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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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血28 再会

 ご主人様に連れられて訪れたのは、ご主人様が普段寝泊りをしている屋敷だった。
 それはいい。
 別にご主人様に何か命令されるのは今に始まったことじゃないし、突拍子もないことを言われることだって一度や二度じゃない。

 けど、まさか呼び出された先に、ついこの間殺し合いをした相手が待ち構えているとは思わなかったわ。
 思わず魔法を発動しようとしたら、ご主人様に蹴られた。
 危うくHPがなくなる一歩手前までいったわ。
 0にされなかっただけ今日はまだマシね。
 屋敷を壊しちゃまずいとでも思ったのか、糸で私を拘束してからの蹴りだったし。
 それを見た鬼がドン引きしてたけど、これがご主人様の標準だから困る。

 そのご主人様だけど、鬼に本と、剣道で着るような道着っぽい服を一式手渡してさっさとどこかに行ってしまった。
 去り際に私にも本を手渡してきたので、これを読めってことなんだろうけど、それ以外はどうしろっていうのよ?

 とりあえず、鬼のことを睨みつけた。
 あの服、絶対ご主人様の手作りだ。
 私ももらったことがあるけれど、ご主人様は意外と服を作るのが好きみたい。
 プロなんじゃないかって思うような出来栄えの服を完成させてくる。
 まあ、ご主人様の趣味なのか、やたらシンプルで飾りっけがないのが多いんだけれど。
 鬼に手渡しした服は、出来の良さ、シンプルさ、そしてなにより鑑定ができないことが、ご主人様作であるということを裏付けている。
 ご主人様本人もそうだけど、ご主人様が出した糸で作った服も鑑定不能なのよ。

 まあ、服のことはいい。
 問題は、どうしてそれを鬼にプレゼントしてるのかってこと。
 ご主人様が服をプレゼントするなんて、私とメラゾフィスとアリエルさん以外なかったのに!
 どうしてぽっと出のこんなのにプレゼントしてるの!?
 なんだかよくわからないけど、イラッとするわ。

「そんなに睨まなくても、もう君と敵対するつもりはないよ」

 鬼が喋った。
 睨んでいたのはご主人様に服をプレゼントされたってことに対してなんだけど、この際いいわ。

「あなた、喋れたのね」

 私と戦っている時は一言も喋らなかったし、そもそも喋れるだけの理性があるのかどうかすら怪しかった。
 ただひたすら狂ったように殺意をばらまいていた。
 だから喋れるなんて思っていなかったけど、目の前にいる鬼は確かにあの時とは打って変わって冷静な態度を取っている。
 ちょっと雰囲気が変わりすぎて、本当にあの時と同一人物なのかわからないくらい。

「あの時は憤怒の影響で理性をなくしていたから。今は憤怒の影響もほとんどないし、こうして自分の意思で動くことができる」

 憤怒、というと、鬼が持っていたスキルよね?
 その影響で理性をなくしていた?
 それに、その言い草からして、自分の意思で動いていたわけじゃなかったってこと?

「憤怒は僕が持っているスキルの一つで、これが発動してしまうと理性をなくしてしまうんだ。しかも、戻れる保証はない。僕は憤怒を発動しすぎてしまった代償に、完全に理性をなくして、目につくものを手当たり次第に殺すだけの存在に成り果てていた。途中からなぜか意識はあったから、君のことも覚えているけどね」

 私の疑問が顔に出ていたのか、鬼が丁寧に説明してくる。
 理性を失って暴走してたってことね。
 なんてスキルよ。

「そんなスキルを使うなんて、馬鹿じゃないの?」
「返す言葉もない。ただ、言い訳すると使わざるを得なかったっていうのはある」
「あんたみたいな化物が、そんなスキルに頼らないといけない状況っていうのが信じられないわね」

 鬼は私の言葉に、苦笑した。

「化物はお互い様じゃないかな?」

 失礼な。
 と、言いたいところだけど、否定できないわね。

「僕も、元からここまで強かったわけじゃない。最初の頃はそれこそ弱かったし、そのあとも死ぬような経験ばっかりだったよ」
「へえ。あなた、人族でも魔族でもないわよね? もしかして、魔物からの進化なの?」

 ご主人様も蜘蛛の魔物から今の人型に進化したって言うし、この鬼もそうなのかも。

「うん。最初はゴブリンだった」
「は?」

 ゴブリン?
 ゴブリンって、あのゴブリンよね?
 ゲームとかマンガはあんまり見ないほうだったけど、それでもゴブリンくらいなら知ってるわ。
 緑色で、子供くらいの身長の、弱い魔物よね?

「嘘でしょ?」
「本当だよ。生まれはゴブリン。弱かったっていうのはそういうこと」

 本当にゴブリンだったらしい。
 だとすれば、そんな弱いゴブリンから進化したこいつはある意味尊敬に値するかも。

「弱かったこともあって、生きるには憤怒の力を借りなければならなかった。そうでもしないと、僕は今頃とっくに死んでいただろう。死ぬか、憤怒に飲み込まれるか、その二択しか僕にはなかった」

 壮絶だわ。
 私も結構壮絶な人生を送っていると思うけど、そこまで究極の選択をしないといけないくらい死にそうになったことは、割とあるわね。
 一時期は毎日のように死にそうになっていたし。

「立ち話もなんだから座ったら?」

 鬼に促されるまま、勧められた椅子に座る。

「せっかく同じ転生者に出会えたんだし、色々と話を聞いておきたし」

 続く言葉に、「え?」と、思わず漏らしてしまった。

「え?」

 沈黙。

「根岸彰子さんだよね?」

 なんで知って、って、ご主人様しかいないか。
 ご主人様がこの鬼に話したのね。

「そう、あなた転生者だったのね」

 言われてみて納得したわ。
 ご主人様がわざわざ私と会わせたのも、服を送ったことも。

「え?」
「え?」

 沈黙。
 なんでそこで疑問の声が出てくるの?
 鬼がとても困ったかのような、恥ずかしいかのような、微妙な顔になる。

「ああ、そうだね。そうだよね。もう結構な年月が経つし、クラスメイトの顔なんか覚えてないよね」

 何を言って、ちょっと待って。
 言われてみれば、どこかで見たことある気がする。
 私が転生して全く違う顔になったからそんなこと考えてなかったけど、ご主人様は元の顔なのよね。
 じゃあ、こいつも?
 よくよく見れば、角が生えていたり目の色が赤かったりするけど、日本人っぽい顔してるわ。

「僕は笹島京也。ただ、こっちではラースって名前を使ってる。改めてよろしく」

 ごめん。
 名前聞いてもあんま思い出せないわ。
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