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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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S26 エルロー大迷宮攻略③

「こっから先は大通路だ。気を引き締めろよ」

 バスガスさんの案内に従い、俺たちは問題の大通路に足を踏み入れた。
 大通路に入って驚いた。
 広い。
 話には聞いていたけど、その広さは今まで通ってきた狭い通路とは比べ物にならない。
 幅はゆうに100メートルはあるだろうか。
 天井までの高さもそれくらいありそうだ。
 バスガスさんの言うとおり、通路と言うよりも、大きな広間のようだった。

 呆気にとられたのは一瞬。
 すぐに我に返り、周りを油断なく見回す。
 近くに魔物の気配はない。
 それにホッとしつつ、移動を開始する。

 大通路は広い。
 けど、かなり大きい岩なども転がっていて、視界を塞いでいる。
 岩の陰に何かが潜んでいるかもしれない。
 気配を感知しながら、それでもペースを緩めずに進む。

 しばらく進むと、バスガスさんがその足を止めた。

「どうしました?」
「妙だ。魔物の姿がない」

 バスガスさんの言葉と表情には、隠しきれない焦りが見える。
 よほどまずい状況なんだろうか?

「普段はもっと魔物がいるんですか?」
「ああ。このくらいの距離を進んでまったく魔物の姿がないっていうのはおかしい」

 まるで悪夢と出会った時のようだ。
 その呟きに、俺も緊張する。

「別のルートに出れる道はありますか?」

 何らかのイレギュラーな事態が発生していると思ったほうがいい。
 なら、安全策を取るべきだ。

「もう少し行ったところに抜け道がある。そこから別のルートに切り替えよう」

 バスガスさんも俺の意見に賛成のようで、すぐさま案を出す。
 みんなもバスガスさんの様子で何かを察し、反対意見は出なかった。

 けど、その判断は少し遅かった。
 何かがこちらに向かってくる。

 それは、龍だった。
 ティラノサウルスを少し細くしたようなシルエット。
 ただし、手だけが異様に大きく、その爪は1本1本が名工作の名刀のような輝きを放っている。

「地龍。チッ!上層にいるってことは、進化したてか!?」

 バスガスさんが舌打ちする。
 みんなが戦闘の構えを取る。
 俺は意を決して相手の鑑定をする。

『地龍エキサ LV2
 HP:2808/2808(緑)
 MP:1312/1312(青)
 SP:3655/3655(黄)
   :2032/3645(赤)
 平均攻撃能力:2498(詳細)
 平均防御能力:2455(詳細)
 平均魔法能力:1298(詳細)
 平均抵抗能力:2452(詳細)
 平均速度能力:3600(詳細)
 スキル
 「地龍LV1」「逆鱗LV4」「堅甲殻LV1」「鋼体LV1」「HP高速回復LV1」「MP回復速度LV1」「MP消費緩和LV1」「魔力感知LV3」「魔力操作LV3」「魔力撃LV1」「SP高速回復LV2」「SP消費大緩和LV2」「大地攻撃LV5」「大地強化LV5」「破壊強化LV7」「斬撃大強化LV6」「貫通大強化LV6」「打撃大強化LV6」「空間機動LV3」「命中LV10」「回避LV10」「確率補正LV4」「危険感知LV7」「気配感知LV7」「熱感知LV7」「動体感知LV5」「土魔法LV1」「破壊耐性LV2」「斬撃耐性LV5」「貫通耐性LV5」「打撃耐性LV6」「衝撃耐性LV2」「大地無効」「雷耐性LV7」「状態異常大耐性LV2」「腐蝕耐性LV1」「苦痛無効」「痛覚軽減LV4」「暗視LV10」「視覚領域拡張LV5」「視覚強化LV5」「聴覚強化LV4」「嗅覚強化LV4」「身命LV7」「魔蔵LV1」「天動LV1」「富天LV1」「剛力LV5」「堅牢LV5」「道士LV1」「護符LV5」「韋駄天LV1」
 スキルポイント:19500
 称号
 「魔物殺し」「魔物の殺戮者」「龍」「覇者」』

 高いステータス。
 その中でも速度が飛び抜けている。

「みんな、奴は速度が速い。気をつけるんだ!」

 叫ぶ。
 同時に地龍が地を蹴る。
 振り下ろされた爪を、ハイリンスさんの盾が受け止める。

「グッ!?」

 ハイリンスさんが苦痛に顔を歪める。
 けど、ハイリンスさんのおかげで地龍の動きが一瞬止まる。

 隙を見逃さずに、俺とバスガスさんが左右の足をそれぞれ切る。
 さらに、カティアと先生の魔法が炸裂する。
 カティアの火炎魔法が地龍の顔面を焼き、先生の風魔法がその体を吹き飛ばす。

 苦悶の叫び声をあげながら地龍が転がる。
 けど、ダメージはあまりない。

 俺の切った右足は半ばほどまで切れている。
 けど、バスガスさんの切った左足は、ほとんど切れていない。
 硬い防御力を突破できなかったのだ。
 地龍が起き上がる。
 その顔に火炎魔法を直撃させられたのにも関わらず、火傷一つ無い。

「参ったねこりゃ」

 バスガスさんが冷や汗混じりに呟く。
 俺も、予想以上に硬い相手の防御力に知らず、手に汗を握っていた。
 さっきの一撃は足を切り飛ばすつもりだった。
 けど、結果は半ばまでしか切れなかった。
 それどころか、思った以上の抵抗に危うく剣を手放すところだった。

 魔法もあまり効いていない。
 逆鱗というスキルが魔法の力を激減させている。
 カティアも先生も、人間としては最高峰の魔法使いだ。
 その2人の魔法を受けても、地龍は平然としている。

 とはいえ、ダメージが全くないわけじゃない。
 倒せない相手ではない。

 地龍が飛び上がる。
 翼がないにも関わらず、空中を駆けるようにして移動する。
 空間機動のスキルを使った、空中移動。
 その目指すところは、一番背後に控えたアナだった。

 アナが魔法を放つ。
 放たれた電撃の魔法は、地龍にダメージを与えられない。
 地龍には雷耐性が備わっている。
 ただでさえ高い魔法抵抗力を持つ上に、耐性のついた雷では分が悪すぎた。

 ハイリンスさんが襲いかかる地龍とアナの間に割って入る。
 盾が再び地龍の爪を防ぐ。
 さっきと同じような光景。
 が、今度は地龍もさっきのように止まらず、すぐさま後退する。

 その速度に追撃の攻撃が追いつかない。

「雷は耐性があるから効かない!土もだ!他の属性に切り替えろ!カティアはそのまま魔法メインで!バスガスさんも闇魔法で牽制を!」

 俺は地龍の耐性を伝える。
 物理攻撃にも耐性が備わっているけど、こればっかりは仕方がない。
 バスガスさんの攻撃力で大したダメージを与えられないのなら、この場で物理攻撃でダメージを与えられるのは俺しかいない。

 突撃してくる地龍の攻撃を、三度ハイリンスさんが受け止める。
 その瞬間を見計らって、先生が魔法を発動させる。

 風の渦が地龍の体を包み込む。
 ダメージを目的とした魔法ではない。
 相手を拘束するための魔法。
 暴風魔法の縛風という魔法だ。

 地龍が風の拘束から抜け出そうともがく。
 逆鱗の効果もあって、長くは持ちそうにない。

 させじとカティアの火炎魔法が迸る。
 先生の風と混じり合い、火炎の竜巻が地龍の体を包み込む。

 苦しげな声を上げる地龍。
 追い打ちにさらに風の魔法を放つアナと、闇の魔法を放つバスガスさん。
 ハイリンスさんはこの隙に自身に治療魔法を施している。
 地龍の攻撃は、盾で防いでいてもハイリンスさんにダメージを与えていた。

 地龍のHPがどんどん減っていく。
 が、地龍が火炎の竜巻を吹き飛ばす。
 その口腔にはブレスの輝きが灯っている。
 息を飲む仲間たちの前に、俺は進み出る。

 地龍のブレスと、俺の魔法がぶつかり合う。
 俺が発動した魔法は、聖光魔法レベル7の魔法。
 聖光線というかなり安直でダサい名前の魔法だ。

 けど、名前に反して効果は高い。
 放たれた光線は地龍のブレスを押し返し、逆にダメージを負わせる。
 口を吹き飛ばされ、地龍の体がゆっくりと倒れる。
 地龍のHPは0になっていた。

《経験値が一定に達しました。シュレイン・ザガン・アナレイトがLV28からLV29になりました》
《各種基礎能力値が上昇しました》
《スキル熟練度レベルアップボーナスを取得しました》
《スキルポイントを入手しました》

《条件を満たしました。称号『龍殺し』を獲得しました》
《称号『龍殺し』の効果により、スキル『天命LV1』『龍力LV1』を獲得しました》
《『天命LV1』が『天命LV6』に統合されました》
《熟練度が一定に達しました。スキル『天命LV6』が『天命LV7』になりました》

 どうやら龍を倒したことにより、称号を得たようだ。

「龍殺しですか。これで私たちも伝説の仲間入りですわね」

 カティアが冗談っぽく言う。
 どうやらこの称号は止めを刺した俺だけじゃなく、戦った全員につけられたようだ。

「ふう。一時はどうなるかと思ったが、まさか龍殺しを達成するとはな」

 バスガスさんが油断なく地龍の死骸に近づいていく。

「こいつの死骸は俺が預かるが、問題ないか?」
「ええ。お願いします」

 魔物の素材は部位によって様々な用途がある。
 龍ともなれば、その価値は計り知れない。
 空間収納の道具を持っているバスガスさんなら、巨大な死骸でも持ち運ぶことができる。
 龍の巨体がバスガスさんの持つ鞄の中に吸い込まれていく。

「こいつが大通路で一番危険な魔物ですか?」
「バカ言え。こんな大物普段はいねーよ。大通路で一番厄介なのはその下のランクの地竜だ。こいつはおそらく、地竜が進化したもんだろう」
「ああ。確かにレベルが低かったですね」
「だろ?他の魔物の姿が見えないのも、進化したこいつが手当たり次第に食い散らかした結果だろうよ」

 経験を積んだ魔物は時折進化することがある。
 進化するとレベルが1に戻り、より上位の存在になる。
 そして、進化直後の魔物は非常に好戦的で腹を空かせている。
 地龍はレベルが低く、SPが初めから減っていた。
 進化してまだ日が浅い証拠だった。

「龍殺しか。ユリウスたちと戦ったことがあるのは竜までだった。あの世の土産にいいものができたな」

 ハイリンスさんが複雑な表情で笑う。

「ハイリンスさんが地龍の攻撃を止めてくれたおかげですね」
「止めるのだけで精一杯だったさ。だが、盾としての役目は果たせたかな」
「はい。おかげで怪我人も出ませんでした。ありがとうございます」
「礼を言うな。それが俺の役割だ。それに、止めを刺したのはお前だ。よくやった」

 ハイリンスさんはそう言って俺の頭をちょっと乱暴に撫で回す。

「やめてくださいよ」

 笑いながらその手から逃れる。
 強敵を倒したことで、弛緩した空気が流れていた。

 その時、悪寒が走る。

 振り向く。
 それ(・・)と視線が交錯した。
 岩の上からこちらを見下ろす8つの無機質な視線。
 それは、悪夢の残滓と呼ばれた魔物だった。
+注意+
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