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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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K2 男の最後の意地

叶多視点です
 どうしてこうなった?
 俺はぼんやりとした意識で、もう一人の俺を眺める。
 もう一人の俺は躊躇なくシュンに魔法を浴びせる。
 周りにいる自分の兵士ごと。

 シュンには俺の魔法なんて効かない。
 もともと俺とシュンとでは、才能に差があった。
 小さい子供の頃は小さかったその差も、成長するにつれ大きくなっていった。
 その才能に嫉妬したこともある。
 けど、直向きに努力し続けるシュンの姿を見てるうちに、純粋に尊敬するようになっていた。

 ああ、そういえばコイツ、前世の頃から目標があるとそこに迷わず突っ走っていくやつだったなー。
 前世ではゲームに熱中してたけど、今世ではその目標が兄であり勇者であるユリウスさんだった。
 元から才能があって、さらに高い目標を持って努力し続けた結果が、目の前の光景だった。

 俺の放った火炎魔法は、広範囲を焼き尽くす殲滅型の魔法だ。
 大魔法ほどの威力はないが、それでも集団に向けて撃てば被害は甚大になる。
 それを、シュンは魔法で相殺し、周りの敵兵すら庇って被害を0にした。

 相変わらずバカみたいな腕と、バカみたいなお人よしだ。
 わざわざ敵を庇うなんて、バカとしか言いようがない。
 俺は苦笑を浮かべようとしたが、俺の意思に反して表情は憎しげなものになる。

「カティア!正気に戻れ!」
「うるさいですわね。私は正気です。反逆者は反逆者らしく、大人しく処罰されなさい」

 俺の口から、俺の思ってもいないことが声に出る。
 けど、俺は知っている。
 この言葉を吐いてるのも、俺自身だってことを。

 子供の頃から、少なからずその兆候はあった。
 前世は男。
 今世は女。
 男の精神を持ちながら、女として生きる。
 そんなチグハグな自分。
 水と油のように、どこか混ざり合わない何かがあった。

 それは歳を重ねるごとにどんどん溝が深まっていった。
 前世では見向きもしなかったはずの可愛い小物に惹かれた。
 甘いものが苦手だったはずなのに、それが好物になっていた。
 女性の体を見ても何も感じなくなった。
 当たり前のように初潮を迎えた。
 月のものが来るのが当然になった。
 胸が膨らみ、体つきも女性らしくなった。

 体だけじゃない。
 内面も徐々に変わっていっていた。
 俺自身でさえ気づかないうちに。
 決定的だったのは、シュンがユーゴーに襲われたときだ。
 あの時、自分でも訳がわからないくらい動揺した。
 シュンが殺されていたかもしれないと思った瞬間、目の前が真っ白になりかけた。

 最初はシュンが前世からの親友、もはや唯一無二の親友といってもいいやつだからだと思った。
 けど、その後シュンと会うと、どこか落ち着かない気分になった。
 自分でもその感情がなんなのかわからない。
 ただ、強くシュンを失いたくないと思った。

 その気持ちは日増しに強くなっていった。
 シュンのそばにいるとソワソワして落ち着かない。
 それなのに、シュンがそばにいないと寂しくて落ち着かない。
 そばにいても離れていても落ち着かない。
 そんな不安定な自分の感情に戸惑った。
 訳のわからない感情に振り回されていた。

 いや。
 本当はその感情がなんなのか、わかっていた。
 ただ、認めたくない心があっただけで。
 元は男だった俺。
 今は女の私。
 多分、決定的に心が割れてしまったのは、この頃なんだ。

 シュンにベッタリとするスーやユーリを見るたびに心がささくれだつ。
 だというのに、それを認めない自分がいる。
 相反する心の葛藤。
 けど、天秤はすでに傾いていた。
 精神は体に依存する。
 つまりはそういうことだ。

 だから、今こうしてシュンと自分の戦いを眺めている俺は、大島叶多という存在の残りカスでしかない。
 男だった精神、その残りカスだ。

 恐らく、男だったから、ユーゴーの魅了にかかっていないんだろう。

 あの事件の後、シュンには話していないが、ユーゴーには厳重な監視がつけられていた。
 俺の公爵家主導で監視体制を築き、年中無休でその行動を逐一チェックしていた。
 そのはずなのに、いつの頃からか報告に不審な点が見られるようになってきた。
 監視には信用のできる人間を使っている。
 裏切ることなんてありえない。
 それなのに、どう考えても虚偽としか思えない内容が、報告の中に混ざり始めていた。

 俺は監視の人員を替えた。
 今思えばそれがいけなかった。

 シュンが勇者の称号を受け継ぎ、学園を去った。
 そこからの変化はあっという間だった。

 まずユーリの様子がおかしくなった。
 あれだけ神言教一筋だったはずのユーリが、その話を全くしなくなった。

 次にスー。
 シュンがいなくなって目に見えてしょんぼりしていたのが、嘘のように元気になった。

 何かが狂い始めている。
 そう認識するのに、その原因がわからない。

 わかったのは、ユーゴーの監視につけていた公爵家の人間たちに呼び出され、罠にはめられ、ユーゴーの手によって洗脳を施された後だった。
 この時既に、公爵家の人間は大半が奴の手によって洗脳されてしまっていた。

 そして今、俺はシュンと戦う羽目になっている。
 ユーゴーの洗脳は凄まじい。
 こうして正常な意識が少しでも残っていること自体が奇跡だと言えるくらいに。
 きっと、他の洗脳された奴らは、ユーゴーのことを心の底から敬愛してしまっているに違いない。

 俺も、こうして意識はあっても、それでどうにかなるってことはない。
 残りカスである俺に出来ることなんて、ない。

 けどな。
 ないからって、そこで諦められるわけ無いだろうが!
 男には、男としてのプライドってもんがあるんだよ!
 ぼうっとした思考に喝を入れる。
 表の意識が魔法の構築に集中した一瞬、俺は全力でその構築に横槍を入れる。

 魔法が暴発する。

「カティア!?」

 シュンが驚いて駆け寄ってくる。
 地面に倒れる寸前に抱きとめられる。
 けど、自分の命がこぼれ落ちていくのがわかる。

 これでいい。
 表の俺も、こうなることを望んだはずだ。

 かすれる視界にはシュンの必死な顔が映る。
 ヒデー顔だ。
 ふっと笑う。
 さっきとは違って、俺の意思通りに頬が上がる。
 笑って死ねるなら、本望だ。
 そのまま俺の意識は奈落の底に沈んでいき。

 温かい光によって無理矢理引っ張り上げられた。

「あ、シュン?」
「カティア、正気に戻ったか?」
「あ、れ?け、が?」

 魔法の暴発で受けたはずの怪我がない。

「治した」

 簡単に言うシュン。
 俺は確かに、死んだと思ったんだけどな。

「あい、か、わら、ず、でた、らめな、やつ」
「今はもう喋るな。ここから脱出する」

 そのままお姫様抱っこ状態で持ち上げられる。
 その瞬間、心臓が爆発するかと思うほど高鳴る。
 こんな状況だっていうのに、顔が火照ってしまう。

 ああ、ダメだ。
 もう、ダメだ。

 この瞬間、大島叶多は、本当の意味でカルナティア・セリ・アナバルドになった。
次、B2に続きます
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