戦争は宗教上の対立がもとで起きたものだと思い込んでいた。
 けど、今日の会談とか、事前に議論し合ったラースとの話で、神言教がただの宗教組織じゃないってことがわかった。

 わかったからこその疑問。
 どうしてあのタイミングで戦争を仕掛ける必要があったのか?

 だって、宗教上の諍いなんて、神言教にとっては取るに足らないもの。
 神言教は宗教の形をとっただけで、実際には世界を救うために奔走する集団。
 それだけ聞くと確かに宗教っぽいけど、神に祈って救いを待つなんてことはしない。
 自らの足で、問題解決に向けて動いている。

 その神言教が、女神教の力を落とそうとする理由がわからない。
 だって、宗教戦争というものはどうしたって泥沼になるもの。
 それはむしろ、戦いを長期化させて、戦える兵士を多く育てては死なせたい神言教にとって、望んでいる展開のはず。
 それなのに、あの戦争で神言教は、明らかに女神教の力を落とすために行動していた。
 神言教としては、女神教にある程度の力を持たせていたほうが都合がいいはずなのに。

 少し力を落とさせるなんてことじゃなかった。
 そう確信できるのは、アリエルさんが私を助けてくれたあの時、ハッキリと神言教は女神教を叩き潰す気でいたと言ったから。
 あれだけ断言していたということは、それだけの根拠があるってことだと思う。

 私がそんなことを覚えているのは、アリエルさんが「どうしようもない世界の流れ」と、あの戦争のことを言ったから。
 ついで、次にどうするかが重要と。
 当時の私は赤ん坊で、何もできなかった。
 次に同じようなことがあった時、抗うか諦めるか、それが重要なんじゃないかとアリエルさんは語った。
 そして、私は答えた。
 抗う、と。

 あの時から、私はステータス上では随分強くなった。
 この場にいる、ご主人様とラース以外は問題なく片せると確信できるほどに。
 教皇の返答次第では、どうなるかわからない。

「女神教は女神を信仰しております。そこには一般市民に知られてはならない真実が含まれています。それを握り潰すために、女神教ごと潰す。と、まあ、神言教のこの場にいない上層部でも思われているでしょうな」

 教皇の言葉に、思わず瞬きをしてしまった。
 そんな理由で私の両親は殺されたのか、と勢いこんだ感情が、拍子抜けで萎んでいく。

「それも目的の一つではありましたが、本質は別のところにあります」

 萎んだ感情を突かれるかのように、鋭い教皇の言葉が耳に飛び込んでくる。
 その声に込められた重さが、意表をつかれた私を驚かせる。

「我々神言教は、女神様亡き後を想定し、女神教を前もって潰すことにしたのです」

 ゾワッと、背筋が泡立つ。
 教皇の覚悟の重さ。
 そして、隣から感じられる、微かな怒り。
 その両方を感じ取り、私は言葉を失った。

「このままいけば、女神様がその身を削ってMAエネルギーを補充することになるのは必至。そうなれば、今までシステムを支え、この世界を救い続けてきたかのお方の身がもたないのは誰が見ても明らかでしょう。であれば、女神様の寿命は残り少ないと予想されます。そして、女神様亡き後、その後釜に黒龍様がつくことも」

 ラースがハッとしてご主人様の顔を見る。
 ご主人様はそんなラースの反応を無視して、教皇を見続ける。
 その閉じた目で、けれど真剣に。

「黒龍様がシステムの人柱となられれば、我らが掲げる神言の声も、もちろんのこと女神様のそれから黒龍様のものへと変わります。その時、神言教は大いに荒れるでしょう。我々はその時に備えなければならないのです。神が代替りしたとつつがなく発表するために」

 神言教はシステムメッセージを神の声とし、その声を聞くために頑張りましょうという教義。
 その神の声がいきなり変われば、それは神言教の根幹を揺るがしかねない、大事件となる。
 神言教への不信感はどうあがいたって芽生えるでしょう。
 それに備えるというのは理解できる。
 けど、それと女神教を滅ぼすことと、どう関係があるの?

「混乱を最小限にするためには、どうしても必要なのですよ。女神様がこの世界からいなくなったと、その事実を発表することは。だから、その女神を信奉する女神教は、どうしても衰退させなければならなかったのです」

 教皇は続けた。
 生きる気力を、なくしてしまいますから、と。
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