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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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エルフの里①

 サリエーラ国の山奥にひっそりとその口を開けている洞窟。
 その奥の隠し部屋にある転移魔法陣を先生が起動する。

「この転移魔法陣の先はエルフの里に繋がっています。準備はいいですか?」

 先生の問い掛けに頷く。
 それを確認した先生は転移魔法陣を発動させた。

 視界が歪む。
 それも一瞬のことで、歪みが戻った時には、さっきまでと違う景色が目に入ってきた。
 狭い洞窟の中から、どこかの建物の中へと。
 広間のようになった円形の建物で、床にはいくつもの転移魔法陣がある。

 しかし、今は建物のことなんてどうでもいい。
 転移してきた俺たちを出迎えたのは、無数の剣先だった。
 俺たちはエルフの兵士たちに包囲されていた。

「フィリメス、部外者を連れてくるのは違反だと思うが?」

 エルフの戦士たちの中でも、おそらく隊長格だと思われる男が話しかけてくる。
 使われている言語は人族語じゃない。
 エルフ語だ。
 学園でエルフ語も習っておいて良かった。

「彼らは協力者です。事情は遠話で伝えたはずですよ?」
「こちらも言ったはずだ。事情はわかったが、里の中に人族を招き入れることはできん、とな」
「今は人族がどうのとこだわっている時ではないでしょう。剣を引きなさい」
「ならん。即刻立ち去るならば命は助けよう。今すぐ転移陣で引き返せ」
「話になりません。ポティマスを呼びなさい」

 緊迫した空気が流れる。
 思わず臨戦態勢になりそうになっていたカティアを手振りでなだめる。
 震えそうになっているアナの前にそっと立ち、剣先とエルフの視線から庇う。

「そこまでにしておけ」

 男の声が響いた。
 もう何年も前になるが、この男とは一度会ったことがある。
 ポティマス・ハァイフェナス。
 エルフの族長である男だった。

「手荒な歓待で済まないな。エルフ一同、勇者とその仲間を受け入れよう」
「よろしいので?」
「構わん。万が一結界を抜けてくるようなことがあれば、戦力は大いに越したことはない」

 ポティマスの言葉に不穏な気配がまじる。
 どうも俺はこの男にあまりいい印象を持てない。
 初対面でいきなり鑑定をされたこともあるんだろうが、なんというか、自分以外をすべて見下しているかのような、そんな視線を向けてくるのだ。

「きたまえ。ささやかながら、歓迎の席を設けよう」

 エルフの戦士たちが剣をしまう。
 ポティマスはスタスタと歩いていく。
 慌ててその背についていく。

「ポティマス、状況はどうなっています?」
「あまり良くはないな。後で話そう」

 先生の問い掛けに素っ気無く返すポティマス。
 状況が良くないのに歓迎なんてしていていいのだろうか?

「あの、状況が良くないって、大丈夫なんですか?」

 思わずそう聞いてしまっていた。

「大丈夫だとも言えるし、大丈夫ではないとも言える。ただ、今すぐどうこうなりはしない。食事を取るくらいの余裕はある。詳しくはその時にでも話そう」

 それっきりポティマスは前を向いて歩き始めてしまう。
 その背中がこれ以上の問答を拒否していた。

 転移魔法陣のある建物から外に出る。
 そこには、樹齢数千年あろうかという巨木が広がる、森林が広がっていた。
 1本の木の直径は10メートルはあろうかという巨大さ。
 その巨木の根元をくり抜き、家として活用している。
 振り返ってみれば、先ほどの転移魔法陣のあった建物だと思っていた場所は、巨木の内部だった。
 エルフの里、それは森とともにあるというよりかは、森そのものだった。

 木の家の中や、枝の上からエルフの視線が飛んでくる。
 その視線にあまり歓迎されていないのがよくわかった。
 エルフは排他的だというが、いきなり剣を向けられ、こんな居心地の悪い視線にさらされるとは思っていなかった。

 アナの様子を見る。
 気丈にしてはいるけど、その手がかすかに震えているのが分かる。
 アナにとってこのエルフの里は苦い思い出の詰まった場所だ。
 きっとここで生活していた時から、この視線にさらされてきたに違いない。
 俺はできるだけアナの近くにいるようにした。

 やがて、ポティマスは1つの木の家に入っていく。
 中は会議室のようになっており、円形の木彫りの机が中央に置かれていた。
 俺たちは促さられるままに席に着く。
 そこに料理が運ばれてきた。

「エルフの料理だが、人族の口にも合うはずだ」

 ポティマスの勧めで料理に口を付ける。
 野菜が中心でかなり薄味だけど、その分素材の味をしっかりと引き出している。
 確かに、美味しい。
 旅の疲れもあって、俺たちは無言で料理を平らげた。

「さて、本題に入りましょう」

 エルフの給仕さんたちが食器を片付けてから、先生がそう切り出した。

「そうだな。現状の説明をしよう」

 ポティマスが説明を始める。

「既に敵はエルフの森の外に到着している。現在は結界に阻まれて進軍を止めているがな。敵は帝国軍を中心とした兵、その戦力はおよそ8万」

 その数の多さに驚く。
 魔族との戦いが起きている今の状況で、それだけの数を動員してしまって、守りの方は大丈夫なんだろうか?
 ユーゴーはそれも視野に入れていないのだろうか?

「厄介なのは教会がかなりの数の兵を派遣していることだ。ユーゴーという偽勇者を正式に発表するあたり、帝国と教会の結びつきは相当強いものだと思われる」

 やはり、教会はユーゴーの洗脳能力で落とされたと見るべきか。

「エルフの里に結界が張ってあるのは知っていると思うが、どうも教会の魔法使いが大規模な術式を構築しているようだ。斥候の話では解析不能の未知の術式だそうだ。おそらく、結界破壊のための術だと思われる。数日がかりで準備を進めている程の大規模術式だ」
「数日がかり!?止めなくていいんですか!?」
「止めたくとも止められないというのが正解だな。里に張ってある結界は強力で、我々ですら通ることはできない。この里にたどり着くためには特殊な転移魔法陣を使って中に入るしかない。通常の空間魔法ですら侵入を防ぎ、念話などのスキルすら弾く強力なものだ。今、結界の外で活動しているエルフの数は6000人。8万の軍勢を相手に戦える戦力ではない」

 なるほど。
 先生が豪語していただけのことはあって、エルフの里に張られた結界というものは予想以上に強力なものらしい。

「あの、外と中ではどうやって連絡を取り合っていますの?」
「手話と呼ばれる技法を使っている。結界は声さえ通さないが、視界は遮らないのでな」

 へえ。
 手話がこの世界にもあるのか。
 最も地球のものとはだいぶ違うのだろうけど。

「外からの連絡では術式の完成までもう少しかかるだろうとの予測だった。よって、結界破壊の魔法が完成しない限りこの里はまだ安全だというわけだ。それが大丈夫だが大丈夫ではないといった理由だな」
「結界は、壊れるんでしょうか?」
「わからん」

 その後、俺たちは長旅で疲れているだろうからと言われ、部屋を貸し出されて眠りに就いた。
 結界が破壊されるのであれば、その時こそ戦いの火蓋が切られる。
 それまでに、失った体力を回復させておかなければ。
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