挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
285/495

血3 蜘蛛との遭遇

 それは初めて私が街の外に出たときのことだった。
 私は街の長の長女ということで、手厚く保護され、街の外に出たことはなかった。
 母が実家の田舎に一時帰宅するということで、私も祖父母に見せるという名目で連れて行かれることになった。

 生まれて初めての外の世界。
 とはいえ、目的の街まではさほど離れていない。
 馬車に揺られること1日。
 生まれ育った街よりも少し狭い街に到着し、そこで祖父母と初めて会った。

 祖父母というには若い。
 まあ、母もかなり若いし、この世界では婚期が早いんでしょう。
 祖父母も街を治める貴族だった。
 そうして祖父母のもとで幾日か過ごし、私たちは帰路に着いた。

 その帰り道で、事件は起きた。

 盗賊に襲われた。
 相手の数は6人。
 街の領主の妻と娘を襲うにしては少ない数なので、計画性のない襲撃であると予想できる。
 身なりのいい馬車が通りかかったから襲ってみた、という短絡的な襲撃だと。

 問題は、そんな短絡的な襲撃にも対処ができないこと。
 相手の数が6人なのに対して、こっちの護衛は4人。
 最近こうした盗賊の活動が活発になっているというのは噂話で聞いていたけど、まさかこんな街道のど真ん中で襲撃されるなんて思ってもいなかった。
 ここが日本とは常識が全く違う世界なのだと、身を持って思い知った。

 護衛は奮戦するも、数の差で徐々に押され始める。
 そして、1人が盗賊に切られた。

「メラゾフィス!?」

 母が思わず車内で叫ぶ。
 切られた護衛は母が幼い頃からそばに仕えている執事でもある人だ。
 幼馴染のような関係だったらしく、母に対する忠誠心は高い。
 母は天然の気があるので、もしかしたら気付いていないのかもしれないけど、メラゾフィスは母のことを異性として愛している。
 その想いを忠誠心に変えて、母に仕えているのだ。

 そんな忠臣が切られた。
 血が地面に広がっていく。
 ついさっきまで動いていた人間が、倒れて動かなくなる。
 流れ出した血が、そのままメラゾフィスの生命力のように見えた。

 ゴクリ。

 なぜか喉が鳴る。
 それは多分、死が間近に迫っている恐怖からだと思う。
 護衛が全滅すれば、次は私たちだ。
 母はまだ若いから攫われるかもしれない。
 私は、赤ん坊だからさっさと処分されてしまうかもしれない。
 身代金目的に生かされるかもしれないけど、碌な結果にはならないと思う。

 せっかく転生して、第2の人生これからだっていうのに、こんなところで私は死ぬの?
 嫌だ。
 怖い。
 死にたくない。
 まだ、私は生きていたい。
 誰か、助けて!

 その心の叫びを聞いたわけではないでしょうけど、それは突如として現れた。
 盗賊の1人が、急に血を滴らせながら倒れた。
 そこにいたのは、真っ白い蜘蛛。
 地球ではありえないほど大きな、1メートルはあろうかという蜘蛛。

 話には聞いていた。
 この世界には魔物がいる。
 魔法があるのだし、そういうものがいても不思議じゃないとは思ってた。
 けど、目の前に現れたそれは、話に聞くのとは違って、現実的な恐怖を私に与えた。

 私と同じように、呆気にとられていた盗賊の体が、蜘蛛が振るった腕の一薙で綺麗に真っ二つになる。
 臓物が飛び散り、凄惨な光景が目に飛び込んでくる。

 ゴクリ。

 また私の喉が鳴った。
 そこは逆に吐き気を覚えるところでしょうに。
 自分で自分に突っ込む。

 そうしている間に、蜘蛛の魔物は何かの魔法で盗賊を1人倒し、残り2人も素早く始末してしまった。
 魔法は、かろうじて土魔法を使ったんじゃないかと予想できる。
 茶色い何かが高速で飛翔し、盗賊の頭を撃ち抜いたから。
 けど、残り2人はわけがわからない。
 逃げ出そうとして、急に動きを止め、そのまま倒れてしまった。
 何をしたのかさえわからない。

 蜘蛛が悠然とこちらを向く。
 私たちの間に、緊張が走った。
 次は私たちの番だと。
 盗賊に負けそうになっていた私たち。
 そして、その盗賊を一瞬で皆殺しにしてしまった魔物。
 助かる見込みは、なかった。

 護衛が蜘蛛に剣を向ける。
 恐怖で体が小刻みに震えている。
 彼らもわかっているはず、勝ち目はないと。
 それでも、最後まで護衛としての役目を全うしようとしている。

 蜘蛛はすぐに襲い掛かってはこず、こちらの様子を伺っているかのようだった。
 その無機質な赤い目が周りを見渡す。
 その目が、倒れたメラゾフィスに固定される。

 メラゾフィスに近づく蜘蛛。
 何をするのかと思った直後、蜘蛛が魔法を発動し、メラゾフィスの傷が癒える。
 治療魔法。

「まさか、御使い様?」

 母が慌てて馬車の外に出る。
 私を抱えたまま。

「セラス様!危険です!」

 護衛が馬車の中に戻るように促すけど、母はそれを無視して蜘蛛に近づいていく。
 蜘蛛が振り返る。
 8つの目がすべて私に集中したかのような錯覚を覚える。

 体中を悪寒が駆け抜ける。
 怖い。
 なんなのこれ?
 こんな生き物が存在していいの?
 そこにいるだけで恐怖を撒き散らしているかのような存在感。
 こんな魔物がこの世界では頻繁に出てくるの?
 だとしたら、とんでもない世界に転生してしまったかもしれない。

「あなた様は、御使い様でいらっしゃいますか?」

 母の言葉に記憶の中の単語を思い出す。
 御使い、それは確か、母が信仰している女神教において、女神の従者としてそばにはべる存在のことだったかな?
 女神はいろいろな種族の従者を従えていて、深き賢人だとか緑の守護者だとか厨二臭い二つ名持ちが神話に残っている。
 その中に、女神の衣服を仕立てたという蜘蛛が存在していた。
 女神教を信仰している母から見ると、自分たちのことを助けてくれたこの蜘蛛が、その御使いに見えたのだろうか?

 どう考えてもこの禍々しい気配は聖なる女神様とは真逆のものに思えるんだけど。
 どうも母の中ではこの蜘蛛は御使いで確定しているらしい。
 なおも感謝の言葉だとか祈りの聖句だとかを口にする母。
 そんな母に、蜘蛛が目を向ける。

「鑑定?」

 母がビクッと反応し、そうポツリと呟く。
 スキルの名前かな?
 便利そうだし覚えられないかな?

《現在所持スキルポイントは75000です。
 スキル『鑑定LV1』をスキルポイント300使用して取得可能です。
 取得しますか?》

 唐突に神の声が聞こえてきた。
 そちらに意識を一瞬持って行かれているうちに、蜘蛛は消え去っていた。
 ものすごいスピードで走り去る蜘蛛の背に、「お待ちください!」と母が叫んでいたけど、私としてはそのまま去ってくれたほうが良かった。
 恐怖に強張っていた体から力が抜ける。

《熟練度が一定に達しました。スキル『恐怖耐性LV1』を獲得しました》

 こうして、私は無事に生き残ることができた。
 けど後日、その蜘蛛が私の住む街のすぐ近くに住み着いたことにより、またひと騒動起きることになった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ