37話「一寸法師」
今思うと俺は油断しすぎたんだ。
昨日の夜……俺は喉が渇いたので、冷蔵庫からジュースらしきものが入ったビンを十分に確かめもせず飲んで眠りについた。
朝目が覚めると体が縮んでいた。
どこかの小さな名探偵と一緒にされては困る。
大きさはゴルフボールくらい縮んでしまっているのだ。
ここまでくると見た目とか頭脳とかのレベルじゃないぞ!
しかしあのジュースらしきもの、俺は心当たりがある。
間様の力……でも小さくはなるが違う。
もっと前にピョン太がシメフクロウを使って俺を鳥人にしようとして失敗。予定変更で黒魔術の生贄にしようとして俺が逃げる際にピョン太にぶっかけたフラスコに入った黄色い液体……アレだ!
何故にココの冷蔵庫に入ってるんだ?
ピョン太の陰謀か!
終羽里にこんな薬が効かないことはヤツが一番良く知っている。となると狙いは俺だ……アイツまだ俺を狙っているのか!
懲りないヤツめ。
しかし、このままだとマズいな。
ピョン太に見つかる前になんとかしなくては……誰かいないのか元に戻してくれそうな人は?
「……兄さん?」
「うおお!起きていたのか妹よ!」
「……うん、5時くらいから」
老人並に早いな。
しかし終羽里に頼めば魔法とかで元に戻してくれるかもしれん!
「……兄さん、かわいい」
「終羽里!いきなりこんな姿でわるいが、冷静に聞いてくれ!」
「……潰したい」
「あん?」
黒い翼を生やした天使!
眠りから覚めた鬼の子!!
不可能を可能にする戦場の母!!!
実の兄を心の底から潰したい……そんな眼をしている。
「ぎゃあああ!」
もちろん俺は逃げた!
小学生の頃は体育のマラソンなんて面倒くさい、走るのがダルい。
俺はそーいう男だった。
でも今は走りたい!
このままの人生一寸法師はイヤだ!
『蒼い空豆』に行こう!
あそこなら……東野さんと空豆店長なら何とかしてくれるハズだ!
俺は人体の限界の素晴らしさを、この身で実感した。
玄関から外には出れないのを確認すると、50メートルを3秒で走るくらいのスピードで偶然にも開いていた小窓へ向かい机のイスを踏み台に大ジャンプ!
飛び散る汗、一瞬だけだが俺は空を飛び……落ちた。
「おおおおぉ!」
下は確か、間様が育てている花達があったハズだ。
うまく花に飛びつければいいが……。
ボフッ
肌色の花?
いや……これは手だ!
「ん?空から完助殿が落ちてきたぞ?」
うおっ!ボリュームが!
声がデカくて耳がギンギンする!
「あ、間様!これには訳がありまして、とりあえず元に戻るために『蒼い空豆』に行かなければならないんです!だから協力してください!」
「なるほど……しかしなぁ」
「はい?」
「元に戻る前に小さな完助殿を描かせてくれ♪」
ニコッと笑みを浮かべ、スケッチブックを取りに間様は俺を膝の上に乗せて103号室へ車椅子を漕ぎ始めた。
「うがっ!間様ストップ!」
「なんじゃ?」
俺が目にしたのは2階から降りてくるピョン太の姿だった。
マズい見つかる!103号室まで間に合わない!
「すいません間様!」
俺は間様の膝から飛び降りて走る。
「残念……生きて帰ってくるのじゃぞ〜」
アパートを出て、商店街を抜けて……そして俺は迷子になった。
「どこだココは?こんな場所あったっけ?」
周りがデカいと世界が違って見える。
「方角はあっているハズだ、踏みつぶされないように隠れて行けば」
道の端を通り、出来るだけ目立たないように進むと普段出会わない……毛虫と出会う。
モゾモゾ
「ぎゃあああ!」
あまりのデカさに腰が抜ける俺。
体を引きずりながら、毛虫から逃げようとするが明らかに毛虫のほうがスピードがあった。
ピトッ
触れた瞬間に……。
「エンガチョエンガチョエンガチョ!!」
動かない体が嘘のように動きだし、店まで猛ダッシュ。
《蒼い空豆》
「うがああ!到着だコノヤロー!」
「店長!ミニマム完助さん来店で〜す」
東野さんのかけ声で、店の奥から空豆店長がヌッと顔を出した。
「まだまだ私も育ち盛りのようだ、完助君が小さく見えるな」
「アンタの身長が伸びたんじゃなくて、俺が縮んだんだよ」
「……なんと!」
「ピョン太の作った黄色い液体を飲んだらこ〜なったんだ、なんとかしてくれ店長!」
「あ〜あの薬なら大丈夫ですよ、すぐに効果が切れますから」
東野さんが俺の肩にポンっと手を置いて言った。
あれ?東野さんと同じ大きさ?
あれ?俺、元の大きさに戻ってる?
「その薬、実はウチの店で作った薬なんですよ。それをピョン太さんがパクったんですよ」
「あは……あははは」
とりあえずアパートに帰ったらウサギを殴ったらいいのかな。