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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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魔法使い、弟子入りする

ロナント視点
 嘘じゃ。
 認めぬ。
 あのお方が、教会ごときの手の者に討たれるはずがない。

 しかし、現に街の中はその話題で持ちきり。
 神獣がおったという場所は、小さな林だったとは思えない惨憺たる状態だった。
 まるで大魔法を連打でもしたかのような破壊の爪痕。
 未だに残る濃い魔力の残滓。
 どうやら闇系統の魔法が使われたようじゃが、儂でもその詳細がわからん。
 暗黒魔法、いや、それでもこれだけの濃い魔力が未だ残っているとは考えられん。
 となると、深淵魔法か。

 深淵魔法。
 あるとされてはいる闇系統の最上位魔法。
 儂も実物を見たことはない。
 あのお方がスキルを保持しているのを見たのが初めてじゃった。
 となると、この魔力の残滓はあのお方が深淵魔法を使った名残か?
 何か違和感があるが、これほどの影響を残す大魔法を使わなければならない相手であったということか。
 あのお方が討たれたということが、俄然真実味を帯びてしまう。

 儂は、神獣様の敵を討つのだ、と沸き立つ街を後にした。

 あれほどのお方でも、死ぬ時は死ぬということか。
 この世のなんと広いことよ。
 それに比べ、儂のなんと卑小なことよ。

 目標を見失い、生きる気力までもが急速に抜け落ちていくようじゃった。
 帝国に帰れば、謹慎を破ったことで何らかの罰があるかもしれん。
 そこまできつい罰はないじゃろうが、今はそれも煩わしい。
 このままどこかで野垂れ死んでしまうのも一興かもしれん。

 ふと、どうせ死ぬのなら、あのお方と出会った場所がいいのではないかと思いついた。
 名案だった。
 そうと決まれば早速転移じゃ。

 そして、転移した先で、儂はあのお方と再会を果たした。
 姿が変わっておられたが、あの威圧感は忘れもしない。
 2つに分裂しておったが、儂の目は誤魔化せませぬ。
 どちらも本物。
 なぬ?
 …さすがですじゃ。
 まさか分裂までできようとは。
 儂では思いもつかぬことを平然とやってのける。

 片や白い(・・)蜘蛛の姿。
 前に見た時は黒かったが、小さく縮んで色も変わっておられる。
 しかし、特徴的な前足の2本の鎌は健在。
 片や黒い蜘蛛。
 こちらは少々大きめ。
 鎌がなく、普通のタラテクト種と同じように見える。

 どうやって分裂しているのか、気になるが、恐らく人の身である儂には真似のできない方法であろう。
 ならば、それ以外のものを学ぶべき。
 儂は気付くと弟子入りを志願しておった。

 熱く語ること数時間。
 どうやら呆れられてしまった様子。
 しもうた。
 つい我を忘れて熱く語りすぎてしもうた。

 しかし、これではっきりした。
 このお方は人族語を理解しておられる。
 まあ、これほどのお方が言葉を解せないなど考えられんことじゃが。
 じゃが、儂の言葉を理解していながら、反応は無し。
 どうやら弟子入りは認めてもらえぬようじゃ。

 かと言って、邪険にされているわけでもない。
 転移直後はこちらに静かな殺気を向けていたが、それも今は霧散しておる。
 ひとまずこれですぐ殺されるということはなさそうじゃ。
 歓迎はしないが、排除もしない。
 不干渉を貫く構えのようじゃ。

 それならそれで、このお方の行動を観察し、このお方がいかにして魔導の極みに到達したのかを見極める。
 儂はそう決め、観察を開始した。

 観察を開始して数分。
 儂はこの世がひっくり返るような心地でいた。

 凄まじい。
 その一言に尽きる。
 前にこの場でお会いしたときは遠目で気付なんだ。
 複数のスキルを多重発動しておるのはあの時と同じ。
 しかし、あの時よりもより間近でじっくりと観察することによって、余りにも常識はずれなことをその身で行っていることがわかった。

 このお方は、極微小な魔法を常時発動し、己の身に纏っておられる。
 それも、複数の魔法を。
 確認できただけでも、闇、土、風、光、4種もの魔法を同時に発動しておられる。

 その魔法の余りにも精緻な出来栄えに、思わず感嘆の声が漏れる。
 なんという微細な魔法。
 魔法とは、攻撃のための手段じゃ。
 それすなわち威力が求められるものであり、威力なき魔法など不要。
 であるからして、魔法とは威力を求め、巨大になっていくのが常なのだ。
 その常識を打ち破る、極小の魔法。

 普通ならばこんなものに意味など見いだせないじゃろう。
 しかし、儂は確信する。
 これこそが魔導の真髄。
 究極の奥義。
 巨大にするだけならば苦労はない。
 ただそれだけの力を込めればいいのじゃから。
 しかし、小さくするのはどうか?
 ただ、込める力を小さくしただけではダメじゃ。
 脆く小さな構築、それを作り上げるだけの精密な構築技術。
 その脆い構築に魔力を流す、繊細な力加減が要求される魔力操作。
 力任せでは決して到達することのできない、洗練された技がそこにはあった。

 儂はすぐさまその技法を真似する。
 最も得意な火でまずは実験してみる。
 結果は失敗。
 見事に全身に火が付き、身を焦がす。

 慌てて消火し、思わず笑ってしまう。
 なんという難しさ。
 こんなとんでもないことを呼吸をするがごとく実行しておられるとは!

 その後も色々な属性で試してみるも、結果はすべて失敗。
 しかし、収穫はあった。
 なぜこのようなことをしているのか、それは、スキルのレベル上げ。
 儂が失敗を重ねている時、スキルのレベルが上がるのが確認できた。
 魔法と耐性、その両方の。
 そう、この一見無駄に思える行為は、スキルのレベルを上げるための行為だったのじゃ。

 己の身が傷つかない程度の極小の魔法を常に自身に向けて放つ。
 こんなこと、誰が思いつこうか。
 思いついたとして、誰が実行に移そうと思うのか。
 このお方と共にいると新たな発見ばかりじゃわい。

 流石にこんな長旅になるとは想定していなかったので、そろそろ食料が尽きそうじゃ。
 一旦街に戻るか?
 いや、この千載一遇のチャンスに街になど戻っておれぬ。
 ハッ、そうじゃ。
 このお方と共に生活するからには、食事も同じものを取れば良いではないか。
 このお方が取る食事じゃ。
 きっと何かがあるに違いない。

 腹を壊した。
 毒じゃった。
 死ぬかと思った。
 しかし、やはりこのお方は素晴らしい。
 悪食などという称号、初めて聞いたわい。
 その称号を得る機会を下さったことに感謝せねば。
 これからも、お側で研鑽を積ませていただきますぞ。
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