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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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王都の戦い①

人魔大戦②で登場のロナント老視点です
 つまらん仕事を押し付けられたもんじゃ。
 儂は夜空を眺めながら、日課の魔力訓練をこなしていた。
 最近歳のせいか訓練を重ねても全く成長が感じられん。
 このままでは魔導の真髄に到達する前に寿命を迎えるじゃろう。
 口惜しい。
 己の才能のなさの、なんと口惜しいことか。

「老師。こんな時間まで魔力制御の訓練ですか?」
「人の一生など短い。寝る間を惜しまねば魔導を極めることなど夢のまた夢よ」

 背後から近づいて来る弟子の一人に、振り返らずに答える。

「その衰えぬ魔導への情熱には脱帽ですよ。もはや世界に老師を超える魔法使いなどいないでしょうに」
「ハッ!」

 弟子の言葉を鼻で笑う。

「貴様はなんもわかっとらん。この儂程度が世界最高じゃと?笑わせる。儂など才能のなさをこうして努力で補っておるに過ぎん。今もちょうど己の才能のなさに臍を噛んでいたところよ」
「老師。あなたに才能がないというのでしたら、私たちの誰もが才能がないことになってしまいます」
「そう言っておる。天才だなどと持て囃されようが、所詮は人の身。この世界には神にも到らんとするものすら存在する。それらに比べれば、人のなんと脆弱なことよ」

 そう嘆かずにはいられない。

「ああ。今でも鮮明に思い出す。あの神々しいお姿。魔導の極みに到達せしあのお方よ」

 脳裏に思い浮かべるのは、かつて儂が見た、魔導の頂点たる存在。
 あの芸術的なまでの存在。
 かのお方に比べれば、儂など路傍の石ころと変わらぬ。
 神にも等しき存在から見れば、人など誰も変わらぬ。
 路傍の石が多少大きかろうと、石は石に過ぎぬのだ。

「どうした?」

 儂が黄昏ておると、もう一人の弟子が静かに歩み寄ってきた。
 そのまま弟子同士でボソボソと語り始める。

「また老師の例の病気だ」
「ああ。老師もお歳だからな」
「そろそろボケが始まっているのやも」
「聞こえておるぞ、戯けども」

 振り返り、軽く睨んでやると、二人の弟子はわざとらしく肩を竦めてみせる。
 まったく、可愛げのない弟子共じゃ。

 と、いかんな。
 今ので魔力制御が乱れた。
 この程度のことで心乱すとは、やはり儂はいつまでたっても未熟なままよの。

「老師、余計なお節介かもしれませんが、くれぐれも私たち以外にその話はなされないでくださいね?」
「儂もそれくらいは弁えておるわ」
「ならいいのですけどね。年嵩の方は直接被害にあった方もいらっしゃいます。そうでなくても、肉親を亡くした方もいますので」
「わかっておると言うておる。つまらぬ心配をするでない」
「というか、老師もその時瀕死の重傷を負ったそうじゃありませんか。どうしてそんな感想になるのかが不思議ですよ」
「儂はあの当時思い上がっておったからな。上には上がおるということをまざまざと見せつけられた。同時に己の小ささもな。あの方と出会えたことを、儂は心の底より感謝しておるよ」

 武を尊ぶレングザント帝国内でも並ぶ者なき魔法使い。
 それが当時の儂の評価であり、今なお続く儂の地位。
 あの時の儂は愚かじゃった。
 己が世界の頂点であると疑いもせなんだ。
 その伸びきった鼻っ柱は、あの事件でボッキリと折れた。
 それと同時に、人の身では到底及ばぬ境地があることを知った。

「儂は人に生まれたことを悔やむ」
「老師、それは捉え方によっては魔族に加担する発言と見做されてもおかしくありませんよ?」
「魔族なぞ人と大して変わらぬ。哀れよな。人族も魔族も小さき器で互いに潰しあって。己がいかに矮小な存在であるか理解しておらぬのだからの」
「老師、誰かに聞かれたらどうするんです?」
「ここには儂ら以外おらぬよ。それに、聞かれたところでなんとする?異国の客将を裁く権利が今のこの国にあると思うか?」

 儂が今いるのは、アナレイト王国の王城。
 ユーゴー王子の策略によって、もはや内側がボロボロになってしまった国。
 国としての体裁はまだ保っておるし、外には全くそんなことを感じさせないが、実情は我がレングザントに制圧されたようなものじゃ。

 ユーゴー王子のその未知なるスキルの力で、この国はもはやまともに機能していない状態に追い込まれておる。
 王は死に、無実の第三王子と第四王子は国家反逆罪というテロリストのレッテルを貼られ、残った第一王子と第二姫は洗脳済み。
 貴族もほぼ傀儡。
 第四王子だけは逃げ延びたようじゃが、第三王子は明日処刑される。
 そして、既に洗脳済みの第二姫と、ユーゴー王子の婚約が発表され、事実上この国はユーゴー王子の傀儡となった。

 儂は万が一第三王子の奪還を企てた、逃げ延びた第四王子が戻ってきた時の保険。
 まあ、余程の阿呆でもない限り、罠とわかっているこの場に戻ってくることなど考えられん。
 今頃は逃亡してどこぞの国なりに逃げ込んでおるだろうよ。
 一番可能性があるのは、第一姫が嫁いでいったサマーレ王国あたりかの。
 つまり、儂の出番はないということじゃ。

「つまらんの」
「平和でいいではありませんか」
「そうですよ。この前の大戦みたいに、危険な任務はゴメンです」

 この前の戦いはかなり大規模なものじゃった。
 人族と魔族の領域を隔てる各砦に、魔族が一斉に攻めてきた。
 儂のいた砦では、最後は儂が魔族の大将の頭を撃ち抜いて終わったが、他の砦はかなりの損害が出ておった。
 まあ、そんなことは儂には関係ないことじゃ。
 問題は、魔族の大将を討ち取ったにも関わらず、儂のレベルが上がらなかったことじゃ。

 儂のレベルは78。
 伝説では100にまで上がれば人族から進化できるなどと、実しやかに言われておる。
 が、儂のレベルが100になるよりも、寿命で死ぬほうが早いであろうな。
 魔族の大将などという大物を倒してさえレベルが上がらぬのでは、この先大幅なレベルアップはもはや見込めぬ。

「真の勇者である第四王子には少し興味があったんじゃがのう」

 世間には教会から新勇者はユーゴー王子ということで発表されておるが、本物の勇者は逃げた第四王子。
 ユーゴー王子も生まれながらに異常な強さを備えた化生であったが、件の第四王子も同じであったらしい。
 そんな輩が勇者になったのであれば、どれほどの強さになったのか。
 興味はある。
 儂が目指して果たせなんだ、人の限界を超えることもあるいは。

「噂ではこの国の第四王子はユーゴー王子とほぼ同等の力を持っていたとか。ユーゴー王子は人の常識から外れた存在ですからね。そんな常識外れが攻めてきたらと思うと、ゾッとしますよ」
「ハン。確かにユーゴー王子は常識外れじゃ。それは認めよう。じゃが、あれはダメじゃ」
「老師、打ち首になりたいんですか?」
「ダメなものをダメと言って何が悪い?何、貴様らが黙っておれば良いだけじゃよ」
「そんなこと言って、私たちが王子の怪しげなスキルで操られているとは考えないんですか?」
「鑑定持ちの儂が、正気かどうか見違えるとでも思うか?」
「ああ、そうでしたね。まったく。鑑定なんてスキルをどうしてレベル10まで上げられるんだか」
「で、老師は王子の何がダメだって思うんです?」
「言いだしたらキリがないくらいダメじゃな。あえて言えば、全てじゃな」
「全否定したよこの爺」
「王子が暴虐を振るえるのも短い間じゃろうて」
「老師、そうなるとレングザント帝国の未来が閉ざされかねないのですが?」
「知らぬよ。儂も多少は国に愛着があるが、それ以上に魔導の真髄を目指すことのほうがよほど重要じゃ。国が滅びるのであれば、隠居でもしてひっそりと暮らすのも悪くはなさそうじゃ」
「老師が良くても私たちはどうするんですか?」
「それこそ儂の知ったことではなかろう。好きにすればよい」

 弟子共が盛大な溜息を漏らす。

 儂は空の彼方を見据え、少々驚いた。
 どうやら、余程の阿呆だったらしい。

「馬鹿弟子共、戦闘準備」
「え?」
「件の第四王子のお出ましじゃ」
「マジですか?」
「マジじゃマジ。早ようせい」

 慌てて準備を始める弟子共を無視し、魔術の構築に取り掛かる。

「さて、勇者の力、見せてもらおうかの」
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