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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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20 私蜘蛛、今あなたの後ろにいるの

 亀は倒すのに苦労した。
 ひっくり返った後、そのままひと噛みしたんだけど、あいつ、甲羅に引っ込みやがった。
 危うく噛み付いたまま甲羅に挟まれるところだった。
 か弱い私の力じゃ、甲羅から引きずり出すことはできなかった。
 だから、仕方なく甲羅の隙間に牙から出した毒を垂れ流してやったら、慌てて飛び出してきた。
 そのまま苦しそうにしてたところにガブッとね。

 亀はそのあといただきました。
 生まれて初めて毒なしの食事をしました。
 まあ、固くて食いにくいし美味しくもなかったけど。

 うむ。
 今回は無傷だ。
 それも相手の攻撃を全部避けることができたからだ。
 って言っても、亀はバカみたいに突進しかしてこなかったし、動きも遅くて避け放題だったからこその結果だし。
 特に避けの極意に開眼したわけじゃない。
 単に相性が良かった。

 うーん。
 けど、それを差し引いても、スピードは上がった気がする。
 レベルアップしても、他のステータスはあんまり強くなってる実感がわかないんだけど、スピードだけは明らかに速くなってるって自覚できるんだよねー。
 蛙と戦った時に比べて、だいぶ機敏に動けたと思う。
 タラテクト種はスピード特化の魔物っぽいねー。
 だからって、回避特化はどっちにしろムリだけど。

 うん。
 スピードと、糸っていう私の最大の武器。
 この2つから導き出す、私に最も適した戦法、それすなわち、奇襲!

 え?
 卑怯?
 生きるか死ぬかの戦いに卑怯もクソもないわ!
 それに、ちょっと先制攻撃ぶちかますだけじゃん。
 そんな卑怯じゃないってー。
 まあ、その先制攻撃で大体勝負は決まっちゃうけどねー。

 え?
 実戦経験を積むんじゃなかったのかって?
 これだって立派な実戦です!
 偉い人にはそれがわからんのです!

 まあ、実際奇襲を仕掛けるって言っても、成功する確率は半々くらいじゃない?
 他の魔物だって、伊達にこんな危険地帯で生きてきてるわけじゃないんだし、それなりに危険に対しては敏感でしょ。
 あくまで奇襲は成功すれば儲け、くらいの気持ちで。
 失敗したら、その後はその時の状況で素早く判断ってことにしとこう。

 問題は、亀みたいに糸を引きちぎるやつがいるってことだね。
 まさか、炎以外無敵だと思ってた糸を、引きちぎるとは…。
 蜘蛛糸のスキルレベルは6。
 私のスキルの中じゃ、一番レベルが高い。
 それを破られるってことは、ほぼ私の敗北とイコールだ。
 亀は相性が良かったから助かった。
 けど、他の魔物に糸を破られたら、考えるだけで恐ろしい。
 なんにせよ、私は今まで糸を過信しすぎてた。
 これからは破られるかもしれないっていうのを、頭の片隅に常に入れておこう。


 その後、亀以外には新たな魔物に遭遇せず、眠くなってきたので探索終了。
 簡易ホームで就寝。


 開けて翌朝、朝かどうかはわからんけど、とにかく起きた。
 さて、探索再開。
 しかし、このダンジョン本当に広いな。
 この迷路エリアに迷い込んでからずっと彷徨ってるけど、未だに抜け出れる気配がない。
 私は分かれ道があると、必ず右に行くようにしていた。
 迷路は壁に手をついて進めばゴールできるとどっかで聞いたことがあるし、規則性を持って進んだほうが覚えやすいからだ。
 いざとなったら、地面に無意識のうちに垂れ流してる糸をたどって戻ればいい。

 そうやってズンズン進んでるんだけど、迷路のゴールにたどり着く気配はない。
 常時オンにしてる鑑定は相変わらず迷宮の壁だの床だの言ってるし。
 進んだ距離の正確な数字なんてわかんないけど、少なくても数十キロは歩いてるはず。
 あー、そう考えると随分遠くまで来たなー。
 人間だった頃じゃ、そんな距離歩いたら軽く死ねる。

 と、本日の第一獲物発見。
 うむ、見たことない魔物だな。
 足がワサワサいっぱいあるゲジみたいな魔物だ。
 とりあえず鑑定っと。

『エルローフェレクト ステータスの鑑定に失敗しました』

 ん?
 失敗?
 あー、レベルが載ってない。
 へー、鑑定って失敗することあるんだ。
 初めて知った。
 まあ、今のところ失敗しても大した違いはないし、別にいいんだけどね。

 あ、でもちょっと待って。
 あんまりにも相手とのレベル差があると失敗するとかじゃないよね?
 もしそうなら、あのゲジは私よりかなり強いことになる。
 うーん?
 そんな感じはしないけどなあ。
 レベル差と鑑定の失敗は関係ないのかな?
 それならいいんだけど、能ある鷹は爪を隠す的な感じだったらどうしよう。

 …。
 迷ってても仕方ないか。
 女は度胸。
 いっちょ行ったりますか!

 音を立てないように、それでいて素早く、相手の背後に迫る。
 ススススス。
 こんにちは、死ね!

 

 奇襲はあっさり成功した。
 もうあっさり成功しすぎて拍子抜けしたくらいだ。
 懸念してたゲジが実はめっちゃ強い説は、まったくの勘違いだった。
 亀みたいに糸を引きちぎることもなく、拘束完了。
 毒牙を打ち込んで終了。

 ゲジは見た目からして不味そうだったけど、やっぱり不味かった。
 しかも、変な毒でも持ってたのか、食べたあとちょっと体調が悪くなった。
 なんか体がぎこちない感じになった。

 あー、蜘蛛に生まれ変わってから、一度も美味しいと思えるものを食べてない。
 贅沢な悩みだとは思うけど、美味しいものが食べたい。
 あーあ、どっかにカップ麺でも落ちてないかなー。
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