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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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非公式会談⑤

鬼視点
 白さんには悪いけど、この場を利用させてもらう。
 神言教がどういった宗教なのか、それは待ち時間でソフィアさんに教えてもらった。
 そこからの推測と、教皇を名乗る老人の言葉で、神言教が世界のシステムに関して相当深い理解があると判断。
 それならば、彼らの知るところの世界の現状とやらを教えてもらおう。

 僕の知る情報は禁忌によるところと、白さんが教えてくれたものだけ。
 禁忌の情報に偽りはないとしても、白さんの情報に偽りがないとは言い切れない。
 今は第三者の意見が聞ける貴重な席なのだから、これを利用しない手はない。

 かと言って、ここであんまり僕の私情を優先して、交渉が白さんの不利に働くような事態になるのはまずいな。
 僕は白さんの厚意で生活できているんだし、生かされてるとも言える。
 ここで白さんの不興を買えば、良くて放逐。
 悪ければ殺されてもおかしくない。
 白さんの真意がこの会談中にわかればいいけど、それで僕のことを始末すると言う流れになるのはまずい。
 どうにか、白さんの腹を探りつつ、機嫌を損ねないように、かつ神言教に対して有利になるように交渉を進める。
 なかなかどうして、無茶振りにも程がある。

 僕は前世では一介の高校生に過ぎなかったし、今世ではそもそもまともな暮らしをしている期間の方が短い野生児。
 それが、世界の管理者を名乗る白さんと、人族最大の宗教組織である神言教のトップを相手取らないといけないなんて。
 ちょっと難易度高すぎるかな。

 正直、どこまでが白さんに許されるボーダーラインなのか、それすらもわからないし、慎重に話を進めていく必要がある。
 場合によっては、白さんの真意を確かめるのは諦めて、神言教との対話に集中しなければならないだろう。
 まあ、いざとなれば神言教は白さんが抑えてくれるだろうし、心配はしてない。
 僕が気にすべきことは、どこまで白さんの内側に踏み込めるか。
 そこを見極めないと。

「魂の摩耗に関して、神言教ではどこまで把握していますか?」

 まずはそこらへんから切り込んでいく。
 神言教がどこまで把握しているのか、僕は知らないし、知っているのも白さんから与えられた情報のみ。
 どれが正しくて、どれが正しくないのか。
 それすら判断できない。

 白さんの顔色を窺う。
 変化なし。
 これは、続けても大丈夫だということか?
 白さんは表情の変化がないから読みにくい。

「神言教としては危機的状況にないと判断しております」

 ん?
 教皇の言葉に違和感が。
 これは、もしや魂の摩耗に関しては全く何も把握してないんじゃないか?

 白さんの話が本当なら、既に来世を送れるかも怪しいほど、魂が摩耗している人々がたくさんいる。
 なにせ、僕が憤怒に囚われて虐殺していた人々こそ、そういった理由で隔離されていたのだから。
 彼らの隔離にはもう一人の神だという、あの僕を一方的に叩きのめした黒い男が関与しているという。
 だとすれば、これは真実の可能性が高い。
 もしそれが嘘ならば、僕があの黒い男に直接確かめればそれが露呈する。
 そのリスクを考えずに、嘘に他人を持ち込むわけがない。
 僕がそう思い込むのを見越してだとか、黒い男に会う機会がないからだとか、そもそも黒い男もグルだとか、否定することはいくらでもできるけど、全部を全部疑っていたらキリがない。

 世界の住人の魂の摩耗が本当の話だと仮定して、教皇の言葉はあまりにも現状を理解できていない。
 既にあれだけの数の人間が来世を遅れるかもわからないという末期に近い状況なのに、危機意識が低すぎる。
 だとすれば、この件を全く知らないのではないか?

「危機的状況にない、ね。既に万を越える人々が来世を送れるかも怪しいというのに?」

 教皇の瞳に動揺が浮かぶ。
 それも一瞬のことですぐに平静を装ったが、それができたのは教皇だけ。
 他の神言教のメンバーは動揺を隠しきれていない。

 まずったかもしれない。
 神言教が知らないようなこんな絶好のカードを、序盤で切ってしまった。
 しかも、何の交渉もせずに。

 それだけならまだいい。
 問題は、白さんがあえてこの情報を神言教に伝えていなかった場合。
 僕は勝手に相手に貴重な情報を与えてしまったことになる。

 チラリと横を確認する。
 白さんは動かない。
 だとしたら、セーフということか?
 まだ僕は白さんの逆鱗には触れていない。
 交渉で不利になるような情報は与えていない。
 そう思いたいけど……。
 表情が読めないのがこんなに心臓に悪いというのも、相手が白さんならではだな。

「それは、本当のことですかな?」

 取り繕っても仕方がないと判断したのか、教皇が重い口を開く。

「管理者ギュリエディストディエスがその件には関与しています。彼の名をこの場で借りて、それが真実であると誓いましょう」

 僕の代わりに、白さんが教皇の問いに答える。
 あの黒い男の名前を出したということは、この話は本当だということで間違いないだろう。
 仮にも管理者である彼が、僕らを謀るためにそんな嘘をつくとも思えない。
 それは、教皇の目が鋭く光ったことからも推測できる。

「率直な意見をお聞きしたい。白様の見立てでは、どの程度この世界はもちますかな?」

 教皇が問いただす。

「近いうちに崩壊するでしょう」

 教皇の問いに、白さんの出した答えは曖昧なものだった。
 正確な数値を出すことなく、近いうちと言う。
 それは、僕に渡された本にも書いてあった文言。
 嘘は言わないかわりに、真実も話さない。
 そんな風に取れる言葉。

「具体的にはどの程度と教えていただくことはできないのですか?」

 僕が感じたことを、教皇も思ったらしい。
 口調は厳しいものではないのに、言い逃れは許さないという、そんな副音声が聞こえてきそうだった。

「それを私に聞くのはお門違いでしょう」

 その教皇の言葉を、バッサリと切り捨てる。

「勘違いしないでいただきたいのですが、私はそもそもこの世界にとって部外者です。厚意でこの世界を救う手伝いをしようとしてはいますが、本来であればあなた方だけで解決しなければならないことのはずです。今更部外者である私に危機を知らされて慌てふためくようでは、明日世界が滅びると言われても何もできずオロオロするしかできないでしょう」

 その言葉には、部外者にすら知られている世界の危機すら察知できないのか? という皮肉が込められているかのようだった。
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