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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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187 コミュ力

 さて、どう話したもんかな。
 というか、話せるのか私?
 ええと。
 最後に人と会話したのいつよ?
 ギュリギュリ?
 でもあれも念話だから話したって言えるのか?
 微妙。

 やばい。
 緊張してきた。
 人と話すのってどうやるんだっけ?
 むしろ言葉ってどうやって発声するんだっけ?

 ああ、おっさんがガン見してきてる。
 ど、どうしよう。
 何て言えばいいんだ?
 そうだ、まずは天気の話をするのが会話を成り立たせる基本じゃないか?
 て、迷宮の中で天気とか関係ねー!

 あわわ。
 マジでどうしようどうすればいい?
 落ち着け。
 こういう時は素数を数えればいいんだ。
 素数は孤独な数字。
 1、2、3、ダー!
 違う!
 そもそも1は素数じゃねえ!

 天気は、ダメ。
 あと何か、何かないか!?
 そうだ、挨拶!
 挨拶は基本だよね!
 よし、まずはこんにちはからだ。
 言うぞ。
 言うぞ。
 あと10秒数えたら言うぞ。
 10、9、8、7、6、5、4、3、2、1。

「コ、コ」
「こ?」

 だー!
 ムリ!
 口の中カッサカサに乾いて掠れた声しか出てこない!

 唾で口の中を湿らせる。
 声は出るんだ。
 ただ、こんにちは、て一言いうだけだ。
 難しいことじゃない。
 難しいことじゃない。
 難しいことじゃない。
 よーし。
 イケル。
 もう1度心の中でカウントダウンだ。
 10、9、8、7、6、5、4、3、2、1。

「コンニチハ」

 言った!
 言えたぞ私!
 偉いぞ私!
 感動したぞ私!

「お、おお。お声をかけて下さるとは。ありがとうございます」

 祈りの体勢から頭を下げるおっさん。
 そのポーズ、DOGEZAだよね。

「改めまして自己紹介申し上げます。私めはレングザント帝国魔術師団所属のロナントと申します。しかし、あなた様の下につかせていただける許可をくだされば、国家を捨てることも辞さない覚悟であります。今一度お尋ねいたします。私めを弟子にしていただけないでしょうか?」

 お、おう。
 ちょっと待って。
 そんな長文で一気に喋らないで。
 次になにを言えばいいのか考えてんだから。

 えーと。
 えーと。
 えーと。
 とりあえず、弟子はダメだよね。

「ダメ」

 うん、ダメダメ。

「そこをなんとか!」

 いやー。
 ムリムリ。

 けど、おっさんは口で言っても折れそうにないし、ずっと付いてきそうな雰囲気だよなー。
 それは困る。
 なんとか口八丁で帰ってもらわなければ。

 ここで登場するのが勇者くん。
 あれだ。
 勇者くんを無事に送り届けさせて、かつおっさんが戻ってこないようなうまい言い訳を考えるんだ。

 この勇者を送り届け、見事一人前に育ててみせよ。
 他人に教えれば自分に見えていなかったことも自ずと見えてこよう。
 これを私からの課題にする。
 見事達成できたら、弟子にするのも考えてやろう。

 うん。
 我ながら完璧な作戦。
 あとはそれを伝えるだけ。
 伝える、だけ。

 こんな長文を?
 え、ムリ。
 そんなに声出したら死んじゃう。
 どうしよう。
 詰んだかもしれない。
 過去最大のピンチだ。

 落ち着け。
 一気に言う必要はないんだ。
 ちょっとずつ、単語だけでもいいから伝えていくんだ。

 それに、一応会話は出来るけど、こっちの世界の言葉は発音が難しくて片言でしか喋れないし。
 単語ずつだけでも、というか、単語だけしか言えないというか。

 よし、言うぞ。
 スー、ハー。
 よし。

「コレ」

 勇者くんを指差しながら言う。

「カエス」

 よし。
 まずは勇者くんを返すって伝えられたかな?
 次は。

「お尋ねしてもよろしいでしょうか?この少年は勇者とお見受けしますが、なぜあなた様と一緒に?」

 あー!
 質問してくんなよ!
 次に用意してた言葉が使えなくなったじゃん!
 えっと、どうしよう?
 どう答えればいいの?

 戦争に乱入したらいたから拾ってきた?
 概ね間違ってないけど、どう説明せいと?

「ヒロッタ」

 うん。
 これが端的で一番近い。

「は、はあ?」

 あ、うん。
 訳わからんよね。
 ごめん。
 これ以上の説明はムリ。

「イッショ、カエル」

 おっさんと勇者くんを交互に指差しながら言う。
 おっさんは少し考えた。
 頼む、これで察してくれ。

「つまり、儂にこの勇者を国に送り届けろと、そう仰られるのですな?」

 グゥーット!
 その通り!
 頷く。

「では、無事この勇者を送り届けることができた暁には、私めを弟子にしていただけるのですか?」

 ノー!
 なぜそうなる!?
 違う違う。
 首を横に振る。

「シショウ」

 おっさんを指差しながら言い。

「デシ」

 勇者くんを指差しながら言う。

「オシエル」

 どうよ!?
 これで通じる?
 通じたらかなり奇跡だと思うんだけど、どうよ?

「儂に、勇者を育てろと?」

 オシ!
 そうだよそう。
 頷く。

 おっさんはだいぶ長い時間何かを考え込んでいた。
 その思考はどういうもんだかわかんないけど、私の切れ切れの単語からいろいろ想像を膨らませてるのかもしれない。
 変な想像になってなきゃいいけど。

「あい。分かり申した。あなた様の深遠なる考えは儂如きには見通せませぬが、きっと深い意味がおありなのでしょう。あなた様より拝命しましたこの使命、見事全うしてみせることを誓いまする」

 おお!
 ベリーグッド!
 おっさん話がわかるね!
 良かった。

「それでは、名残惜しいですが、どのような理由であれ勇者をこのままにしておくこともできますまい。すぐに発ちます。願わくは、今一度お目にかかれることを期待しております」

 深々と頭を下げるおっさん。
 うん。
 もう私は会わなくてもいいや。

 勇者くんを抱えて転移で去るおっさん。
 考えてみたら、この世界で会話した第1号があのおっさんか。
 なんかちょっと損した気分だ。
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