挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

373/529

242 愚者の献身

 転移で降り立った場所、それは広大な空間。
 足元は全てが淡く輝き、地平線は空と交わってどこまでも続いていくかのような錯覚を与える。
 そんな無限に続くかのような空間の中には、幾何学模様を描く巨大な魔術式が埋め尽くしている。
 そして、そんな魔術式を、まるで巣の糸のようにして巣食う小さな無数の蜘蛛。
 私の分体だ。

 分体はここでシステムのハッキングを行っている。
 ここ、この世界の中心であり、システムの中枢を司る場であり、女神が封印されているこの地で。

 魔術式の中心、そこに、女神はいた。
 体の半分を失い、半ば空間に溶け込むようになっている女神が。
 その口からは呪詛のように、システムメッセージが絶え間なく紡がれている。

『熟練度が一定に達しました』
『経験値が一定に達しました』
『熟練度が一定に達しました』
 ………。

 口は一つしかないのに、その声は幾重にも重なって聞こえてくる。
 私がまだ神化する前に、イヤというほど聴き慣れた声。
 天の声(仮)と、私が呼んでいたもの。
 その正体が女神の声だったわけだから、あながち間違ってもいなかったね。

 私は虚ろな表情でメッセージを読み上げ続ける女神に近づく。
 そして、その残った上半身に手刀を差し込む。

『ッ!』

 女神が苦悶の表情を浮かべる。
 けど、私はそんなことおかまいなしにねじ込んだ手を動かし、女神の体を貫く。

『エラー。予期せぬ外部からのアクセスを確認。排除に移ります』

 女神の表情から苦悶が消え、同時に私の手に痛みが走る。
 無視。
 痛みを気にせず、そのままハッキングを開始。

 女神の体が細かく痙攣する。
 女神はこの世界に根付いたシステムの中枢を司っている。
 そこに直接干渉し、一時的にシステムに介入する。

 介入するのは今まさに発動している支配者スキルの効果。
 発動者と、スキルの対象になっている相手。
 双方に、システムという大元からの干渉を開始する。

 発動者は、言わずもがな先生。
 対象者は、夏目くん。
 スキルの効果は、スキル、ステータス、その他スキルポイントなどを含めた、ほぼ全ての魂の力をシステムに捧げるというもの。
 けど、この効果は本来、他人に使うものじゃない。
 先生はそれを、無理矢理改変して他人に行使している。

 そんな無茶なことをすれば、スキル使用者にかかる負担は大きい。
 そもそも、このスキルの発動はすなわち、ほぼ自殺することと変わらないのだから。

 システムを介してスキルの発動を阻害。
 それでも、半分以上発動して効果が出ちゃってる。
 夏目くんのスキルがなくなり、ステータスも大幅に下がった。
 それは別にどうでもいい。
 問題は、先生の方。
 ムリなスキルの発動のせいで、反動で先生自身のスキルも消えている。
 それだけならまだしも、夏目くんの魂を保護しているせいで、先生の魂が崩壊寸前にまで行っている。

 四の五の言ってられない。
 崩壊しかけた先生の魂をなんとかつなぎ合わせ、回復させていく。
 なんとか崩壊を防ぎきった。
 流石に、ダメージなしとまではいかなかったけど。

 一息つき、女神の体から手を引き抜く。
 女神は一瞬で傷を消し、何事もなかったかのようにまたシステムメッセージを呟き始めた。

 まったく。
 なんて無茶なことをするのさ。
 下手したら、というか、私が介入しなかったら先生魂が崩壊して死んでたわ。
 しかも、魂の崩壊ということは、生まれ変わることすらできない。
 完全な死。
 ホント、無茶する。

 分体越しに先生たちの様子を見る。
 スキルを消され、狼狽する夏目くん。
 事態を飲み込めず、呆然とする山田くん。
 そして、ボロボロになりながら精一杯の虚勢を張って、夏目くんに言い聞かせる先生。

「この世界は君のものじゃありません。これを期に反省して、これからは普通の人として生きることをお勧めします。スキルなんて取って強くなっても、いいことなんてありませんから……」

 ん?
 スキルを取ることを否定してる?
 なんで?
 疑問に思うも、答えはわからない。
 小骨が喉に刺さったかのような、スッキリしない気分になる。
 まあ、いい。

 先生、どっちにしろ、今回の先生の行動は無駄になる。
 夏目くんからスキルを奪っても、結局は変わらない。
 夏目くんが反省するはずがないし、何より先生のスキルは完全じゃない。
 いくらスキルを消そうと、本来の用途とは違う使い方をしたせいで、中途半端な結果に終わっている。
 夏目くんの消えたスキル、そのスキルに使われていた魂の力は、その大半がまだ夏目くんに残っているのだから。

 スキルとは、魂の力を具体的に使いやすく形にしたもの。
 そのままでは使えない魂の力を、システムの力で簡単に扱いやすいようにカスタマイズしたもの。
 つまり、魂の力さえ残っていれば、別のスキルを取得することも可能だっていうこと。
 スキルポイントなんてわかりやすいものは、その魂の力で使える余剰分を公開しているだけなんだから。

 夏目くんは確かにスキルを失った。
 けど、そのエネルギーの大半はまだ所持したまま。
 なら、形を変えて元に戻るのは目に見えている。
 先生がしたことは、ちょっとだけ夏目くんの足を止めさせただけに過ぎない。
 狂った夏目くんが、こんなことで止まるとはどうしても思えないし、ましてや改心するなんてありえない。
 人間は、そんなに高尚な生き物じゃない。

 女神を見る。
 先生といい、女神といい、どうしてそんな無駄なことに自分の命を捧げようと思うのかね?
 クズはクズ。
 どこまで行っても救われない。
 それがどうしてわからんのか。
 そして、どうしてそんなものを救うために自分を犠牲にできるのか。
 理解できない。

 あー、苛立つ。
 自分の命をなんだと思ってるんだ。
 必死こいて生き足掻くのが生物として正しい姿じゃないの?
 それを、わざわざ自分の命をドブに捨てるようなことばっかして。
 それが私も認めるような奴ばっかりそういうことするから余計に腹が立つ。

 だから、全部台無しにしてやる。
 女神の献身も、黒の懊悩も、魔王の覚悟も、先生の救恤も。
 全部ひっくるめてまとめて壊してやる。
 世界?
 知らん。
 滅びるなら滅びればいい。
 私はそんなものより私が認めた者を救う。

 先生が発動したのは、献上のスキル。
 その効果は、名前のとおり。
 自身のスキルを構成している魂の力を世界に献上すること。
 先生はそれを、無理矢理夏目くんにかけスキルとステータスを献上させようとした。
 結果は、半ば成功、半分失敗な感じになったけど。

 スキルは魂の力で出来ている。
 そして、魂の力を急激に失えばどうなるか?
 そりゃ、魂を構成してる力がいきなり消えたら、崩れるに決まってる。
 先生は崩壊するはずだった夏目くんの魂を、自分の魂を犠牲にしてつなぎ止めた。
 その先生の魂を、今度は私がつなぎ止めた。
 おかげで、私にもダメージが来ちゃったじゃないか。

 あーあ。
 黒との戦いに備えて、なるべくエネルギーの浪費は避けたかったのになー。
 まあ、今回の件は仕方がない。
 けど、二度と先生に同じ手段はさせちゃいけない。
 神の私だからちょっとエネルギー無駄に浪費したってくらいの感覚で済んでるけど、先生の魂は甚大な被害を受けている。
 もう一度同じことをすれば、今度は崩壊を止められる自信がない。

 夏目くんの動きも制御しなきゃならない。
 このまま野放しにしてたら、どうせろくなことにはならない。

 よし。
 決めた。
 本当だったら監視だけにするつもりだったけど、ガッツリ介入してやろう。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ