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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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195 変化

「で、今の貴様はどちらだ?」

 そのギュリエの問いに、私は考える。

「ギュリエから見てどっちに見える?」

 考えた末に、逆に聞き返した。
 質問を質問で返す形だけど、仕方がない。
 ギュリエの質問の答えが、私自身わからないのだから。

「どちらでもあり、どちらでもない。今の貴様は混ざりすぎてどちらとも言えないような状態になっている。が、どうやら意識はアリエルの方に近いようだ」
「あー、やっぱそうか」

 苦笑しながら頭を掻く。
 予想は出来てたけど、改めて他人から指摘されるとそうなんだなーという感覚になる。

「口調はあれの方に近いようだがな」
「だね。ついでに言えば思考もそっちの方に近い気がする」

 でなければこんなに楽観的な気分にはなれないだろう。
 前までの私は慎重で臆病者だ。
 自分が自分でなくなっていくなんて体験を現在進行形でしていて、未だに精神的に参っていないのがいい証拠だった。

「それで、これから貴様はどうするのだ?」
「わからない」

 ホントにわからない。
 ここまで魂が混ざり合ってしまった状況で、相手の本体を倒してももはや手遅れだろう。
 そして、最大の問題はその本体を倒す手段が私には思いつかないということだった。
 倒しても謎の復活を遂げるうえに、そもそも転移を持っているため捕まえることも容易ではないはずだ。
 前に接敵できたのは運が良かったのと、本体がアホなだけで。

 追いかけっこをしても捕まらず、仮に捕まえても倒すことができない。
 倒すことができても、もう以前の私に戻ることはないだろう。
 これ以上の侵食が進まなくなるという保証すらもない。
 八方塞がりだった。

「正直私はもう詰んでる。私が私として残るかどうかは五分五分くらいだろうけど、その私も私と言っていいのかどうか。そういう意味ではアリエルという存在は既に変質して消えてしまったと言えなくもないかな」

 死んだ、とまでは言わない。
 私にはしっかりとアリエルとしても記憶も思いも残っている。
 けど、思考の仕方は昔とは違う。
 果たしてそれは私と呼べるのか。
 答えの出ない難題だ。

「どうしてそうなるまで私に相談しなかった?」

 ギュリエが少しだけ悲しそうな顔でそう聞いてきた。

「いや、敵対している相手と酒盛りするような奴に何を相談しろと?」

 深刻な顔をしてやってきたけど、私の嗅覚はごまかせない。
 ギュリエは酒を飲んでいる。
 しかも、微かに漂う匂いから、私が敵対している相手の本体と接触していたようだ。
 どうも前に嗅いだ匂いに加えて、人臭さもするので、他にももう1人いたのだろう。

「私は管理者として公正に接しているだけだ」
「わかってるよ。だからこそ相談できなかったんじゃん」

 ギュリエは管理者だ。
 この世界を運営していくにあたって、自分の都合で誰それに味方することなんかしちゃいけない。
 だから、たとえ死の淵に瀕したとしても、ギュリエを頼ることはできない。
 それこそフェアじゃないから。

「それでもだ。直接手を出すことはできなくとも、間を取り持つことくらいは出来たはずだ」
「最初から泣きつくなんてカッコ悪いじゃない」
「それで意地を通した結果がこれだ」
「そう言われると、ね」

 ホントに、長く生きたせいで無駄にプライドが高くなっていたのかもしれない。
 最初からギュリエに頼っていれば、こんなことにはなっていなかっただろう。
 けど、それに対する後悔はない。

「ギュリエから見て、間を取り持てばどうにかなる問題だった?」
「少なくとも、停戦くらいは出来たはずだ。貴様とあれでは目指す位置が似ている」
「そっか」

 それが聞けただけでもいい。
 もし仮に私という存在が消えたとしても、私の意志を受け継いでくれる存在が居る。
 その相手に食われるのであれば、私が消えることも無意味ではなくなる。

「それで、今からでも遅くはないぞ?」
「んー。やめておく。ここまで来たら結末は自分で確かめるよ」
「そうか」

 私という存在が残るにせよ、消えるにせよ。

「ギュリエから見て、私が残る可能性はどの程度だと思う?」
「半々だな。魂の分離は私の手でももうできないレベルに達している。どちらにしても、何らかの形で貴様という存在は残るだろうが、それがどのような形になるのかは私にも想像できない」
「そう」
「どうにも、貴様の魂に取り憑いている側も自分の意思で融合を止められなくなっているようだ。どちらの思考が表に出るかもわからない。もしかしたら混ざり合った挙句にまったくの別物に成り果てる可能性すらある」

 そうならない事を祈ろう。
 なるべくなら残りたいという気持ちもあるし、抗えるだけ抗う。

「とりあえず、逃げた本体を追うことにするよ。そのあとのことは出会ってから考える」
「そうか。私としてはできれば貴様にもあれにも残って和解して欲しいところだが」
「酒盛りして情でも沸いた?」
「そうだな。Dが気にいるのも頷ける。あれはなかなかに愉快な存在だ」

 冗談めかして聞いた質問に、ギュリエは素直にそう答えた。
 珍しい。
 この男がサリエル様とは全く無関係な相手にこのような感想を漏らすとは。
 よほど気に入ったと見える。

「浮気?」
「断じて違う。あれは見ている分には面白いが、身近にいると非常に厄介な存在だ。そんな相手に恋愛感情など持てぬよ」
「ああ、そう」

 褒めているのか、貶しているのか。
 どちらかというと貶している方か。

「それじゃあ、将来3人で酒を飲めるように、精々頑張るわ」
「ああ。達者でな」

 もしかしたら今生の別れになるかもしれない挨拶を交わす。
 ギュリエが転移で去ろうとして、私は気づいた。

「ちょっと、地龍は置いていきなさいよ」
「断る」

 すげなく言って、ギュリエは地龍の亡骸と一緒に転移で去っていった。
 その後最下層を見て回ったけど、他の地龍も回収されていた。
 おのれ。
 次に会った時はこの恨みを晴らさなければ。
 そのためにも、ここで消えることはできなくなった。
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