挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

174/529

S21 世界の真実

 王都から脱出してから、10日が経過した。

 あのあと、俺たちは取り囲む兵士たちを突破して、なんとか王都から脱出した。
 レストン兄様が囮になることによって。

「俺たちが時間を稼ぐ。オカさん、16番アジトで落ち合おう」

 そう言って、部隊を率いて追いすがる兵士たちに突貫していった。
 俺は迷ったが、腕に抱えたカティアを守らなければならないという思いと、ハイリンスさんに肩を引かれたことによって、俺はレストン兄様を置いて脱出することにした。
 けれど、それは間違いだった。

 レストン兄様は落ち合おうと言っていた、今いる16番アジトに現れなかった。

 あの時、無理にでもレストン兄様を引き止めるべきだった。
 そうすれば、ここにはもっとたくさんの人がいたはずだった。
 今このアジトにいるのは、俺と先生、ハイリンスさんにカティアの4人だけだ。
 レストン兄様も、クレベアも、兄様の部隊の人たちも、誰一人としてここにたどり着いてはいない。
 俺があの時、兄様と一緒に戦っていれば、もっと違う結果になったかもしれない。

 けど、本当はわかってる。
 あの時の俺に、カティアを放っておいて戦うことなんかできなかった。
 洗脳の解けたカティアは、自分で自分に魔法を撃った。
 多人数を巻き込むような、高威力の範囲殲滅魔法をだ。
 普通だったら即死している。
 回復させたとはいえ、カティアはひどく衰弱していた。

 そのカティアを抱えながらでは、まともに戦うことなんかできなかった。
 そう、わかってはいる。
 わかっていても、後悔はつのる。

 脱出の時だけじゃない。
 今思えばスーやカティアと念話で話している時、違和感はあった。
 スーはどことなく様子がおかしかったし、カティアに至っては、俺と二人だけの念話であるにも関わらず、日本語を使っていなかった。
 カティアは俺と二人っきりで話すときはいつも日本語を使っていたというのに。

 異変は起こっていた。
 それなのに、俺は気付くことができなかった。
 気付いていれば、ユーゴーにこんなことを起こさせることもなかったのに。

 沈んだ思考を吹き飛ばすように、部屋の中で剣を持たずに素振りする。
 体を動かしている間だけは、何も考えずに済む。

 無駄なことを考えずに没頭していると、扉がノックされた。

「何してんの、お前?」
「カティア、もう歩いて平気なのか?」

 扉を開けて入ってきたのは、ついこの前まで寝たきりだったカティアだ。

「ああ。もう体の方は大丈夫だ。まだ頭の方は時折痛むけどな」
「無理はするなよ?洗脳が解けたって言っても、完璧に影響がなくなったわけじゃないんだ」

 ユーゴーの洗脳は根深い。
 カティアはその精神力で、一瞬だけ正気を取り戻すことに成功したが、それでできたことは、自殺だった。
 そうしないとどうしようもないと、それほどまでに、洗脳の力は強かった。
 今はもう洗脳の影響は抜けたものの、カティアは未だに原因不明の頭痛に悩まされている。

「大丈夫だって。あ、でな、シュンに鑑定してもらいたいんだけどよ」
「鑑定?」
「ああ。なんか新しいスキル手に入ったんだけど、聞いたことのないスキルでな。俺の記憶してる限りじゃ、スキル大全にも載ってなかったと思うんだけど、効果がわかんねーからシュンに鑑定で調べてもらおうかなと」
「ああ、そういうことか。わかった」

 カティアに向けて鑑定を発動させる。
 確かに、この前までなかったスキルが増えている。
 俺も持っていないスキルだ。

『神性領域拡張:神性領域を拡張する』

 鑑定してみてもよくわからないな。
 さらに鑑定してみよう。

『神性領域:生命が持つ魂の深層領域。全ての生命の根源であり、自己の最終依存領域でもある』

 やっぱりよくわからない。

「すまん。よくわからん」
「鑑定しても?」
「ああ。魂がどうとかっていうものらしいけど、それでどんな効果があるのかはよくわからん」

 二人して首を傾げる。

「まあ、いいか。あと、外道耐性とか言うのも上がったな」
「ああ。それはユーゴーの洗脳が解けたからだろう」
「あとは、並列意思?」
「そのスキルはオンにすると、一時的に二重人格みたいになるスキルだ」
「なんだそれ?意味あるのか?」
「片方が今までどおり戦って、もう片方が魔法を使うとかできる」
「なにそれ?卑怯じゃね?」
「一時的に二人分の戦力になるって思えば、かなり卑怯だな」
「おお。じゃあ早速オンに」
「あ、普段はやめとけ。俺もそのスキル手に入れたときは試してみたんだけど、普段からオンにしておくと、どっちが本物の自分なのかわからなくなって混乱する。多重人格って要は精神病の一種だからな。普段はオフにしておいて、戦う時だけオンにしたほうがいい」
「おうふ。コエースキルだな」
「ところでな」
「うん?」
「近くないか?」

 カティアは俺の目の前にいる。
 距離がものすごく近い。
 俺のほうが身長が高いから、見下ろす形になるんだが、その、角度的に、胸がな。

「気にすんな」
「いや、気にするだろ。元は男でも今は女なんだから」
「ほーん。シュンは俺のことをそういうふうに見てるのかー。ふーん」
「あ、いや、これは、その、あれだ、男の性っていうか、わかるだろ?」
「ふーん。じゃあ、こういうことされると反応しちゃう?」

 カティアがもう一歩踏み込んできて胸を俺の体に押し付けてくる。

「ギブ!降参だからからかうのはやめてくれ!」
「ウブだなあ」

 カティアは笑いながら後ろに下がる。

「どうだ?少しは気分も持ち直したか?」
「あ、ああ。そっか。ありがとう」

 そういうことか。
 カティアはわざとこういうことをして、俺の意識を少し和らげてくれたんだ。
 本当に、気が利くやつだ。

「なあ、一つ聞きたいんだけどよ。あの時使った治療魔法、ただの治療魔法じゃないだろ?」

 カティアがそう聞いてくる。

[では、レストンの処刑は三日後ということか]
[はい。このこと、くれぐれもシュンくんには伝わらないようにしてください]

 答えようとした俺は、念話でのその会話を感知してしまった。
 慌てて部屋を飛び出す。

「先生!レストン兄様が処刑されるっていうのは、本当ですか!?」
「シュンくん!?どうやって、あ、念話を盗聴して?」
「そんなことはどうでもいいです。兄様が処刑されるっていうのは、本当なんですか?」
「シュン、落ち着け。その話は、本当のことだ」
「そんな、じゃあ、助けに行かなきゃ!」
「罠だ」
「え?」
「十中八九罠だ。それでも行くのか?」
「行きます。兄様は俺たちを逃がすためにあの場に残った。それなら、今度は俺が兄様を助ける番です」

 ハイリンスさんは大きな溜息を吐いた。

「それが、レストンの望まないことでもか?」
「はい。俺は、それでも行きます」
「ダメです」
「先生。いくら先生の言葉でも、今回ばかりは聞くわけにはいきません」
「ダメです」
「ダメでも行きます」
「ダメだといっているでしょう!」

 先生が拘束の魔法を発動させる。
 風で相手の体の自由を奪うという魔法だ。
 けど、今の俺に、その程度の魔法は効かない。
 腕のひと振りで風の拘束を吹き飛ばす。

「なっ!?」
「先生、止めても無駄です。俺は行きます」
「ダメです!今行ったら確実に殺されます!」
「先生。今の見れば分かりますよね?俺、かなり強くなったんですよ。だから、そう簡単には殺されません」
「違います!強いとかそんなの関係ないんです!管理者にしたらそんな事関係ない!…あ」

 先生が、しまったという顔をする。

「先生、その管理者っていうのは、何です?」

 カティアの鋭い声。

「それが、先生が今までこそこそ動き回ってた理由ですか?」
「それは、言えません」
「先生、この期に及んで言えませんでは通りませんわよ?言えないのなら、あなたにシュンを止める資格はありません」
「ぐっ!」
「はっきり申します。先生、あなたは信用ならない。なんの説明もないこの状況で、あなたは不審な行動を今まで取りすぎています。シュンは無条件であなたのことを信用しているようですが、私にはあなたを信用することはできません。このまま説明もなくシュンの行動を妨害するのであれば、私はあなたの敵に回ります」
「そんな」
「カティア、落ち着け。先生も」

 俺は、ヒートアップするカティアを宥め、項垂れる先生を慰める。

「先生。俺は敵に回ろうとまでは思ってない。けど、先生の口からいろいろ聞きたいことがあるのも確かなんだ。できれば、教えて欲しい」

 なるべく優しく諭す。
 先生は見た目だけならば、年下の女の子だ。
 エルフは成長が遅いだけで、実際には同じ歳だし、前世のことも合わせると年上ですらある。
 けど、今の先生は、まるで見た目相応の歳の、泣き出しそうな女の子にしか見えなかった。

 沈黙。
 誰も何も喋らない時間が過ぎる。
 先生は俯いて悩み。
 カティアはそんな先生をジッと見つめ。
 ハイリンスさんは成り行きを見守る。

「わかりました。全て、お話します」

 長い時間、悩んだ末に出した答えがそれだった。

「まず、ハイリンスさんに言っておきます。私たち3人は、他の世界で死に、この世界で生まれ変わった転生者です」
「何?」
「それを踏まえたうえで聞いてください。今から話すことは、他言無用です」

 突然の話に俺たちのことを見回すハイリンスさん。
 俺も、まさかそこから話すとは思っていなかった。

「私がこの世界に転生してまず初めに行ったのは、言語の習得でした。ある程度がわかったらスキルポイントを使って念話を取得。エルフの長であるポティマスに念話での対話を試みました。彼は私の話を聞いた上で、生徒たちの捜索を買って出てくれました。私が成長するまでには、かなりの数の生徒が見つかり、無事エルフの里に保護されました。動ける程度に成長してからは、私もその捜索に加わりました。手遅れの子も4人いました。権力者のもとに生まれ、迂闊に手出しできない子もいました。それが、シュンくんやカティアちゃん、ユーゴーくん。ユーリちゃんは生まれは孤児ですが、私たちが発見した時には、既に聖女候補として教会のマークが付いていました。本当だったら、シュンくん達もエルフで保護しておきたかったんですが、政治的なこともあってそれはできませんでした。なぜ、保護するのかというと、この世界のシステムにできるだけ関わらせないようにするためです。この世界のスキルやステータス、レベルなんかに疑問は持ちませんでしたか?ハイリンスさんは生まれがこの世界ですから特に疑問も持たなかったでしょうが、私たちの元の世界では、スキルもステータスもレベルも存在しませんでした。そんなものがあるのはゲームの中だけ。現実にそれがあることなんて、ありえないんですよ。そして、この世界はゲームなんですよ。管理者と呼ばれる連中のね。彼らは人族と魔族を戦わせることによって、人々に戦うための力をつけさせているんです。スキルやステータスやレベルを上げさせて。そして、死んだ人の魂からそれらの力を引き抜き、自分たちの力にしているんです。それがこの世界のシステム。そして、勇者と魔王はそんな管理者が作り出した、人族と魔族を効率よく戦わせるための駒でしかないんです。教会もそうです。彼らが掲げるスキルを伸ばし、神の声を聴こうという信仰、あれも、管理者によって作られたものです。今回の騒動に教会が関わっているのは、恐らく裏に管理者の思惑があります。ユーゴーくんは、教会を利用しているつもりで、逆に利用されているんだと思われます。そのユーゴーくんを通じて出されたレストンくんの処刑。管理者の罠に間違いありません。この世界の住人ではありえないくらい強くなった、シュンくんの力を狙って。だから、シュンくんを行かせるわけにはいきません。先生は、むざむざ管理者なんてわけのわからない連中に生徒を殺されたくありません。だから、行かないでください。お願いします」

 静まり返る。
 重い口を開けたのは、ハイリンスさんだった。

「あなたの言い分では、勇者は、ユリウスは、管理者とかいうやつのために、無駄に戦わされたと?」
「はい。私たちエルフは、その無駄な争いに終止符を打つために、人族と魔族双方に戦争をやめるように訴えてきました。先代勇者と魔王は、その申し出を受け、和解しました。そして、私たちエルフにも内密に、管理者に戦いを挑む準備をしていたんです。先代の勇者と魔王は両者ともに希少な次元魔法の使い手。その力を使って、次元をこじ開け、管理者のいる地に飛ぼうとしたようです。ですが、それは失敗し、私たちの世界へと繋がってしまった。私たちが死んだのは、その魔法の暴発による事故のせいなんです」
「な!?そんな!?」
「その事故にどこまで管理者が関わっているのかはわかりません。ですが、そこで死んだ私たちは、この世界のシステムに巻き込まれ、この世界で生まれ変わることになったんです。本来生まれながらに持たないはずのスキルポイントやスキルを持っていたのは、私たちが異世界人で、死んだ時には魂に刻まれた力を管理者に回収されていなかったからなんです」
「じゃあ、俺たちが死んだのは、勇者と魔王のせい?」
「ひいては、それを裏で糸を引いている管理者のせいです。管理者は、私たちを、この世界を、食い物にする最低な連中なんです」
「先生が、私たちを他の生徒に会わせなかった理由は?」
「他の生徒にはできるだけスキルを取らずに生活してもらっています。管理者に目をつけられないように。ですが、カティアちゃん達は既に手遅れなくらい強くなってしまっていました。エルフの里は管理者でも迂闊に手を出せないくらいの強力な結界に守られて、下界と完全に隔離されています。けれど、管理者に目をつけられているかもしれないカティアちゃん達を連れて行けば、連鎖的に中の生徒たちにも管理者の目がいってしまうかもしれない。それが不安でした」
「支配者っていうのは?」
「支配者は、本来なら管理者の手先になって働く存在です。そのため、少しだけ世界のシステムの力を使うことができます。特殊なスキルなどを取得することによって支配者となるのですが、私はそのうちの一つのスキルを取って、支配者となりました。だからといって管理者の影響は受けていませんけどね」
「今まで先生が裏で動いていたのは?」
「人族と魔族の戦争を回避するために動いていました。それと、管理者を倒すための参段を」
「倒せるのか?」
「わかりません。管理者はそもそもどこにいるのかさえわかりませんでした」

 先生は改めて俺に向き直る。

「シュンくん、レストンくんを救いたい気持ちはわかります。ですが、行かないでください。行けばあなたは死にます」

 その真摯な視線に、俺は…。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ