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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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エルフの里攻防戦③

【転生者居住区】

 荻原は焦っていた。
 元冒険者2人組の料理に毒を混ぜたはずなのに、ケロリとしているからだ。
 内心の焦りを押し殺し、何食わぬ顔で2人を見送る。
 こうなってしまえばもう荻原にはどうしようもない。
 任務は失敗だが、保険の意味合いも強いのだろうし、あとは現場の連中に託すしかない。

 幸い、2人は毒を盛られたことに気づいていないようだ。
 毒耐性が高く、無意識のうちにレジストしてしまったのだろう。
 そう思っていた。

「で?オギ、俺たちに毒盛ろうとしたお前の真意は、出発する前に聞かせてくれるんだろうな?」

 そのクニヒコの言葉で、荻原の血の気は一気に引く。
 気づかれていた。

「な、なんのことだ?」

 とぼける。

「とぼけんな。お前がやったってことはもうわかってんだよ」

 言い逃れは許さないという、確固たる意思が感じられた。
 荻原は言い訳をするのを早々に諦めた。
 証拠は、などと間抜けなことは言わない。
 証拠がなければ無罪になるのは法治国家の中だけで、ここは異世界であり、警察も弁護士もいない。
 クニヒコの中で荻原は既に有罪であり、下手な言い逃れは逆に立場を悪くするだけだった。

「あーあ。毒で素直に動けなくなっててくれれば良かったのにな」

 その言葉に、周りがザワリと反応する。
 その様子を見て、クニヒコとアサカはこの一軒が荻原の単独で起こした行動であると半ば確信する。
 まだ確定ではないが、周囲の反応は本気で驚いているものであり、冒険者として修羅場をくぐり抜けてきた2人には、人の感情や仕草が手に取るように分かった。
 そして、経験則から荻原以外は白と見た。

「おし。一発ぶん殴ってからゆっくり事情を聞かせてもらおうか?」
「まあ、待てって。毒盛ったのは確かだけど、俺はお前らの事を思ってやったことだぜ?」

 一歩踏み出そうとするクニヒコ。
 それを言葉で牽制する荻原。
 焦る心情を表に出さないように、荻原は逆転のために頭を必死に動かす。

「どういうことだ?」
「簡単な話だ。お前ら、行けば死ぬぞ」

 また一歩クニヒコが間合いを詰める。
 荻原はそれに合わせて一歩下がる。
 その目は、クニヒコを素通りして、クニヒコとアサカを案内するために来ていたエルフ数人に注がれる。
 さらに、この居住区を隠れて監視しているエルフの気配を探る。

 ここから先は博打だ。

「夏目が暴走して軍隊をここに派遣してきた。俊の言ってることは間違いじゃない。けど、半分しか合ってない。夏目の軍隊を隠れ蓑に、本来の目的、エルフの殲滅が始まる」
「何!?」
「ビックリしたか?俺は内部から情報を外にリークする潜入員ってわけだ。この作戦でエルフの大半は始末される。ここには手出しされない手筈になっているから、戦場に出ないことをおすすめするよ」

 クニヒコの動きが止まる。
 それを横目に、アサカは荻原の言葉が本当かどうかを考える。

 荻原がここに連れてこられたのは転生者の中でも遅い。
 とはいえ、つい1年ほど前に連れてこられたクニヒコやアサカと違い、荻原は10年ほど前に連れてこられたという。
 他の転生者の中では遅いが、不自然なほど遅いというわけでもない。

 エルフの里に連れてこられる前の短い期間に、荻原はどうしていたのか。
 エルフの里に連れてこられ、結界があるにも関わらず外部と連絡が取れるのか。
 それらの疑問は、荻原があっさりと白状した。

「俺は教会所属で、幼い時に諜報の訓練を受けた。俺が持ってるユニークスキル『無限通話』は制限なしに念話が使えるってスキルだ。結界を素通りすることもできるし、念話と違って盗聴されることもない。これでずっと外部と連絡を取り合ってたってわけだ。ああ、もちろんこのスキルは隠蔽で隠してある。エルフの連中は『体術の天才LV1』が俺の生まれながらのスキルだと思ってるだろうよ」

 暴露した荻原へのエルフの対応は迅速だった。
 その身を拘束するため、魔法を発動する。
 風を対象の身に纏いつかせ、身動きを封じるという魔法だ。

 それを、荻原は回避した。
 冒険者として活動していたクニヒコとアサカはその動きから、素人とは呼べないレベルの技量を感じ取った。
 が、一流には程遠いとも。
 それでも、エルフの里に来る前の数年でこの動きを身につけたのだとすれば、相当な訓練を積んだのが伺える。

「エルフはもう終わりだ。エルフについて無駄死にするか、こっちについて生き残るか。どっちを選ぶ?」

 その言葉に転生者たちは動揺する。
 エルフにいい感情はない。
 かと言って、急にそんなことを言われてもどうしようもなかった。

 荻原が言葉を投げかけたのは元冒険者のクニヒコとアサカに対して。
 この2人をこちら側に引き込めば、勝算はあると踏んでいた。
 が、荻原は焦りで失念していた。
 既に毒を盛るという敵対行為をしていたことを。

 アサカが荻原を地面に組み伏せる。
 荻原には一瞬何が起きたのかわからなかった。

「エルフの皆さん。こいつの処遇はこちらで決めます。手出しは無用です」

 アサカは冷たい声で言い放つ。
 それにエルフたちは気圧される。

「詳しい話、聞かせてもらうわよ」

 アサカに引きづられ、荻原は手近な家の中に放り込まれる。
 エルフがそのあとを追おうとするが、その行く手をクニヒコが塞ぐ。

「あんた、迂闊すぎでしょ」

 防音を施したアサカが荻原に詰め寄る。

「あんなこと言って、ここでエルフと敵対しちゃったら戦えない他のみんなはどうするつもりなの?」

 アサカの詰問に、荻原は答えられない。
 荻原に言い渡されていた任務は、転生者には大人しくしていてもらうようにしろというもの。
 その際の手段は選ばないとも。

「それで考えついたのが服毒?お粗末過ぎるでしょう」
「仕方なかったんだ。エルフの目があるから迂闊に情報を漏らすこともできなかったし」
「それこそあんたご自慢の無限通話でも使えば良かったじゃない」
「あ」

 今気づいたとばかりに間抜けな表情をする荻原に、アサカは溜め息を吐く。

「とりあえず、拷問するわ」
「は?」
「それでエルフの目を少しでも逸らす」
「え?それは、フリだよな?」
「少しくらい傷がないと不自然でしょ?」

 防音をわざと切った家の中に、荻原の悲鳴が響き渡る。
 それはもちろん外にいる全員の耳に届き、彼らの肝を冷やさせた。

 荻原は本当に軽い拷問を受け、アサカに洗いざらい吐き出すことになる。
 その情報を得て、アサカとクニヒコは動き出す。
 戦いに行くのではなく、生き残るために。
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