挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
266/495

エルフの里攻防戦④

【ロナント】

 結界が割れ、軍が進み始める。
 しかし、どうにも先ほどの結界の割れ方に違和感がある。

「老師、どうしました?」
「うむ。先ほどの結界の割れ方、どう見る?」
「やはり、老師も不自然に感じましたか?」
「貴様に見抜けて儂に見抜けぬ訳が無かろう」

 馬鹿弟子でさえ違和感を持ったのなら確定じゃな。
 あれはこちらが用意した大魔法で破れたのではなさそうじゃ。
 あの大魔法も儂の知らぬ高度な術式じゃったが、扱う魔法使いたちの力量はお粗末。
 教会の魔法使いだというが、あの腕では魔法にいいように振り回されているようにしか見えなんだ。

 しかし、それならば何が原因で結界が割れたのか?
 魔法が直撃した瞬間、何か別の衝撃が結界に加えられたように見えた。
 だとすれば、儂ら以外にも行動している何かがいるのか?
 その目的は?
 そう見せかけたエルフの陽動?
 だとすればこのまま進軍するのは危険じゃが、ふむ。

「儂らはこれより本隊とは別行動を取る。付いて参れ」
「えっ!?ちょっ、老師!?」
「なーに。ユーゴーのバカタレは全体など見ておらん。儂らが別行動を取ろうが気づかぬだろうよ」
「そういう問題ですか!?」
「一応伝令ぐらいは残しておくかの」
「そこですか!?」

 儂の勘が言っておる。
 結界を破壊した謎の存在、それを確かめねばならないと。
 であれば、迷う必要などない。
 結界の割れ方から、おおよその位置を逆算する。
 そこに向けて儂らは進軍を開始した。

 が、森のあちこちで絶え間ない襲撃を受け、儂らは早々に足止めを食らうことになった。
 エルフが木々の隙間から魔法や弓矢を放ってきておった。

「なるほどのう。こちらは足場が悪く、進軍もままならんというのに、あちらは木を利用して優位に立てる。森全体が巨大なわなというわけじゃな」
「感心してないで老師も働いてください!」

 弟子が必死にエルフの魔法に応戦する。
 戦況は互角。
 こちらの損害は、出てはおるが馬鹿弟子どもに脱落者は無し。 
 少々ガッカリじゃな。

「エルフとは、この程度か」
「老師?私の話聞いてますか!?」

 エルフを抜かせば世界最高の魔法使い。
 それが今の儂の評価じゃが、実際にエルフを見てしまえばその評価は間違っていたと思い知らされる。
 馬鹿弟子と互角程度にしか渡り合えないのがそのいい証拠。
 エルフなど、儂の敵ではない。

「ふん」

 魔法を構築。
 発動。
 エルフが儂の魔法に撃ち抜かれ、息絶える。

「これで満足か?」
「は、はい」

 儂はエルフを全滅させ、静かになった森の中をまた歩き始める。

「なんという魔法構築の早さ」
「それもあるが、あの量の魔法を一気に作り上げることが、可能だというのか?」
「いや、そもそもあの魔法に追尾の性能なんかなかったはずだ。魔法に付加効果をつけるとは、やはりあの方は天才だ」

 この程度の児戯で騒ぐとは、嘆かわしい。
 む?

 飛んできた魔法を防ぐ。
 ほほう。
 なかなかの威力。
 今さっき全滅させたエルフたちとは練度が違う。
 新手か。
 万里眼で確認する。
 先ほどのエルフ同様、木を盾にして遠距離から攻撃する戦術は変わっていない。

 弟子たちでは少々厳しい相手かの。
 どれ。
 少し本気を出すか。

 魔法を構築。
 数は先ほどの10倍。
 威力は2倍。
 追尾性能も距離があるので上昇させる。
 エルフが息を呑むのがわかったが、慈悲をくれてやる理由もなし。

 儂が放った魔法がエルフの体を貫いていく。
 あるものは防御の魔法を展開するも、その魔法ごと貫かれて。
 あるものは相殺しようと魔法を放ち、相殺しきれずに貫かれて。
 あるものは避けようと逃げるも、追尾してくる魔法に追いつかれて。

 転移する。
 転移した儂の目の前には、エルフの中で唯一儂の魔法を防ぎ切ったものがおった。
 しかし、すべてを防ぎ切ったわけではなく、その体は朱に染まっておった。

「転移まで使いこなすか。化物め」
「儂が化物なのではない。貴様らが弱いだけよ」
「ほざけ」

 エルフが最後の力を振り絞って魔法を構築する。
 遅い。
 あとから構築を始めた儂の魔法の方が発動が早く、エルフはあっさりと命を失った。

「お見事です」
「戯け。この程度の相手を倒したところで、何も誇れはしないわ」
「エルフですよ?魔法の腕なら人族を遥かに凌ぐと言われる。それをこうも容易く屠ることができるのは老師くらいのものです」
「あのお方であればもっと簡単に始末できるわい。これならこの前の勇者の方がよほど強かったのう」
「老師、あの時何故引いたのですか?」

 弟子の質問に、儂は少し考える。
 確かに、弟子が内心で見透かしているように、全力を出せば勝てたかもしれぬ。
 儂1人では勝率は半分を切っていたじゃろうが、弟子たちと合わせれば勝てていたやもしれぬ。
 じゃが、儂はその賭けをするつもりが無かった。

 儂も甘いの。
 弟子が死ぬ姿を見たくなかった。
 そして、勇者が死ぬ姿も。

 儂には1人の弟子がおった。
 政治的なことやいろいろなしがらみのせいで、この手で育てきることのできなかった弟子が。
 付き合った期間はわずか13日。
 手元に置いておれば、もっと伸ばせたであろう才能の持ち主。
 あれは剣を主体に戦っておったが、どちらかといえば魔法の方に才能があった。
 じゃから、儂がこの手で育てていれば、魔族に敗れることもなかったかもしれん。

 全ては仮定の話じゃな。
 13日間では教えられることなどほとんどなかった。
 それでも、先代勇者ユリウスは、まごう事なき儂の一番弟子じゃった。

 あの方に言われ、教えたのは事実。
 しかし、人に教え始め、儂は何か大事なものを見つけた気がするのじゃ。
 あの方はこれも見越しておいでだったのじゃろうか?
 わからぬ。
 あの方の真意など、儂ごときでは見通せぬ。

 かつての弟子の弟が立派に育っていることは確認できた。
 それで、ユリウスをしっかりと導けなかった罪悪感が薄れるかというと、それとこれでは話が違うが、感慨深いものはあった。
 じゃから、あの場で戦うという選択肢はなかった。

「気まぐれじゃよ」
「はあ」

 本心を誤魔化すため、適当にはぐらかす。
 まあ、もし次にあの勇者に出会うことがあるのであれば、今度は少し本気で揉んでやるのもいいかもしれんな。
 単純な力ならば負けることは確実じゃが、勝ちにこだわらなければやりようはいくらでもある。
 負けない戦い方もあるのだと教えてやれるやもしれんな。
 もっとも、次に会えるかはわからんがのう。
 とりあえずこの戦場を生き抜くのが先決じゃな。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ