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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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血12 神言教とエルフ

 いろいろあったせいで眠気が襲ってきて、結局その日は寝落ちしてしまった。
 まだ聞きたいことは山のようにあったのに。

 目を覚ますと、テントの中だった。
 まだ日が昇っていないのか暗い。
 横にはメラゾフィスが死んだように寝ている。
 メラゾフィスを起こさないように、そっとテントの外に出てみると、あたりはまだ暗かった。
 遠くの空が青白んでいるから、すぐ明るくなってくるだろうけど。
 吸血鬼なのに朝早起きするって、変だね。

「おんや?起きたかい?」

 声をかけられ振り向くと、そこにはアリエルさんが昨日と同じ位置に座っていた。

「念話繋げようか?それとも喋れる?」

 どうしよう。
 一応私も喋れることは喋れる。
 ただ、まだ舌足らずで発音が怪しいし、赤ん坊だからか喋るのも結構疲れる。
 家にいた時は不審に思われない程度に喋ってはいたけど、念話なんて便利なものがあるのならできればそっちに頼りたい。

「ねんわで」

 念話で、と言おうとしたけど、やっぱり舌足らずで聞き取りにくい。
 スラスラ喋れないというのもストレスになる。

「OK。はいよ」

 アリエルさんとの間で念話が繋がったのが感覚的にわかる。
 便利なスキルだし、しっかりと喋れるようになるまでは活用する機会も多いだろうし、あとでスキルポイントを使って取得しておきましょう。
 結局スキルポイントは鑑定に使っただけで、他は手をつけていないし。
 吸血鬼であることを隠すためのスキルを取得するために温存してたんだけど、こうなっちゃうともう隠す意味もないし。

「疲れてたみたいでぐっすり寝てたね」

 アリエルさんが微笑みながらそう言ってきた。
 寝顔を見られていたようで、ちょっと恥ずかしい。
 あれ?
 もしかして、アリエルさん寝ないで見張りをしてたのかな?

『あの、もしかして、寝てないんですか?』
「うん?ああ、私睡眠耐性の上位スキルである状態異常無効持ってるから寝なくてもいいんよ。寝たい気分の時は寝るけどね」

 寝なくていいって。
 というか、状態異常無効って、相当すごいスキルなんじゃないのかしら?
 昨日の漫才みたいなやり取りを見てると信じられないけど、考えてみればこの人、私を襲った連中を圧倒してるのよね。
 魔王云々が本当のことなのかどうかはわからないけど、間抜けに見えて実力は本物なんでしょうね。

「なんだか微妙にディスられてる気がする」

 鋭い。
 内心冷や汗をかきながら知らんぷりをする。

「あとの2人はまだ寝てるから、起きてくるまで質問タイム受け付けるよ」

 そういえば、メラゾフィスはテントの中にいたけど、白織の姿を見てない。
 あいつはどこに?

『何、あれ?』

 キョロキョロと辺りを見回して、それが目に入ってきた。

「ああ、あれ。白ちゃんのホーム」

 アリエルさんの言葉の意味がよくわからない。
 そこにあるのは白い繭みたいなもの。
 大量の糸が何重にもなってできた、丸い繭。
 この中に、白織がいるってこと?

「あんま近づかないほうがいいよ。寝惚けて何するかわかんないから」

 なんとなく嫌な予感がしたので、アリエルさんの言うことを素直に聞く。

『まず、街は、父と母は、どうなりましたか?』

 最初に質問。
 答えは、多分私の望むものじゃないっていうのはわかりきってる。
 けど、聞かなきゃならない。

「街は攻めてきたオウツ国軍、まあ、実質神言教の軍なんだけど、そいつらに占拠されたよ。君の父上と母上は、残念ながら。という具合だね」

 予想はしてた。
 けど、やっぱり、改めて聞くとショックが大きい。
 それなのに、涙は出ない。
 私が薄情なのか、それとも混乱していて感情が麻痺しているのか。

「ちなみに、君らを襲ってた連中だけど、片方は神言教の裏部隊。片方はエルフ。両方とも君が転生者だって知っててターゲットにしてたみたいだね」
『エルフ?』

 そういえば、昨日の野菜炒めにエルフとかいう単語があった気がする。
 神言教はまだわかるけど、なんでエルフが?

「エルフがなんで転生者を狙ってるのかはよくわかんない。ただ、エルフの頭であるポティマスって奴は腐りきったクズだからね。碌でもないことを企んでるのは目に見える」
『そうなんですか?』
「うん。もうクズすぎて世界がピンチなくらいのドクズ」

 酷い言われようね。
 けど、嫌悪感丸出しでアリエルさんが語るくらいだし、少なくともアリエルさんは相当エルフのことを嫌ってるみたい。
 エルフって、イメージではもっと神聖なものなんだけど。

「神言教の連中も、どこで目をつけたのかわかんないけど、君のことを狙ってたっぽいね。あるいは今回あの街が標的になったのは、君がいたからかもね」

 その言葉に息が詰まる。
 私の、せい?

「あくまでかもしれない程度の話だけどね。目的の1つになってた可能性はあるよ。神言教の教皇はそういう効率を重視する男だから。女神教の信用を落としつつ、裏の目的も達成する。1手でいくつもの結果を出すように動く。そんな策士だよ」

 私のせい。
 私のせい。
 私のせい。
 その言葉が頭の中でリフレインする。

「気にしない、って言ってもムリな相談だろうけど、今回のことは世界の大きな流れの中の1つ。どっちにしろそれを変えることなんか君にはできない。人間出来ることとできないことがあるんだし、今回のことはどうしようもなかったって諦めたほうがいいよ」

 そんな簡単に、割り切れるものじゃないでしょう。

「重要なのは、それからどうするかだよ。今回はどうしようもなかった。起こったことは変えられない。じゃあ、同じようなことが起きた時、今回と同じ結果になるのを指を咥えて見てるだけか、それとも抗ってみるのか。君ならどっちを選択する?」
『抗います』

 即答する。
 そうだ。
 こんな理不尽なこと、もう繰り返させない。

「じゃあ、抗うためにどう行動する?今のままじゃ、結果は同じ。そのどう行動するかこそが、重要なんだよ。落ち込んでもいいし、悩んでもいい。ただ、抗うと決めたのなら、立ち止まるのだけはやっちゃいけない」

 そうだ。
 その通りだ。

 私はこの人のことをちょっと勘違いしてたのかもしれない。
 ふざけてばっかりの頼りない人かと思ってたけど、言っていることはとてもタメになる。
 この人の言うとおり、立ち止まるのだけはやめよう。
 そう、決意した。
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