挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
377/499

246 笑いが止まらん

 くくく。
 妹ゲット。
 ちょろいね。

 兄である山田くんをダシにした瞬間、妹ちゃんはすぐ折れた。
 感情論では兄を絶対視していても、冷静な部分ではちゃんと私と山田くんの力の差を理解していたようだ。

「私はどうなってもいいから、兄様には手を出さないで!」

 と、健気な提案を自らしてきてくれた。
 泣かせるねー。
 私としては逆に笑いが止まらないけど。

 けど、そのあとが長かった。
 妹ちゃんの兄様演説が始まってしまったのだ。
 いつぞやのおっさん魔法使いの長々とした演説もそうだったけど、一つのことにのめり込んだ人間っていうのはどうしてあんなにも話が長くなるんだろう?
 割り込むタイミングがなくて全部聞き届けちゃった私も私だけどさ。
 まだ耳に兄様が、兄様で、兄様兄様……リフレインしてるわ。
 おい、足の痺れ仕事しろし。

 結局、第一章の兄様の偉大さから、最終章のやがて神になる兄様まで聞きましたとも。
 第七章の天才児兄様あたりの話はちょっと面白かった。
 おかげで、本題に入る前にものすごく時間がかかったわ。
 時間操作しておいてホント良かった。

 で、その偉大な兄様に私は手を出さない代わりに、妹ちゃんには四つのことを約束させた。
 一つ、夏目くんには以後一切の手出しをしないこと。
 二つ、優先的に謙譲、慈悲、純潔のいずれかのスキルを取得すること。
 三つ、常に私の分体、指の先サイズを持ち歩き、その指示に従うこと。
 四つ、私のことは誰にも言わないこと。

 一つ目は放っておいたらまた夏目くんのこと襲いそうだったので念のため。
 二つ目はダメ元で。
 だって、支配者スキルってよっぽど才能がないと取得できないっぽいし。
 妹ちゃんは才能ありそうだけど、それでも取得できるかは正直怪しいんじゃないかと。
 なので、あんま期待はしないで、取れたらラッキーくらいの気持ちで。
 三つ目は、より監視を強化するため。
 これで山田くん周りに関してはコソコソする必要もなくなる。
 指示は、正直あんま出さないと思う。
 そこまでしてもらうことが今のところ妹ちゃんにはないし。
 状況が変われば妹ちゃんになにかしてもらう日も来るかもだけど。
 四つ目は、まあ当然の措置だね。

 いい加減妹ちゃんの足が限界に来ていたので、そのことを言い含めて分体を手渡して開放してあげた。
 その際足も治してあげたのは、今後の働きに期待ということでサービス。

 別に、夏目くんと同じように、記憶を消した上で分体を脳に寄生させても良かった。
 けど、なんとなくやめた。
 あえて理由を挙げるとすれば、その方法じゃ、多分だけど支配者スキルを取得することはできそうになかったから。
 支配者スキルはなんというか、心の奥底からの欲求や思考に根ざして取得できるんだと思う。
 私の傲慢、忍耐、怠惰はそれ。
 救恤はたまたま手に入っただけだから、例外かな。
 夏目くんみたいに、無駄に宙に浮いたエネルギーがあるなら話は別だけど、心の底から願わない限り、支配者スキルを取得することはできないんじゃないかと思う。
 だから、分体を寄生させて思考を誘導しても、支配者スキルは芽を出してくれない。

 妹ちゃんが支配者スキルを獲得するとしたら、純潔か謙譲あたりかな?
 嫉妬あたりも獲得しそうだけど、それはもう先約がいるし。
 純潔、兄様一筋だもんね。
 謙譲、兄様がこの世で一番だから自分は二番以降。
 うん、取れる取れる。
 慈悲は、見なかったことにしよう。

 さて、妹ちゃんを開放後、夏目くんに暗示を施し、騒動で昏倒していた見張りの人たちからも記憶を消しておいた。
 これで、妹ちゃん暴走事件を知っている人はいなくなったわけだ。
 なんだろう、実時間ではついさっきの出来事なはずなのに、ものすごく長い時間が経った気がする。

 うむ。
 こうしちゃいられない。
 先生の様子を確認しに行かないと。

 先生の魂の崩壊はなんとか防いだ。
 防いだけど、ダメージがないわけじゃない。
 スキルは幾つか消えただろうし、ステータスも下がったはず。
 何より、ステータスには表示されない、魂の総量が減ってるんだから。

 スキルのHP自動回復だとか、MP回復速度だとかで回復したものは、どこから来てるのか?
 ファンタジーの世界だからって、質量保存の法則が当てはまらないわけじゃない。
 それと同じように、魂のエネルギーにも魂量保存の法則とでも言うべきものがある。
 ステータスが魂の力をもとにしているなら、回復するのもまた魂の力を使う。
 ステータスには表記されない魂の力を使って。
 だから、魂の力が著しく低下している今の先生は、HPもMPも回復しない。
 そして、先生の体は、その失われた魂の力を代用しようとして、自分の体を分解してエネルギーに当てようとしているはずだ。
 つまり、何もしていないのに、傷だらけになる。

 案の定、私が先生の様子を確認すると、先生はベッドの中で血塗れになっていた。
 その頬は痩け、元々小さい体が余計に小さくなっている。
 まるで数ヶ月ろくなものを食べていなかったかのようにゲッソリとやせ細り、それでも足りないとばかりに皮膚が消えていく。
 HP自動回復の逆の現象とでも言えばいいのか。
 それが先生の身を文字通り削り取っていく。

 私の想定よりも、先生の状態が酷い。
 これは、外部から治療を施さないと死ぬ。
 なんでここまで、と考えたところで、答えが出る。
 生徒に惨めな姿を晒さないように、意地を張って平気なフリをしていたからだ。
 本来ならやせ細って倒れるくらいで済んでいたはず。
 それを、先生は気合で我慢し、結果、悪化させてしまったんだろう。
 本当ならば、演習のあった場所からここまで、自力で戻ってくるのすら辛かったはずだ。
 だって、普通ならその場でぶっ倒れて治療を施してもらわないといけないレベルなんだから。

 まったくもってこの人は。
 一人で何でもかんでも背負い込みすぎじゃね?
 先生らしいっちゃらしいけど。

 先生に治療を施す。
 傷が治り、失っていた血の気が戻る。
 失った魂の力までは回復しきれないけど、体の異変はこれで止まるはず。
 少し体重も減っただろうけど、そこは食べて元に戻してもらうしかない。

 あと、ちょっと小細工を施しておこう。

 足音。
 私は転移で部屋を後にする。
 もちろん分体を残して。

 部屋に入ってきたのは、ポティマス。
 病人を気遣う様子もなく、乱雑にドアを開け、早足で先生に近づく。
 ポティマスは先生をまるで実験動物でも見るかのような冷淡な眼差しで見下ろし、おもむろにその頭を鷲掴みにした。

「チッ!」

 舌打ち一つ。
 先生の頭から手を離す。

 ふふふ、ふはははは、はーはっはっは!
 ざまあない!
 今回の事件の怪我の巧妙とでも言うべきか、先生の魂に取り付けられていたポティマスの魂の一部が、消し飛んでいた。
 おそらくは献上で捧げられちゃったんだと思う。
 ねえ、悔しい?
 一部とはいえ、魂持ってかれちゃって悔しい?

 そんでもって、その好機を私が見逃すはずもない。
 先生の魂にプロテクトという名の小細工を仕掛けておいた。
 これでもうポティマスは先生に手出しできない。
 そして、私がポティマスに手出しできない最大の理由が消えた。
 あとは、支配者権限をどうにかしてしまえば、このクソ野郎を地獄の底に突き落とすことができる。

「う、うう」

 おっと、先生が目を覚ましそう。

「気がついたか?」
「ポティマス? ここは?」
「君の自室だ」

 まだ寝ぼけているのか、視線が定まらない先生。

「怪我は、ポティマスが治してくれたんですか?」
「ああ、そうだ」

 ダウトー!
 お、おま!
 ぐううう!
 ここで名乗り出れないのが辛い!
 己ポティマス!

 私の殺気でも感じたのか、バッと周囲を見回すポティマス。
 まあ、いい。
 今は見逃してやる。
 先生に余計な手出しもしなかったしな。
 取り憑けないなら用済み、なんてことをしでかそうものなら、私の制裁が待ってたんだから。

 ふふふ。
 今からこいつの首を取る時が楽しみだわ。
 その時をせいぜい震えながら待ってな。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ