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S16 平穏の影に忍び寄る不穏

 ユーゴーはあれから授業に顔を出さなくなった。

 学園の中には留まっているようだが、俺はあの事件の後、ユーゴーの姿を見ていない。

 スーやカティアに聞いてみてもそれは同じだった。


「兄様に手を出したんだから、死ねばいいのに」

「スー。滅多なことを言ってはいけません。けれど、確かにお咎めなしというのは納得できませんわね」


 パルトンたちを襲った犯人は、結局なんの情報も吐かないまま自害してしまったらしい。

 一時的に拘束していた監禁所では、自白をさせるための準備ができなかったようだ。

 ちなみに、重要と思われる案件において、自白を強要する場合、とあるアイテムが使われる。

 それは、禁断と言われる外道魔法の力が込められた呪具だ。


 外道魔法は魂を犯す魔法と言われ、教会から取得の禁止を言い渡されている。

 この魔法スキルを持つ者は教会によって捕縛され、一生教会の管理下に置かれるか、処刑される。

 もちろんそんな外道魔法の力がこもったアイテムも教会に厳しく管理されているが、使用を教会に申請し、その申請内容が妥当と判断された場合には使うことが許される。

 

 今回の事件でも、犯人たちが王都に移送させられた後に、そのアイテムを使って自白を強制させるはずだった。

 彼らの自害は、それを見越してのものだったのだろう。

 つくづく、この世界と前世の世界は違うものなんだと、改めて認識させられた。


「仮に襲撃者たちとの関係が証明できなかったとしても、他国の王族に本人が攻撃を加えたことは事実。それが何の罪にも問われないのは、おかしいと思いませんか?」


 カティアの問いに、俺は答えられない。

 確かに、俺があいつに襲われた事実は変わらない。

 それでもあいつはお咎めなしだった。

 日本じゃ考えられないことだった。


「何もおかしなことはないのよ。ここはそういう世界だから」


 カティアの問いに答えたのは、ユーリだった。


「シュン君たちはその地位に居るから気づかないだろうね。この世界の身分っていうのはね、みんなが思うよりもずっと強い力を持ってるんだよ。あたしは元孤児で平民だから、そういうのを結構目の当たりにしてきた。貴族に殴られた挙句に、殴った手を痛めたって理由で処刑された人もいた。売った野菜に虫が付いてたって理由で一家もろとも処刑された家族がいた。他にも、そのくらいの話だったら世界中に溢れてるよ」


 俺だけでなく、カティアも絶句していた。

 俺たちは、世界のことを全く何も分かっていなかったのかもしれない。


「身分の差は絶対の差。ユーゴー君は世界有数の大国の次期帝王。このくらいの事件、うやむやにするのは簡単なことなんだよ」


 苦い顔をするカティア。

 俺も似たような顔になっていただろう。


「だからね、真の平等は神言にこそあるの。神言は誰も差別しない。神言は全ての人に平等に恩恵を与えてくれる。神言こそがこの世界の真理であり、全てを包み込む光なの!」


 トリップし始めたユーリを放置する。

 こうなったらもうダメだ。

 聞き手がいなくても延々神言の素晴らしさを語り続ける。

 最初の方は付き合って聞いていたけど、今では聞いているふりをして聞き流すのが上手くなった。


 目をキラキラさせたユーリの神言賛美を聞き流しながら、ユーゴーのことを考える。

 あいつは、今後どうなっていくのだろう?

 ステータスが低くなり、スキルも全て失った。

 おそらく俺と同じで、生まれながらに持っていただろう帝王のスキルすら失った。

 

 残ったのは効果不明の「n%I=W」のスキルだけ。

 先生はこのスキルだけは消さなかった。

 わざと残したのか、それとも、消せなかったのか。

 この謎のスキルは、どうやら俺たち転生者固有のスキルのようだ。

 カティアもユーリもこのスキルを所持している。

 そして、おそらく先生も。

 いったい、このスキルにはどんな意味があるんだろうか?


 ただ、このスキルが効果を発揮したようなことは今のところない。

 あるだけで、何の効果も示さないスキル。

 そんなもの、あってないようなものだ。


 それを考えればユーゴーは、実質全てのスキルを失ったことになる。

 ステータスは下位の魔物クラス。

 頼れるスキルもない。

 はっきり言って、今のユーゴーは人間として最弱クラスにまで落ちてしまった。


 いつかはユーゴーの弱体化も知れ渡るだろう。

 そうなれば、あいつの将来がどうなるかわからない。

 最悪、祖国から絶縁を言い渡されるかもしれない。

 あいつの祖国、レングザント帝国は力こそすべての実力主義だと聞く。

 弱くなったあいつを、果たしてそのまま王位継承権第一位にしておくだろうか?


 そう考えると、これこそがあいつに与えられた罰なのかもしれない。

 ユーゴーは力に溺れていた。

 溺れきり、精神すら病んでしまっていた。

 その力をすべて失ったあいつに、生きる希望はあるんだろうか?


 俺も、ユリウス兄様やスー、カティアの存在がなければ、ユーゴーのように力に溺れていたのだろうか?

 ありえない話じゃないと思う。

 俺は俺より強い人を知っている。

 けど、それでも時たまふと、自分の強さに酔っている気がしてしまう。

 

 実際に俺は強いだろう。

 ユーゴーがあそこまで増長するくらいだし、あいつはきっと周りにあいつ以上に強い人間があまりいなかったに違いない。

 激戦区と言われ、実力至上主義のレングザント帝国ですらだ。

 それなら、魔法寄りか物理寄りかの違いはあっても、あいつとほぼ同等のステータスを持つ俺は、相当強いことになるだろう。

 

 それなら、環境さえ違ったら、ユーゴーのようになっていたのは、俺の方だったかもしれない。


 その考えにゾッとする。

 もしかしたら、先生にステータスもスキルも奪われたのは、俺だったかもしれないのだ。


 先生、あの人も恐ろしい。


 学園に入学し、年齢も一定に達したことから、俺は魔法のスキルもいくつか取得していた。

 あの時、先生に助けられなかったらどうなっていたかわからない。

 けど、勝つにしろ負けるにせよ、両方とも無事では済まないくらいの激戦になっただろう。

 我ながら平和ボケしていたとは思うものの、それでもあの状況だったら、反撃の一つくらいはしたはずだ。

 ただ、止めを刺すのは、絶対躊躇ったはずだ。

 それを考えると、躊躇がないユーゴーの方が、勝率は高かったんじゃないかと思う。


 そのユーゴーを、先生はあっさり無力化してしまった。

 それはつまり、俺も先生には勝ち目がないことを意味する。

 もし、もし先生が俺やカティアのことも弱体化させようとしたら?

 俺には、抵抗する術がない。


 先生は事件の後から、また授業には顔を出さなくなった。

 それはいつものことなんだけど、あんなことの後だと、その行動が余計に不気味に思えてくる。

 

 先生は、いったい裏でどんな活動をしているんだ?

 あれだけの力を、どうやって獲得したんだ?

 それだけの力を使って、いったい何をしようとしているんだ?


 わからない。

 わからないことだらけだ。

 けど、本人に聞いてもそれを答えてくれるとは思えない。

 それに、下手につついてヤブヘビになるのも怖い。


 ただ、勘でしかないけど、先生は敵ではないと思う。

 裏で何をしているのか、それは謎だけど、少なくとも俺たちに害を及ぼすようなことはしていないと思う。

 今はまだ踏み込むことはできないけど、いつかきっと、全てを話してくれる日が来ると思う。

 それまで、俺は先生を信じて待つことにしよう。


「だからね!シュン君も神言教に入信しよう!」


 聞き流してたらいつの間にか手を握られてユーリに詰め寄られていた。


「あー、神言教が立派なのは認めるけど、俺は遠慮しておくよ」


 無言の圧力を醸し出すスーに冷や汗を流しつつ、そっとユーリの手を解く。

 ユーリはこのところやたら熱心に神言教に入信しないかと詰め寄ってくる。

 俺はその度にやんわり断っているんだけど、ユーリが諦める様子はない。

 その度にスーがキレそうになるので俺としてはハラハラするんでやめてほしいんだが。

 

 ん?

 スーがユーリのことを睨みつけてるのはいつも通りだけど、カティアが微妙な顔をしている。

 こういう時は呆れた顔をして遠巻きにしてることが多いのに、どうした?


「カティア、何かあった?」

「え?何でもありませんわよ?シュンこそ何です急に?」

「いや、カティアの様子が何か微妙だったから」

「はあ。別に、いつも通りですわよ?」

「そうか? 体調が悪いならそう言えよ?」

「ええ。ご心配なさらずに」


 本人が何もないって言うんだから大丈夫だろう。

 と、振り向いたら、今度はスーとユーリが微妙な顔をしていた。


「今度はお前らか。どうした?」

「いえ。何でもありません」

「?」


 スーとユーリは二人で顔を見合わせて、お互いに微妙な顔をしている。

 訳がわからん。

 結局、その日は全員微妙な顔のまま解散となった。


 

*************************



「スーちゃんどう思う?」

「まだ、ない。けど、ありえなくはない」

「やっぱり、そう思う?」

「それはまずい。非常にまずい」

「まずいね。非常にまずいね」

「けど、止めることはできない」

「これは、強敵になるかもしれないね」

「むう。まだ決まったわけじゃない」

「そうね。あたしたちとしては、そうならないことを祈るばかりです」



*************************



「クソが! このままで終われるかよ! この世界は俺のもんだ! 俺の、俺だけの、俺のためだけの世界だ! こんな終わり方は認めねえ! 認めねえぞ! 全部をこの手に入れるまで、終われるかよ!」


《熟練度が一定に達しました。スキル『欲求LV1』を獲得しました》


「あのクソエルフが! 絶対に復讐してやる! 許さねえ、絶対に許さねえ!」


《熟練度が一定に達しました。スキル『怒LV1』を獲得しました》


「いつかあいつのものをすべて奪ってやる! 俺が奪われたのと同じようにな!」


《熟練度が一定に達しました。スキル『奪取LV1』を取得しました》


「待ってろよ! あいつが大切にしてるもの、全部ぶっ壊してやる! そのうえで泣き叫ぶあのクソアマを笑いながらグチャグチャに犯してやる!」


《熟練度が一定に達しました。スキル『淫技LV1』を獲得しました》


「待ってろよ! 俺はこの世界を取り戻してやる!」

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この世界がいくら身分社会だからといったって、他国の学園でその国の王子に手を出すのはだめだろ。むしろ身分社会だからこそだめだろ。ほぼ現行犯にもかかわらず、学園追放にすらならないのは無理がある。日本でいう…
[気になる点] ホント学園が他国に門徒を開いてる意味がわからない なんなら学園に王子が入学するたびに帝国から暗殺役の生徒送り込まれたらお家断絶一直線よね
[良い点] 面白いです。続きが読みたいです。 [気になる点] 更新を再開してください。よろしくお願いします。 [一言] 面白いです。ユーゴーが、なんかやばいことになっていますね。これは、強くなって主人…
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