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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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193 管理者愚痴る

 ギュリギュリは死にかけてる水龍を無造作に海に放り投げる。
 なんというか、扱い方がぞんざい。
 水龍は一応息を吹き返したらしく、そのまま泳いで去っていった。

 ギュリギュリが私の隣に腰を下ろす。

「随分暴れまわってくれているようだな」

 ギクリ。
 やばい、怒ってる?
 ぶっちゃけ魔王相手なら卵復活が使えるし、五分五分とはいかないけど死にはしない状況は作れてる。
 けど、この男は別だ。

 管理者ギュリエディストディエス。
 この男はこの世界最強の存在で、Dと同じ領域の住人。
 すなわち、神。
 比喩でもなんでもなくガチで神。
 システムにも一部干渉できるチートオブチート。

 この頃私も神という存在がどういうものなのかを、ぼんやりとだけど掴みかけてきてる。
 そうなってくると、この男やDがどんだけやばいのかがよくわかる。
 魔王を戦車だとたとえれば、ギュリエディストディエスは核兵器だ。
 勝つ負ける以前の問題で、爆発した瞬間終わる。
 そんな存在だ。

 怒らしちゃいけないランキングではDに続いて堂々の第2位。
 3位の魔王をぶっちぎっての第2位。
 そうか、ここが私の死に場所か。

「おかげで私は頭が痛いよ」

 ギュリギュリが大きな溜め息を吐く。
 あー、うん。
 怒っているというか、部下のミスで謝罪祭り開催した上司みたいな雰囲気。
 怒ってはいないけど、ただひたすら疲れたって感じ。

 ギュリギュリが空間を歪めて、何かを取り出す。
 瓶?

「飲むか?」

 キュポンと蓋を外すと、芳醇な香りが漂ってくる。
 お酒だった。
 ギュリギュリがこれまた異空間からグラスを2つ取り出し、お酒を注ぐ。
 有無を言わさずそのうちの1つを渡されてしまった。

「付き合え。それぐらいの強権を振るうくらいは許されるだろう」

 あ、はい。
 未成年なんでお酒飲んだことないんですが、この状況で断ると怖いのでお付き合いさせていただきます。

 ギュリギュリがグイッとお酒を飲み干す。
 いい飲みっぷり。
 この人普段から相当飲んでるなこれ。

 お酒のことなんかわからないけど、とりあえず香りを楽しむ。
 海の匂いと混じって変な感じだ。
 そのまま一口。
 あ、ほんのり甘くて美味しい。

「追加はたんまりある。遠慮せずに飲むといい」

 そのお言葉に甘えてクイッとグラスの中のお酒を飲み干す。
 すかさずギュリギュリがおかわりを注いでくれる。
 生まれて初めて飲むお酒を楽しんだ。




「まったく、ポティマスのクズは引きこもったままだし、最低限の釘さしはしたがどうせまた碌でもないことを考えているに違いない。あれはもうどうしようもないクズだというのにサリエルは殺すなという。その言葉がなければ八つ裂きにして地獄に叩き落としてくれるものを。アリエルもダスティンも人の言うことを聞きやしない。特にアリエルだ。さんざん手出し無用だと言っているのに渦中に飛び込むとはどういう了見なんだ。ああ、事情はわかるがそれなら私に相談するなりすれば間を取り持つくらいしてやったものを。私は奴のことを少なくとも同士だと思っていたが、私の独りよがりだったというわけだ。まあ、はぐれ龍たる私にはお似合いだな。ボッチだボッチ」
「うへへ。世界が輝いているー」
「輝いているわけがなかろうが。こんな世界サリエルがいなければとうの昔に見捨てていたものを。他の龍どもがしでかしたことは許せないが、この世界の人間も馬鹿でクズばかり。浄罪システムで解放された人間が一人もいないことがいい証拠だ。どいつもこいつも罪科ポイントだけ貯めるだけ貯めて、ちっとも減りやしない。どれだけ悪行を積めば気が済むのだ。そのくせ悪龍討伐だなどとほざいて地域管理を任せている部下に戦いを挑む。悪はどっちだという話だ全く」
「あー、幸せー」
「私は不幸だよ。お先真っ暗だ。だが、仕方ないのだろうな。これも惚れた弱みだ。私は彼女の望みを叶えてやりたい。それで彼女が死ぬことになろうとも、最期に彼女が笑ってくれるならばどんなことでも耐えてみせる。ただ、彼女が死んだ後のことなど知ったことではないがな」
「うぃ」
「君も君だ。アリエルに喧嘩吹っかけるだけでは飽きたらず、人間の戦争に介入するとはどういうつもりなんだ?ああ、いや。理由はわかるし気持ちもわかるがな。私も連中のことは何度八つ裂きにしてやろうかと思ったことか。正直に言えば少しスカッとしたのも事実だ。神言教は腐敗が酷いものだし、女神教も本来の教えとはかけ離れてしまっている。そもそも奴らにサリエルを信仰する権利などないというのに厚かましいことこの上ない。恥を知れ恥を」
「みんな殺してしまえー」
「まったくもってそれが一番手っ取り早いのだがな。残念ながら当のサリエルがそれを最も嫌うから始末に負えない。そしてそのサリエルの気持ちを私も裏切れないから始末に負えない。ままならないものだ。酒でも飲んでいなければやっていられん」
「お酒美味しい」
「いい飲みっぷりだ。もっと飲め」
「わーい」




 おはようございます。
 あれ?
 いつの間に寝てたっけ?
 なんか昨日の記憶が途中から曖昧になってる。
 ギュリギュリとお酒飲んで、愚痴聞いて。
 どうしたっけ?
 なんかずっとギュリギュリの愚痴を聞いてたような気がするんだけど、詳しく思い出せない。

 ギュリギュリは、もういないや。
 やけ酒しに来ただけ?
 愚痴を聞いてもらいたかっただけか?
 何あの神様?

 とりあえずわかったことは1つ。
 お酒は美味しい。
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