7話「恐怖のカレーライス」
ミーンミーン……
夏到来!
朝、パジャマのままで外へ出て大きく息を吸う。
今日も頑張るぞ!っという気持ちになれる。
そして、いつも朝は必ず庭にいる間様に挨拶をする。
「おはようございます」
「あはよう完助殿、もぅココには慣れたか?」
「えぇ……まぁ」
「面白いじゃろ?ココの住民は」
俺には面白いよりも恐ろしいです。
「何か私に質問があれば聞くぞ?」
間様は笑顔で言った。
俺はしばらく考えて質問した。
「間様は何故101号室じゃなくて103号室に住んでるんッスか?」
「変か?」
「なんとなく……」
「103号室の小窓からは庭に植えた花を観察できるからじゃ……」
「なるほど……花ですか」
「少しずつ成長していく花を観察するのが私の日課になっとるんじゃ」
間様とのお喋りは安らぐな〜。
「あと一つ質問、聞きにくいんスけど……」
「ん……遠慮するな」
「間様って、おいくつ……ですか?」
「いくつに見える?」
「20代……前半?」
「500歳じゃ」
「嘘でしょソレ」
「じゃあ600歳」
「‘じゃあ’って何スか!しかも増えてるし!」
「はっはっはっ、完助は面白いな」
バカにされてるな……俺。
そして、やっぱり……神出鬼没なヤツが上から降ってきた。
「うりゃ!」
……シュタタタ
俺は飛んできた手裏剣をギリギリ避けて地面に刺さる。
「間様!大丈夫ですか?」
でた!星崎結衣!
「コラッ……完助殿は敵ではないと言い聞かしたであろう結衣」
ムッとした顔で結衣さんに注意する間様。
「……しかし」
結衣さんのタバコの煙が俺の口に入る。
「ゴホッゴホッ!結衣さん!タバコの煙なんとかしてくださいよ!つーか結衣さんタバコ吸っていい歳なんですか?」
「失礼な!俺は20歳だ!堂々と吸える年齢だ!」
‘堂々’……つまり昔から吸ってたな。
「邪魔が入ってしまったの完助殿、では失礼するよ……私の年齢はまた今度教えてやろう」
いつになるかな?
「は、はい」
間様の後ろ姿を見届ける俺をしばらく睨む結衣さん。
女性の年齢を聞くな無礼者……といった顔で。
俺は恐る恐る部屋に戻った。
すると朝からカレー‘らしき’匂いが部屋中を充満していた。
「お帰り兄さん……もうすぐ朝ご飯だから、それまでにレポート終わらしたら?」
エプロン姿で髪を括った妹。
妹の唯一の趣味である料理。
しかし……妹の料理は恐ろしいほど下手である。
「終羽里……朝ご飯は俺が作るから」
「ダメ、今週は私が料理当番だから兄さんはおとなしくレポート済ませて……」
おとなしくしていられるか!
朝からカレーライスはとにかく我慢しよう、しかしソレは果たしてカレーか?
まず何故に紫色なのだ?
ナスか?ナスでも入れたのか?
俺は大学のレポートが置いてある机に座ってはいるが、カレー‘らしきもの’が気になって仕方がない。
「あの〜」
俺はゆっくりと妹に近づく。
振り向いた妹の右手には包丁。
回れ右して机に戻る。
本気で妹にビビる俺。
……グツグツ。
カレー‘らしきもの’が完成に近づく中、俺はあることに気付く。
妹が左手に持っている料理雑誌が開いているページには‘八宝菜の作り方’と書かれていた。
え……八宝菜ですか?カレーですか?
どっち?
たまらず俺は妹に駆け寄る。
鍋に何か浮いている。
……スリッパ!
どーいう成り行きでカレーにスリッパが入るのだ?
「終羽里……何を作ってる?」
ついに聞いた俺!
「カレー」
ファイナルアンサー!?
恐怖のあまり机に座って神に祈る。
まだ俺は死にたくない……
徐ろに壁を見る俺。
そこには‘生殺与奪’と書かれた紙が貼られていた。
生殺与奪とは……どうにでもできるという意味。
クソッ!妹よ……202号室のジジィにもらったのか?
捨てろ!本気で怖いから!
「はい……兄さん」
きた!
妹は‘カレーライス’を机の上に置いた。
言葉にならない悪臭。
何故に平気なのだ妹よ!
誰かガスマスクを寄越せ!
部屋に入った時は‘まだ’カレーらしき匂いがしたが今は違う!
「食べて……兄さん」
断りたい!
しかし妹は追い打ちをかけるかのようにスプーンを手に取り‘カレーライス’を掬い俺の前に!
まるでスプーンを持つ妹の手は毒手のようだった!
……そして
…………パクッ
5分後……俺は救急車に運ばれた。