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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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剣神VSオーガ

 オーガの振るう2刀を躱し、受け流す。
 まともに打ち合えばこちらの剣が叩き切られる。
 それだけの膂力が込められた一撃。
 否、全ての攻撃が儂の命を脅かす必殺の威力。
 ステータスでは劣っていると見た時から直感し、警戒していたつもりだったが、これは見通しが甘かったか。

「ガアアァァ!」

 オーガが吠える。
 ただの叫びが、音の塊となって叩きつけられる。
 耳に痛みが走り、殴られたかのような衝撃が体を貫く。
 スキルでも何でもない咆哮でこれか。

 オーガが地を踏み砕きながら刀を振るう。
 儂は大きく後ろに下がりながら、大げさなくらい横に回避する。

 儂が全力で後退した距離を、オーガは1歩で踏み越え、儂が先程までいた直線上を捉える。
 刀が振るわれた切先の延長線上に、紫電が舞った。

 やはり魔剣か。
 しかも、かなり強力な部類だな。
 そしてこのオーガ、振る舞いは狂っているようにしか見えないが、その戦いぶりはただ力任せのそれではない。
 魔剣の力を使っているのがそのいい証拠。
 理性を失っているように見えるが、それでもなお本能レベルで戦闘の技術を駆使してくる。
 なんと厄介な存在か。
 力任せに暴れてくれればまだやりようはあるというのに。

 激しい乱舞をなんとか掻い潜り、オーガの体に一太刀入れる。
 浅い。
 その上、堅い。
 手に伝わって来るのは、肉を切り裂いた感触ではなく、堅いものに刃が防がれた感触。
 肉どころか、皮すら切れぬか。

 勝負あった。
 儂はどうやらここまでのようだ。
 どんなに優れた技術を持とうとも、その攻撃が通じないのであれば、儂に勝ち目はない。
 あるいは目や喉などの弱点をつければ傷を負わすことはできるかもしれないが、致命傷には届かないだろう。
 対してオーガの攻撃は一撃で儂の命を奪うだろう。
 儂が攻めてオーガのHPを削りきるよりも、オーガの攻撃が儂を捉える方が早いだろう。

 ならば、儂のやるべきことは1つ。
 1人でも多くの住民が逃げられるよう、時間を稼ぐ。
 攻めは捨てる。
 儂の生涯で培ってきた全てを、防に回して時間を稼ぐ。



 どれだけの時間が過ぎ去ったのか。
 一瞬のようにも、永遠のようにも感じられた。

 オーガは儂が戦ってきた中で、最後にして最強の存在だった。
 そして、おそらく戦った長さもまた、最長だっただろう。

 何度日が昇り、沈んだか。
 途中から余計な思考すら省いていたが故に、そんなこともわからなくなっていた。
 集中すればするほど、まるで意識が消えゆくかのようになっていった。
 意思を手放し、その分を戦うための集中力に変える。
 儂という存在、個をなくし、ただただ戦うためだけの体となす。

 よもやこの歳にして、さらなる剣の極みに到達するとは思わなんだ。
 雷を切ったという経験は、できれば弟子にでも伝えたかった。
 弟子が真似できるとも思えんが。

 ああ、だが、終わりが見えてきた。
 こうして思考していることがその証拠。
 極限まで高められ、思考すら放棄して戦いに集中していたが、それが切れつつある。
 原因は、体力の限界。

 オーガからの攻撃は全て防いで見せた。
 だが、長く続いた戦いは儂の体力の限界を超えてしまった。
 動くたびに筋肉が引きちぎれ、骨がひび割れる感触がする。
 呼吸をするたびに口の中には血の味が広がり、目もかすんで半分も見えない。
 未だ倒れていないのが奇跡。

 その奇跡も、ここまでのようだ。
 最早1歩も動けない。
 それでも構えた剣は下ろさない。
 儂の最後の意地だ。

 足の止まった儂に、オーガは斬りかかってこなかった。

「ご老人、名を聞いておこう」

 ほう。
 てっきり理性のない化物かと思っていたが、喋ることができたのか。
 そういえば、途中から妙に剣筋がよくなり始めていた。
 戦っている最中に失っていた理性を取り戻したか?
 何が理由で理性を失っていたのかはわからないが、戦いで正気に戻るとは。
 その逆なら数え切れない程見てきたのだがな。

「剣神、レイガー・バン・レングザンド」

 掠れる声で、しかし、しっかりと告げる。

「剣神。そう名乗るだけのことはある。僕のほうが圧倒的に強いはずなのに、結局あなたには一撃も入れることができなかった。まさか、その苛立ちで逆に正気に戻れるとは思わなかったけど。いや、正気ではないか。殺したくて殺したくて怒りで今にも気が狂いそうだ。意識は戻ったけど、正気には程遠いかな」

 後半はただの独り言だろう。
 その姿は無防備だ。
 しかし、そこに切りかかれるだけの力がもうない。

「剣神、レイガー・バン・レングザンド。あなたの名前は忘れない。そして、敬意を表して戦士として殺そう」

 オーガの姿が消える。
 最早ほとんど見えない儂の目だが、見えていたとしても対処はできなかっただろう。
 それほどまでに研ぎ澄まされた斬撃だった。

「見事」

 愛剣ごと、儂の体が両断される。
 この戦いで剣の極意に到達したのは、儂だけではなかったようだ。
 まだまだ十分ではないが、その片鱗を感じさせる一撃だった。

「あなたも、見事だった」

 意識を失う刹那、最期にその言葉が儂の耳に届いた。




*************************


 黒は群がってくる白い蜘蛛をすべて蹂躙し尽くした。
 その上で異空間から脱出する。

 黒の主観では時間にしておよそ10日が経過していた。
 しかし、異空間から脱出してみて、外界と先程までいた異空間では時間の流れが違うことを察知した。

「空間に、時間まで操作するか」

 苦々しく呟く黒。
 妨害者は結局その姿を直接見せることはなかった。
 分身とも言うべき白い蜘蛛の大群をけしかけただけ。
 しかし、この蜘蛛も侮れなかった。
 命の危機というほどではないが、黒がここまで消耗したのはシステム構築以後初めてのことだった。

 黒は急いで魔の山脈を越える。
 その先にある狭間の国を目指して。

 しかし、そこにはもう国はなかった。
 黒が閉じ込められてから、外界では数年が過ぎていた。
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