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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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258 吸血姫に活力を

 神言教はこれでよし。
 何日か間を開けて再訪問しよう。
 その時に答えを聞けばOK。

 しかし、ここで問題が。
 こっちの言いたいことは本で伝えることができたけど、答えを聞くには本じゃどうしようもない。
 そりゃね、向こうさんがこっちの事情を理解して本にして返してくれるなんてありえないしね。
 なにその交換ノートみたいなの。
 交換ノートってもっと甘酸っぱいものなんじゃないの?
 何が悲しくて世界の命運を真剣に語り合った交換ノートをせにゃならんのさ。
 しかも相手お爺さんだし。
 渋いおっちゃんならありだけど、流石にあんだけ歳いっちゃってるとねえ。

 そういうわけで、聞き役兼交渉役が必要である。
 白羽の矢を立てたのは、吸血っ子。
 魔王は色々と立て込んでるし、仮にも魔王だからね。
 そうホイホイと敵地のど真ん中に連れてくわけにもいかんでしょ。
 神言教って人族の柱的な感じだし。

 吸血っ子を連れて行くのには、消去法以外にもいくつか理由がある。
 あるったらあるのだ!
 別に連れて行けるような知り合いが吸血っ子以外にいないわけじゃないから!
 ゴホンッ!

 まあ、ぶっちゃけ言うと吸血っ子と神言教って割と因縁あるし。
 だって、吸血っ子の生まれた国って、神言教に滅ぼされたわけじゃん?
 あ、滅んではいないか。
 吸血っ子が住んでた街は蹂躙されちゃったわけだから、あんま変わんないけど。
 いわば、仇に相当するわけだ。

 吸血っ子なー。
 メラに怒られてからというもの、意気消沈しちゃってんだよねー。
 意気消沈っていうか、大混乱?
 人間て何? 吸血鬼って何?
 私は誰? 私は何?
 みたいな感じで。
 アイデンティティ見失ってますがな。
 なーんかメラが伝えたかったものとは別な感じで解釈して、あさっての方向に全力で突っ走って迷子になってるっていうか。

 メラに訂正しなくていいのかって聞いてみたら、

「お嬢様がご自分で答えを出すことに意味がありますので」

 てな感じで手助けする気はなさそうだし。
 いいのかねー?
 このままだと変な方向の答えを出しそうな気もするんだけど。

 というわけで、気を紛らわせるために当面の目標となりうる課題をぶつけてみようと思うわけ。
 神言教と接触させてどうなるのか、それは未知数だけど、まあなんとかなるっしょ。
 私が手綱を握ってればそうそうやばいことにはならない、はず。

「というわけで、予習」
「何が、というわけなのかもわからないのだけど? いきなり登場して、というわけでもくそもないでしょうが」

 女の子がクソとか言ってはいけません!
 ということでチョップ。
 なんか頭蓋骨が割れる音と首の骨が砕ける感触がしたけど、気にしない。
 本を押し付けてきた。

 今回の本はちょっと分厚い。
 そろそろ吸血っ子もこの世界の成り立ちだとか、システムのことだとか、今後私たちがどうなっていくのかだとか、そこらへんの重要な話をしておかなきゃならない。
 そもそもそこらへん知らないと、神言教の教皇さんとは話できないし。
 一応吸血っ子も禁忌持ってるから、それカンストさせてもいいんだけど、わざわざそれのためにスキルポイント使わせるのもね。

 ふふふ。
 こんな重大発表の前にはアイデンティティがどうのなんて悩みは吹っ飛ぶはず!
 悩みなんて忘れさせてやるぜ!
 さあ、世界の真実を知って頭を抱えるがよい!

 ……あれ?
 これ、悩み増やしてね?

 うん。
 知ーらない。
 吸血っ子もいい大人だ。
 きっと自力で何とかしてくれるさ。

 さてと、吸血っ子はこれでいいや。
 良くないかもだけどいいや。
 あとは保護者メラに任せよう。
 鬼くんの様子でも見に行くか。

 というわけでやってきました鬼くんのところ。
 私には珍しく徒歩で。
 普段転移ばっかしてるからね。
 まあ、同じ屋敷で生活してるから転移するまでもない距離だってだけだけど。

「白さん、いらっしゃい」

 柔和な笑みで出迎えてくれる鬼くん。
 憤怒持ちとは思えないな。
 どうやって憤怒を持つようになったんだか。

「今日はどうしたの?」
「外道耐性」
「ああ、ようやく外道大耐性レベル5まで上がったよ。まだ無効までもう少しかかりそうだけど、以前よりかはだいぶましになったはずだ」

 ふむふむ。
 そちらは順調と。
 鬼くんとの会話は疲れなくていい。
 単語一個でだいたいこっちの言いたいことを察してくれる。
 空気が読めるってこういうことか。

「ステータス」
「うん? えーと、ああ! そっちもだいぶ元に戻ってきてるよ。9割ってところかな。こっちはあと少しで完全に回復すると思う」

 ちょっと間が空いたり、間違った解釈をされるのは仕方がない。
 く、喋れぬこの身が辛い。
 改善しようとは思わないけど。
 だって、他人と接触するのとかメンドイし。

 鬼くんの体調は回復傾向。
 今のところ憤怒が再発することもなし。
 この調子なら、外道無効を覚えるのも時間の問題かな。
 そうなれば、鬼くんは憤怒に我を失うこともなくなる、はず。
 そうなったら鬼くんは自分の意志でこの先どうしていくか決めることができる。

 鬼くんに、本を手渡す。
 それは、さっき吸血っ子にあげたものと同じ内容のもの。

「今日の本はちょっと厚いね」
「読んで、そのあとは好きにすればいい」
「え?」

 鬼くんに背を向けて帰る。
 あれを読んで、そのあとどうするのかは鬼くん次第。
 私たちに同調するなら良し。
 敵対するなら容赦はしない。
 無関係を貫くならそれでもいい。
 私に鬼くんの選択肢を決める権限はない。
 すべて鬼くん次第。

 それは何も鬼くんだけのことじゃない。
 吸血っ子にも言えることだ。
 今はなし崩し的に私の下で動いてもらっているような感じになっているけど、私は吸血っ子を縛るつもりはない。
 拾ったから最低限生かしたし、生きるだけの力は与えてきた。
 けど、もう吸血っ子はこの世界で自由に過ごせるだけの力を得ている。
 このあとどんな選択をするのも、吸血っ子の自由。
 そう、私と敵対する道を選ぶのも。

 足が止まる。
 もし、吸血っ子が敵対したら、私はどうする?
 決まってる。
 私の行く手を阻むならば、誰であろうと容赦はしない。
 誰であろうとだ。
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