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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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252 優しさという名の呪い

毎日更新を再開しています。
一週間ぶりの方は244から見てください。
「白ちゃん。色々とやらかしてくれてるらしいね?」

 開口一番、魔王の詰問。
 いつもおちゃらけた雰囲気の魔王の声とは思えないほど、その声には暗く澱んだ重みがあった。
 イヤ、これこそが本来の魔王の声なのだろう。
 私の分体と混じり合い、変質する前の。
 なるほど、そりゃ、バルトがビビるのも頷けるってもんだわ。
 今の魔王を前にして、ビビらないでいられるのはほんのひと握り。
 ビビる必要がないか、よほどの覚悟を決めてるか。
 ビビらないのがいたら、どっちかだろうね。
 私はビビる必要がない側だけど。

 魔王の問いには答えず、目を開く。
 魔王は一瞬顔をしかめたけど、それだけ。
 私の目の恐怖に耐え切った。

「どういうつもりなのかな?」

 底冷えするかのような声。
 返答によってはタダでは済まさない。
 その意思がありありと感じ取れる。

「隠し事」

 私は魔王の圧力をひらりと躱し、黒を指さしつつそう言った。
 魔王の標的がそれで移る。

「どういうこと?」

 黒は腕を組んだまま立ちすくみ、眉間に皺を寄せている。
 話すべきか、否か、迷ってるんだろう。

「ここまでくれば、隠し立てするのも背信に当たるか」

 黒が大きな溜息を吐き、諦めたかのように口を開いた。

「結論から言おう。この世界を循環している魂の劣化が深刻化している」

 イヤ、結論から入りすぎじゃありませんかね?
 それ聞いても理解できる奴いるの?

「どの程度?」

 いたよ!
 ええ?
 魔王ってこんなに頭の回転早かったっけ?
 それともあれか?
 シリアスモードになると途端に頭がよくなるのか?

「一部では既に魂崩壊の兆しすら見え始めている」
「どうして、私に黙ってたの?」
「話して、どうなる?」

 重い空気のまま黙り込む両者。
 あー、居心地悪い。
 帰っていいっすか?
 ダメっすか。
 そうっすか。

「正直に答えて。私が魔王として活動したとして、MAエネルギーの回収は完了できる?」
「不可能だ」

 即答する黒。
 座したまま俯き、肩を震わせる魔王。

 魔王が魔王となるのに、どれほどの覚悟を持って望んだのか、それは想像でしかわからない。
 けど、これまでずっと女神の言いつけを守り、世界のことを静観していた魔王が、初めて女神の意思に逆らって行動した。
 それは、女神を誰よりも敬っている魔王にとって、相当な覚悟だったに違いない。
 ましてや、魔王になれば、ほぼ確実に死ぬと知っていれば、なおさら。

 そこに、私が道を示す。

「システムを破壊すればいい」

 どうしようもない袋小路に追い込まれてしまっている二人には、私の提案は夢のように聞こえるだろう。
 だから、必ず飛びつく。

「どういうことだ?」
「システムを維持しているエネルギーは、MAエネルギー総量の約90%。つまり、残りの10%さえどこかから補うことができれば、システムを解体することによって、MAエネルギーを満たすことができる」

 簡単なことだ。
 あのDが、あの腐れ外道が作り上げたシステム。
 そんなもの、正攻法で攻略するものじゃない。
 必ず裏道がある。
 Dの性格を考えれば、意地汚い、普通ならできないところに、その裏道が隠されている。

「そんなことが、可能なのか?」
「白ちゃん、できるの?」

 二人からの視線。
 片や懐疑、片や期待。

「できる。その準備のために、黒が隔離していた連中には犠牲になってもらった」

 本当は違うけどね。
 あながち間違いでもないからこう言っておけば、黒は勝手に深読みして勘違いしてくれるはず。

「だから、あのようなことを」

 ほらね。

「下準備はすべて私が完成させる。あとは、残りの10%の確保。できれば計算外の不足分を足して、15%を目安にMAエネルギーを満たす必要がある」

 そのためにはどうするか。
 戦争、それも、過去に類を見ないくらいの大規模なやつを起こす。
 今、魔王が進めている計画を、更に大きくする。
 そして、もう一つ。

「戦争の規模を拡大。及び、勇者の殺害」

 ピクリと、黒が反応する。
 そうだよね、黒は勇者を殺すのに反対するよね。
 けど、ここは譲れない。

「システム崩壊に先立って、勇者システムの停止をする。勇者システムに掛かるエネルギーの回収で、おおよそ3%の回復が見込める」

 3%と言えば低いように聞こえるけど、実際のエネルギーにしたら膨大な量となる。
 それを確保するのはぜひやっておきたい。
 それに、勇者を始末すれば、それだけ魔王の生存率が上がる。

 勇者は魔王を倒す存在。
 それは、力量差を無視した法則。
 魔王は必ず勇者に倒される。
 例え、その代の勇者を退けることができても、その次、またその次。
 代を重ねるごとに、魔王の勝率は落ちていく。
 ステータスだとかスキルの話ではなく、そういうふうに設定されているから。
 流石に今の魔王が今代の勇者に負けるとは思えない。
 思えないけど、念には念を入れておくべきだ。

「それだけの犠牲を出さねば、ならぬか」
「元はといえば、管理者である黒の怠慢」

 私の言葉に、黒の表情が歪む。
 酷いやつだわー、私。
 黒がうまくやっていればこんな状態にはならなかったのは確かに事実。
 けど、黒にそんなことできるはずがなかった。
 魔王と同じで、女神の優しさを優先した、哀れな男には。

 その優しさのせいで、この世界は滅ぶ寸前にまで追い詰められている。
 なんていう皮肉。
 滑稽とも言える。
 だから、全部私がぶち壊す。

 嘘は付いていない。
 システムを代償にすれば、この世界のエネルギーが満たされる。
 ただ、システムを破壊するということは、この世界にあるスキルやステータスをなくすということ。
 魂に根ざしたそれらを、無理矢理回収するということに他ならない。
 よって、スキルを多く持ち、ステータスが高い奴は、回収する際に魂にかなりの負担がかかる。
 この前の先生のように。

 嘘は付いていない。
 システムを破壊すれば、世界は救われる。
 ただし、その代償に、世界に住む人々は大量に死ぬ事になる。
 ただそれを、黙っているだけ。
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