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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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血29 困惑

 やばい、やばいわ。
 人と会話するのってどうやるんだっけ?
 ああ、わからない。
 ご主人様はそもそも喋ること自体が希だし、酒に酔ってる時はこっちの話なんか聞かずに一方的に喋り倒すだけだし。
 催眠を使わないで、正気の人間と話をするのなんて久しぶり過ぎて忘れたわ。

 とりあえず下に見られないように尊大な口調を心がけてみたはいいものの、これ、うまくいってる?
 変には、思われてないわよね?
 名前、というか存在そのものを覚えてなかったのもなんとかごまかせたっぽいし。

 チラッと本を読んでいるふりをしつつ、鬼ことラースを盗み見る。
 真剣な表情で本を読んでいて、こっちの様子を気にかけている感じはしない。
 それはそれで、こっちのことなんて眼中にありませんって態度に見えて腹が立つわね。
 自分から会話を続けるのが辛くなって本を読もうと提案したのはいいけれど、こうして沈黙が続くのも気まずい。

 大体からして、なんなのこの本は?
 ご主人様のことだから、喋るのが嫌で本にしたんだろうけど、本にする労力と喋る労力だったら、本を作るほうが難しいでしょうに。
 間に入ってくれればもう少し私も口数を少なくできるのに。
 一対一だとどうしても聞かれたことには答えないと不自然じゃない。

 いない人に文句を言っても始まらないわ。
 とりあえず本を読みましょう。
 えーと、白ちゃんの簡単スキル講座?
 しょっぱなから読む気をなくさせる見事な手腕だと褒めてあげるわ。
 さすがご主人様、私をイラつかせることに関しては世界一ね。
 なによ、普段愛想の一つもないくせにこの狙ったかのような可愛いアピールは?
 ふざけてんの?

 ああ、いけないいけない。
 ちゃんと読まないと。

『スキルとは、生物が持つ魂の力を簡単に引き出すために、魂の一部を改変したもの』

 は?

『それゆえ、スキルイコールで魂の一部となり、スキルが多ければ多いほど魂の容積を使用していることになる。本来魂には許容限界があり、保持できるスキルの数にも限度があるが、その限界を超えて無理矢理魂を成長させ、スキルを増やしていくのがこの世界のシステムである』

 えーと。
 ものすごく重要なことが書いてあるはずなのに、文字の横でいちいち主張が激しい蜘蛛のミニキャラが小躍りしてたりして文字に集中できない。

『ただ、これら通常のスキルは魂の表層領域の改変に留めるのに対し、魂の深層領域を改変する特殊なスキルが存在する。それが七大罪系スキルと七美徳スキル。俗に支配者スキルと呼ばれるもの』

 七大罪。
 私の嫉妬もこれのことよね?
 ラースの持つ憤怒もそう。
 今更だけど、自分にラースって付けるネーミングセンスについては突っ込まないほうがいいわよね?

『支配者スキルは魂の深層領域を改変するため、所有者に与える影響が他のスキルとは一線を画する。第一にスキルの効果自体が強力であること。第二にそのスキルごとに人格にも影響を与えてくること。第三に、使用すればするほど魂を侵食していくこと。それゆえ、支配者スキルの使用は控えないと、じきにスキルに人格を乗っ取られてしまう』

 ちょっと待って。
 そんな重要な話聞いてない。
 使うと、人格がスキルに乗っ取られるですって?

「そのスキルは魂を侵食する。そこの鬼のように、己を見失いたくなくば使わぬことだ」

 ラースと戦っていた時に乱入してきた黒い男、その言葉が脳裏に蘇る。
 あれは、そういう意味だったってこと?
 だとすれば、ラースは魂を憤怒に乗っ取られていた?
 もしくは、乗ったられる寸前で踏みとどまっていた状態だった?

 ラースのことを今度はちゃんと見る。
 相変わらず真剣に本を読んでいて、こっちの様子には見向きもしない。
 それだけこの本に書かれている内容は、ラースにとって重要だってこと。
 つまりは、身に覚えがあるってことね。

 私も他人事じゃないわ。
 私にも嫉妬というスキルがあるんだから。
 ご主人様がこのスキルを使うなって言ったのはそういうことだったのね。
 いつも思うけど、言葉が少なすぎるのよ。
 ちゃんと説明してくれれば使わないのに。

『対策は四つ。一つ、そもそも支配者スキルを取得しない。一つ、スキルの使用を控える。一つ、根性で耐える。一つ、スキルの外道耐性を伸ばしていき、外道無効を取得する』

 三つ目がおかしいけど無視。
 なんとなく、今回私とラースを引き合わせた理由がわかってきたわ。

『外道耐性は魂に直接干渉する不利な効果を打ち消す。外道無効であれば、システム内の威力の攻撃であればほぼ無効化できる。それは支配者スキルでも同様。支配者スキルを存分に振るいつつスキルの悪影響を最小限にとどめるには、この方法が最も適している』

 つまり、私とラースとで外道耐性をお互いに高めあえってことね。
 ふーん。
 本には続きもあるけれど、この先はまた後ででいいわ。

「いいかしら?」
「何?」

 こいつ、私が呼びかけてるのに顔も上げないなんて、いい度胸してるじゃない。

《熟練度が一定に達しました。スキル『矜持LV1』を取得しました》

 何かスキルを獲得したようだけど、後回し。

「あなた、外道魔法持ってる?」
「持ってる」
「そう。なら、一番弱い魔法を私にかけなさい」
「はあ?」

 ラースがやっと顔を上げた。
 心底理解できないという表情で。

「あら? この本を読んでも理解できないかしら?」

 ちょっと小馬鹿にするように言ってやる。
 ラースは本当にわからないらしく、怪訝な顔をしている。
 いいわ、この優越感。
 私のほうがご主人様の言いたいことを理解している。
 伊達に赤ん坊の頃から一緒にいるわけじゃないのよ。
 未だに理解不能な部分は多々あるけれどね。

「つまり、支配者スキルの影響を抑えるには外道無効を取得しなければならないの。それを取得するために私に外道魔法をぶつけなさいって言ってるのよ」

 ラースが今度は理解したけど理解不能と言いたげな顔をした。
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