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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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血21 3年

 この3年間、いろいろなことがあった。
 街から街へと移動を繰り返し、その移動中はなぜかちゃんとした道を避け、険しい道なき道を行く日々。
 街についたらついたで、お酒を解禁したご主人様が酔っ払う日々。
 体力的にも精神的にも休まる日がなかった。

 なぜ、街道を外れるのか。
 その答えはこの3年で大体予想がついた。
 ご主人様は大の人間嫌いだからだ。
 人に会わないために人のこない所を通っている。
 表情は動かさないけど、雰囲気でなんとなく人混みなんかだと機嫌が悪くなっているのがわかる。
 でなければ、魔法を使って自分の姿を誤魔化しまではしないと思う。

 ご主人様はいつの頃からか魔法で自分の姿を隠すようになった。
 いつも一緒にいた私はそれに気づくのが遅れたので、いつからその魔法を使っているのかわからない。
 その魔法の効果は、ご主人様のことを「白い」としか認識できなくするというもの。
 勘のいい人がよくよく観察でもしない限り、白いという感想しか出てこないらしい。
 なので、街で人とすれ違っても「白いなー」としか思われなく、顔の詳細やそれに付随する感想などは出てこない。
 その効果のおかげで、魔法を使う前のすれ違う人すれ違う人みんながガン見するような事態にはならず、チラ見してすぐ興味を失う程度に被害が収まっている。
 私はもうご主人様のことを端から認識してしてしまっているので、この魔法にはかからないようだ。

 そんな魔法を使う程度には、ご主人様は人間嫌いだ。
 人との接触をなるべく避ける傾向にある。
 例外は私とアリエルさんで、メラゾフィスもその他大勢に比べればマシだけど、若干私たちより扱いが雑な気がする。
 半ば存在を無視しているというか。

 とまあ、そんな個人の好き嫌いで険しい道を行かされる私たちはたまったものじゃないけれど、険しい道を行くことによって体力やスキルは向上した。
 これを少しは狙っていたのかもしれない。
 ご主人様が私を強く育成しようとしているのはこの3年でわかったし。

 この3年で私はだいぶ強くなったと思う。
 思う、というのは、未だに実戦を経験していないからで、スキルやステータスから客観的に見たデータに過ぎないから。
 アリエルさんの威圧で魔物はほとんど近づいてこないし、盗賊なんかも街道から外れた道なき道を進んでいるので、ほとんど遭遇しない。
 したとしてもご主人様かアリエルさんがすぐに処理してしまう。

 3年間で私は強くなった自覚はあるけれど、それでもご主人様とアリエルさんには勝てるビジョンが思い浮かばない。
 それだけ2人は異様なほど強かった。
 ご主人様が聖獣、アリエルさんが魔王。
 その言葉に偽りはないんだというのを、まざまざと見せつけられた。
 心のどこかで私はその事実を認めていなかったんだと思う。
 けど、2人の力は本物だった。
 そう認めざるを得なかった。

 鑑定しても2人の強さはわからない。
 ご主人様は『鑑定不能』だし、アリエルさんは『鑑定が妨害されました』だし。
 私はこの3年で鑑定のスキルレベルを9にまで伸ばした。
 ご主人様が酒の席でポロっと漏らした、常時鑑定を発動させてスキルレベルを上げるという苦行を実践した成果だ。

 ご主人様は酒に酔うと、時たまアドバイスをくれたり、自分の過去話をしたりする。
 大抵は為にならない話だけれど、中には本当に為になるアドバイスもある。
 鑑定もその1つで、ご主人様は鑑定で何度も命を救われたと言っていた。

 なので、私もご主人様が行ったという常時鑑定発動を試してみた。
 頭が割れるかと思ったわ。
 酷い頭痛に襲われて、結局ずっと鑑定を発動させていることはできなかった。
 限界いっぱいいっぱいまで何度も粘ったおかげか、神性領域拡張というスキルが新しく入手できたけれど、その時の私は気を失う寸前まで行っていて、それどころじゃなかった。
 そんな苦行を続けたおかげで、3年という短い期間でレベル9にまで上げることができた。
 ご主人様は1年もかからずに鑑定をレベル10まで上げたそうだけど、基準がおかしいので参考にはしない。

 ご主人様の過去話やアドバイスは話半分に聞かなければならない。
 別にご主人様が嘘をついているわけではなく、規格外過ぎて参考に半分くらいしかならないからだ。
 なによ、溶岩浴して火耐性上げたとか、魔法を常時発動させてスキルレベル上げたとか。
 「やってみ」とか軽く言うけれど、それができるのはご主人様くらいのものでしょう。

 エルロー大迷宮というところはかなりの魔境だったらしい。
 普通から見ると無茶苦茶なご主人様のレベル上げでもしない限り、生き残れないような。
 酒の席で「死ぬかと思った」という言葉を何回聞いたかわからない。
 本当にそれだけ死ぬ思いをしてきたんでしょう。

 そこから考えると、今の私は恵まれていると思う。
 私が生きていられるのも、ご主人様のおかげだし、かなり無茶振りもされたけど、おかげでそこそこ強くもなれた。
 その点に関しては感謝しなくもない。

 けど、けどね!
 いい加減酔った勢いで人の体を食べるのは勘弁して欲しいのよ!
 なんで毎夜体を賭けて死闘を演じないといけないわけ!?
 しかも全戦全敗の!
 しかもしかも、朝になるとそのことをケロッと忘れているし!
 どうしてお酒を飲まない街の外よりも、街の中の方が危険な夜を過ごさなきゃならないのよ!
 おかしいでしょ!?

 ああ、もう。
 それさえなければ、素直に感謝もできるっていうのに。
 回復魔法で失った部分は修復できるけど、刻まれるその時の恐怖と痛みまでは消えてくれないのよ。

 最初は舐めるだけだったのに、それが徐々に甘噛みになっていって、少しずつ噛む強さが強くなっていって、最終的に肉を持っていかれるようになった。
 どうしてこうなったんだろう。
 この頃はお酒を飲むと最後は必ずどこかしら食われてしまう。
 おかげでアリエルさんが結界を張ってくれなければ宿屋が崩壊するくらいの激戦を毎夜繰り返す羽目になってしまった。
 これも1つの実戦経験と言えるのかしら?
 まだレベルは1なんだけど。

 そんな感じでドタバタとした旅を続けてきたけど、いよいよ魔族領へと突入することになる。
 なんだかんだ言いつつ私はご主人様とアリエルさんにくっついて行って、魔族領入りすることを決めた。
 ええ、なんか人族とか魔族とかの小さい括りでものを考えるのをやめました。
 この世には考えても理解不能な理不尽な存在があるって身を以て知っているから。
 なんだかんだでここまで来たのだし、なんだかんだで魔族領でもやっていける。
 そんな気がするわ。
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