挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
356/502

227 働かざる者食うべからず

 屋敷に帰ってきた私を待っていたのは、衝撃の言葉だった。

「ブロウ様のご指示により、あなた様への食事の量が制限されました。これまでのように、求める分だけお出しすることは叶わなくなりました。お許しください。しかし、ご安心ください。当館にお住まいの限り、朝昼夕の食事の提供はさせていただきます。料理人が腕をかけて提供させていただきますので、お客様もきっと満足していただけるかと」

 意訳、食事減らすからな、OK?
 OKじゃねえ!
 確かに、ここの食事は美味しいよ。
 けど、私には量が必要なんだよ!
 食事減らされたらどうやって分体の維持するんねん!

 く、なんてこった。
 このままじゃ、(分体が)餓死してしまう。
 分体自身に適当な魔物を仕留めさせて食べさせるか?
 イヤ、隠密潜伏中のやつにはそんなことさせられない。
 それに、私が本格的に魔物狩りを始めちゃうと、生態系が狂う。
 現に私のせいでエルロー大迷宮の生態系はかなり変わっちゃったし。
 魔物が人を襲うっていうシステムの作りを、壊しかねない。

 となると、最低限虫とか小動物を狩ることで分体を維持させるか。
 それもあんまやりたくはないけど、背に腹は代えられない。

 あとは、ブロウなるやつにその指示を撤回させて、元の食事量に戻してもらうか。
 ブロウって、さっきのチンピラのことだよね?
 指示を出せるってことは、この屋敷の主に縁が有るってこと。
 やっぱり予想通りバルトの兄弟かなにかだったのかな?
 魔族は見た目と年齢が一致してないことがあるし、もしかしたら息子って線もなくはない。

 まあ、ブロウ某の正体なんてどうでもいい。
 やつはしてはならないことをした。
 私から、ご飯を取り上げるなんて、神をも恐れないとはよく言ったもんだ。
 食べ物の恨みは恐ろしいということを教えてやらねばなるまい。

 とはいえ、あいつの言い分も間違ってはいないんだよねー。
 あいつから見ると私ってタダ飯食らいなのには変わらないし。
 我ながら食い過ぎだって自覚はあるし。
 仕方ないねん。
 増えすぎた我が子を養うためにはいっぱい食べなあかんねん。

 私が客人だからか、量は減らされても、屋敷から追い出されるとか、食事を出されなくなるってことはなさそう。
 チンピラは私が魔王の関係者だって知ってるのかな?
 知ってたらこんなことしなさそうだけど、どうなんだか。
 少なくとも今回の件はチンピラの独断で、バルトには話通ってないでしょうね。
 バルト、私にも魔王にも心底ビビってたし。
 あれにこんな小さなことで私に逆らう度胸はないでしょ。

 となると、一番手っ取り早い解決方法は、バルトに直訴すること。
 そうすれば元の食事量に戻してもらえると思う。
 けど、それをやるとチンピラの見る目が厳しくなりそう。
 なんとなくだけど、ああいうタイプは権力者に対する反骨精神とか強そう。
 偏見かもだけど。
 私がバルトに頼ると、権力者に媚びへつらう寄生虫みたいな感じで見られるかも。
 それは、癪に障るなあ。

 こう、あのチンピラにギャフンと言わせた上で、堂々と食事の要求をしてやりたい。
 それならば仕方ない。
 あいつの要求通り、働いてやろうじゃないか。
 私は屋敷の自室にこもった。

 次の日、私は城に来ていた。
 屋敷の執事さんにチンピラの居場所を聞いたら、普段は城にいるとのことだったので。

 前にバルトに作ってもらった通行証のおかげで、城の中にはあっさり入ることができた。
 けど、そのあとが大変だった。
 チンピラへの面会を申し込むのに時間がかかり、実際に面会ができるまでの時間がさらにかかった。
 朝に城を訪れたのに、チンピラと面会ができたのは日が沈んでからだった。
 これだからお役所仕事は。

「何の用だ?」

 その声には隠しきれない苛立ちと疲れがある。
 こ、こいつ、仕事してやがる!?
 私がチンピラの執務室に通された時、やつは見た目に全く似合わない、書類仕事の真っ最中だった。
 チンピラのくせに、机にかじりついて仕事してるだと!?
 チンピラの法則が乱れる!

「おい、こっちは忙しいんだ。黙ってないでさっさと要件を言え」

 おっと。
 衝撃の光景にちょっとばかし動揺しちまったぜ。
 私は書類に埋もれているチンピラに、さらに大量の書類を追加してやる。
 異空間から取り出した山のような書類を、ドカッと積み上げる。

「仕事した。ご飯ちょうだい」

 端的に私の目的を話す。

「はあ?」

 チンピラは眉根を寄せて唖然とした声を出す。
 私と積み上がった書類を交互に見て、渋々といった感じで書類に手を伸ばす。
 そして、そこに書かれた内容に目を通す。
 そのうさんくさそうにしていた目が、徐々に見開かれる。

 チンピラは寄りかかっていた椅子の背もたれから身を乗り出し、書類を食い入るように見つめる。
 最初の一枚を見終わると、慌ただしく次の書類に目を通す。
 驚くべきスピードですべての書類に目を通した。

「お前、これ、どうやって?」

 書類を見終わり、少し放心したような声でチンピラが問いかけてくる。
 それに素直に答える私じゃない。
 自らの手の内を明かすわけないじゃん。

「秘密」

 チンピラは私の返答に、軽く睨みつけ、けど直ぐにその視線を逸らした。
 そして、頭痛をこらえるかのように頭を抑える。

「わかった。屋敷では好きにしろ」

 チンピラは諦めたかのようにそう言った。
 ふ、勝った。

「もういいか? お前のせいで余計な仕事が増えた」

 いいですとも。
 私としてもチンピラの相手なんかしてられないし。
 さっさと退散する。

 私が渡したのは、分体に探らせていた魔族領の情報の中で、使えそうなものをまとめたもの。
 私ってばちゃんと仕事してるんだよー、アピールはこれで成功した。
 これでチンピラも私のことをタダ飯食らい呼ばわりできまい。
 悠々自適の生活を維持するためならば、私はなんでもしてやるわ。
前話のクイーンの話を微修正しました
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ