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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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93 階層を跨るモノ

 ナーマーズー。
 どこに逃げたー。
 出て来いやー。

 てな感じで徘徊してたら、とあるものを発見した。
 いや、発見したっていうか、そこにあったというか。
 これだけ目立つものだったら発見しないほうがおかしいっていうか。

 そこにあったのは巨大な穴だった。
 前に私が上層から下層に落ちた縦穴。
 あれよりさらにでかい縦穴だ。
 上と下、両方に繋がっている。

 そう、この穴、上に繋がっているのだ。
 多分この穴を登っていけば上層に、降っていけば下層に到達するんだと思う。
 思うんだけど、私はこの穴をスルーする。
 あ、決して洒落で言ったわけじゃないからね。
 この程度のオヤジギャグで私のセンスを疑われてしまったとあっては、誠に遺憾である。

 と、そんなことはどうでもいいとして、この穴、私の探知さんがビンビンに危険を訴えてくるわけですよ。
 ええ、そりゃもうね。
 視界に入った瞬間からもうビンビンにね。
 あ、これダメなやつだ、って、即わかるくらいのやつ。

 というわけで、私はその穴に近づかないように、グルッと遠回りをして先に進んでいる最中でございます。
 あれダメだよー。
 近づいたら絶対酷い目に遭うフラグだよ。
 進化して私TUEEEEとか思ってた矢先にこれだよ。
 そうだね。
 今まで調子に乗っていいことがあった試しがないしね。
 調子に乗ると碌なことがない。
 私それを思い出しました。
 謙虚な心が一番。
 そういうわけで、フラグは全力で回避させていただきます。
 ええ。
 近づきません。
 近づきませんとも。
 ダチョウの法則なんか私は知らない。
 私お笑い芸人じゃないし。

 そんなことを考えながら穴から遠ざかっていく。
 そして、穴がギリギリ見えるくらいのところで、探知さんが極大の危険を感知した。
 思わず岩影に隠れる。
 チラッと覗いた先、穴の上から、それ(・・)はやってきた。

 遠目にもはっきりとわかる、巨大な体躯。
 漆黒の全身。
 そこに妖しく輝く8つの紅い眼。
 8本の足は垂直の壁をこともなく歩く。
 足の先には人の指を思わせるような、長く鋭い5本の爪。
 全てを飲み込みそうなその顎。

 そこにいるのは魔物だ。
 そんじょそこらにいる出来損ないとはわけが違う、本物の魔なるモノ。
 あれの相手なんて、矮小な有象無象で務まるわけがない。
 地龍に感じたものと同じくらいの圧倒的な力の差。
 鑑定様が射程圏外だったのが悔やまれる。
 きっと、笑ってしまうくらいのおぞましいまでのステータスだったに違いない。

 ねえ、そうでしょ?
 マイマザー。
 2度目となる、超巨大蜘蛛との邂逅だった。

 あんな規格外の存在が、そうウヨウヨいるわけがない。
 いたら軽く死ねる。
 あれは、私が生まれた直後に目撃した、マザーに違いない。

 ゆっくりとした動きで下に向かっていくマザー。
 その動きは堂々としたもので、まるでこの迷宮の王者のごとき振る舞いだ。
 実際、マザーの行進を止められる魔物がいるとは思えない。
 私の実力じゃ、上限がどっちもわからないから何とも言えないけど、地龍ですらマザーには勝てないんじゃないだろうか?
 マザーの実力を鑑定してみたいけど、あれに近づくのは自殺行為だ。
 好奇心猫を殺す。
 私は蜘蛛なので殺されるのは勘弁してもらおう。

 しかし、マザーは上層にいるにしては強すぎると思ってたけど、ああいうふうに縦穴を使って階層を移動してたんだね。
 上層にはたまたまフラッと訪れた的な。
 本来の生息域は下層か、もっと下の最下層か。
 下層の強力な魔物たちですら、マザーにはまったく歯が立たなそう。

 ウケ狙いで穴に近づかなくてよかった。
 あんなん勝てる勝てないの領域じゃないっしょ。
 地龍と同じで、目をつけられた瞬間死が確定する類のやつでしょ。
 あんなんもはや動く災厄みたいなもんじゃん。

 と、唐突にマザーの動きが止まる。
 何やら止まってとある方向をジーッと見ている。
 そして、おもむろにその巨大な牙をそこに向ける。

 次の瞬間、世界が揺れた。

 そう感じるほどの衝撃、とかそういうのじゃなくて、本当の意味で揺れた。
 あまりの衝撃に、迷宮自体が悲鳴を上げてるみたいだった。
 効果音で表すなら、チュドーン、グラグラ。

 どんな攻撃だったのか、私の理解を超えていたのでよくはわからない。
 けど、私の視線の先、マグマの泉があったはずのそこには、泉の規模を超える大きさのクレーターが新たに誕生していた。
 そこに何がいたのか、それを知るすべは永遠に失われた。
 ただ、マザーの視界に入ってしまったのか、気分を害する何かをしてしまったのか。
 その不運な魔物は、今はもう塵すら残っていない。

 出来上がったクレーターに、マグマが新しく流れ込む。
 きっとあそこには元の泉よりも大きな泉が今後完成することだろう。

 あの攻撃が私に向けられなくてよかった。
 あれだと、自分が死んだことにすら気づかずに死ぬかもしれない。
 私はマザーに気づかれないよう、必死で気配を殺した。

《熟練度が一定に達しました。スキル『隠密LV7』が『隠密LV8』になりました》
《熟練度が一定に達しました。スキル『無音LV1』が『無音LV2』になりました》
《熟練度が一定に達しました。スキル『恐怖耐性LV7』が『恐怖耐性LV8』になりました》

 そして、ゆっくりと、マザーは下へと姿を消していった。
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