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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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鬼13 耐性

 白さんに渡された本、そこには僕が知りたかった情報が載っていた。
 憤怒を抑える方法が。
 けど、それを見たソフィアさんの反応は予想外だった。
 外道耐性を取得するために、外道魔法をぶつけろって?
 打たれ強くなるために、殴れと言ってるようなものだ。
 確かに効果的かもしれないけど、他の方法もある中でどうして一番きついのを率先してやろうとするのか。
 理解に苦しむ。
 しかも、なぜかドヤ顔でそんな宣言をするものだから、余計に訳がわからない。

 耐性を上げるのにはいくつかの方法がある。
 まずは、現在ソフィアさんが実践しようとしている、その属性の攻撃を受けるというもの。
 この方法が一番稼げる熟練度は多い。
 が、耐性を獲得するということは、それだけその属性でダメージを受けなければならないということでもある。
 火に強くなりたければ火で体を焼かなければならない。
 はっきり言って拷問だ。
 進んでやろうとするのは、よほどその耐性を獲得しなければならない切羽詰まった事情があるか、馬鹿か、その手のことに快楽を感じる特殊な性癖を持っているか。
 まさか、そういうことじゃないよね?

 一番無難なのは、同じ属性の魔法なり攻撃付与なりのスキルを獲得し、それを伸ばしていく方法。
 耐性は対応する属性の攻撃スキルを所持していると、熟練度が自然と加算されていく。
 僕の火と雷が高い耐性を持っているのは、これが大きく影響している。
 熟練度が加算されるタイミングは、対応する攻撃スキルのレベルが上昇した時や、自分自身のレベルが上がった時など。
 普段の生活でも微量ながら熟練度は得られているようだけれど、主に大きく熟練度が稼げるのはやはりレベル関連の時か。

 あとは、スキルポイントを割り振って、熟練度を上げる方法。
 スキルポイントは新しいスキルを獲得するだけじゃなく、既に取得しているスキルにポイントを注ぎ込むことによって、熟練度を増やすことができる。
 貴重なスキルポイントを使ってしまうことになるけれど、安全に手堅く熟練度を稼ぐことが出来る。

 それ以外だと、かなり特殊な方法に頼ることになってくる。
 例えば対応する属性に強い種族に進化するだとか。
 僕が以前戦った氷龍は氷属性が無効になっていたし。
 ただ、この方法はそもそも進化ができなければ意味がないので、人、というか種族を選ぶ。
 僕はもしかしたら進化の過程で可能性があったかもしれないけれど、人族や魔族ではそもそも進化ができないので不可能だっただろう。
 吸血鬼は進化ができるのだろうか?
 できたとしても、耐性が獲得できるような種族があるかはわからない。

 ただ、今回に関しては白さんが答えを既に出してくれている。

「本、最後まで読んだ?」
「え?」
「ここ。ほら」

『外道無効を取得するのに最も手っ取り早い方法は、忍耐のスキルを獲得すること。忍耐も七美徳系スキルであるものの、例外的に魂への悪影響はない。どころか、ある程度の耐性を得られる上、称号により外道無効を取得することができる』

「ね?」

 僕が指し示した先に、その説明が載っていた。
 このスキルを取得すれば、自動的に外道無効を獲得できると。

 ソフィアさんがドヤ顔のまま固まる。
 そのままの表情で、顔だけが真っ赤になっていく。
 恥ずかしいんだ。
 わかりやすい。

「もちろん読んだわよ! けど、忍耐のスキルって支配者スキルなんでしょ? 支配者スキルは世界で一人だけしか取得できないんだから、あなたに譲ってやろうって私の優しさに気づかないのかしら? 忍耐は譲ってあげるから私の耐性上げに協力しなさいって、そう言ってるのよ!」

 顔を真っ赤にしながらまくし立てるソフィアさん。
 なんとか自分の失態を誤魔化そうと必死だ。
 あんまり突っ込むとかわいそうだし、その話に乗っておこう。

「そうか。ごめん、気が利かなくて。それならソフィアさんの厚意に甘えさせてもらうよ」

 実際、僕にとってもそのほうが助かる。
 今は抑えられている憤怒だけれど、いつまた理性を失って暴走するかわかったものじゃない。
 できることならば早いうちに外道無効を獲得したい気持ちが強い。

「ええ。私の海よりも深い優しさに感謝しながら忍耐を取得なさい」

 誤魔化しきれたとでも思っているのか、あからさまにホッとしつつ上から目線でそう言ってくる。
 なんというか、残念臭が半端じゃない。
 これが残念美人ってやつか。
 前世とは別ベクトルで変人になったなあ。

「なにか失礼なこと考えてない?」
「まさか。長年苦しまされてきた憤怒から解放されるのかと思うと、ちょっと感慨深くてね」

 危ない危ない。
 戦士としての勘なのか、変に鋭いな。

 けど、咄嗟に出たいい訳だけど、実際感慨深いのも事実だ。
 僕の今世はその大半が地獄だった。
 ソフィアさんと戦うまでは、死にたいとすら思っていたほどだ。
 けど、ソフィアさんと戦っている最中、本当に自分の死が垣間見えた瞬間、僕は自分の気持ちがぐらつくのを自覚していた。
 そして、黒とかいうあの神に、完膚なきまでに叩きのめされた時、僕ははっきりと恐怖した。
 このままでは殺されると。
 それは、殺されることに抵抗を覚えているということ。
 死にたいという願望からは、真逆の考え。
 結局のところ、僕は本当に死にたくなんかなかったんだ。

 浅ましい。
 あれだけの虐殺を行っておきながら、僕は自分が殺される側になって、死にたくないと願った。
 こんな惰弱な姿を見たら、ゴブリンのみんなに笑われてしまう。
 彼らは戦い、命を奪うのならば、いつか己が死ぬことも当然のように覚悟していた。
 僕にはそんな覚悟なんかなかった。
 ただ、憤怒の力で弱者を虐げるだけで、生死を賭けた戦いに挑む覚悟なんか、まったくなかった。

 無事に目を覚ました時には安堵してしまった。
 生きている。
 それに喜んでいた。
 最低だ。
 あれだけのことをしておいて、自分だけはのうのうと生き残るなんて。
 僕は死ぬべきなんだ。
 だっていうのに、死ぬのが怖い。

 情けないと思う。
 けど、自ら命を絶つ勇気なんか、僕には持てない。
 贖罪は、僕の残りの人生を使ってやっていかなければならないとは思う。
 けど、それで死ねと言われても、僕にはそれができそうにない。
 前世で犯罪者に抱いていた、こんな奴らは死ねばいいのに、という感情が、まさか自分に向かってくるとは思ってもみなかった。
 自分で自分のことを死んだほうがいいと思いつつも、死ねない中途半端さ。
 自己嫌悪に陥る。

 まだ、僕はこの先どうやって生きていけばいいのか、正直わからない。
 だけど、これ以上の罪を重ねないためにも、憤怒にこれ以上飲まれるわけにはいかない。
 だから、僕には外道無効が必要だ。

 ただし、大きな問題が一つ。

「譲ってくれるのは嬉しいんだけど、僕、スキルポイント0なんだ」
「あ」

 空気が固まる。
 ソフィアさんが気まずそうに視線を逸らした。
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