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36話「バレンタイン」

 2月14日……女性が想いを寄せる男性に何をする日だったっけか?

俺は期待を胸に膨らまさないといけないような気がするが、何を貰うんだったっけ?

「……ハイ、兄さんチョコ」

終羽里が俺にくれたのは、手作りのハート型チョコレート。


「そうか!バレンタインデーか!」

今まで縁が無かったから忘れていた。

俺は終羽里からチョコを受け取るが、何かが変だぞ?

「なんか小さくないかコレ?」

「……作りながら、‘少し’食べた」


少し??

《終羽里&拳使郎の場合》

今回はバレンタインデーなので、このイベントを俺が解説を踏まえて見物しようと思う。

まずは、一切の望みもない終羽里と拳使郎だ。


バン!

ガタン!


「女!俺に渡したい物があるんじゃないのか!?」

201号室の戸を破壊して拳使郎が入ってきた。

「……ない」

「そんなことないだろ!」

「……ない」

「そんなこと……」


「……ない」

諦めろ拳使郎、男には諦めなければならない時もあるのだ。


「クソッ!なら、その机の物はなんだ!」

拳使郎は先ほど終羽里が俺にくれたチョコを指差した。

「……チョコ」

「俺には!」

「……ない」

「完助にあって俺には……」

「……ない」

もはや拳使郎は精神崩壊寸前だな。

「……あ」

終羽里がフッと思い出す。

「あるのか!」

拳使郎は雄叫びをあげて期待する。

「……ハイ、借りてたDVD。このアニメ全然オモシロくなかったよ」


ピッピ〜!

……試合終了。

《寿さん&完助の場合》

部屋の壁をすり抜けて、お騒がせ幽霊が姿を現す。

「完助さ〜ん、愛子さんに頼んで作ってもらった私からの愛の‘ちょこれーと’ですよ〜♪」

「で……どこにあるの?」

寿さんの手にチョコは無かった。

「いや〜、ちょっと私じゃ持てなくて」


「それは片腹痛いわな」

はぁ〜、と俺はため息をつく。

「……無念です」


だったら始めから愛子さんに頼まなければいいのに。

しかし気持ちだけでも貰うとするかな。


《晶子ちゃん&完助の場合》

コンコン


「はい」

ガチャ……(なんとか直した玄関の戸)


「オッス完助君、チョコ持ってきたで〜」

「ありがとう晶子ちゃん」

「義理な!」

「いや強調して言わなくても」

「ウチお菓子屋でバイトしてるから、いろんな人に義理チョコ配って歩いてるねん♪」

「ご、ご苦労様です」

「気にしなな、ほなバイビー」

晶子ちゃんが持っているサンタの袋のような物、アレ全部チョコなのか?

とりあえず俺はコレで2個目だな。

《愛子さん&その家族の場合》

一撃家のバレンタインとは。

「お母さん、食べきれないよ」

「まだまだあるわよ恥芽ちゃん」

ニコッと笑う愛子さん。

丸いテーブルに置かれた、‘愛情’タップリのチョコ。

全長5メートル、厚さ30センチ。

デカすぎる。

「堅いぞ愛子さん」


友蔵の歯はボロボロになっていた。

「ついでに歯も鍛えれると思って」


ガッ!


チョコに手を引っかけてしまう光太郎さん。

グラッ!

「おぉぉ!」

光太郎さん目掛けてビックチョコが倒れ込む。

「ぎゃあああ!」


ドシーン!


圧死ですなコレは……。

《麗華ちゃん、結衣さん&完助の場合》


麗華ちゃんと結衣さん、この二人は非常に気になりますな。


偶然にもアパートの階段にいる二人を発見して話しかける。


「やぁ、二人はチョコを作って誰かに渡さないのかい?」


「何を言ってますの完助?バレンタインは男性が女性にチョコをあげる日ですのよ、私が作るわけないでしょ」

問題発言だ。てか麗華ちゃんのバレンタインはコレで定着しているのか。

「面倒くさいだけだろ」

結衣さんがボソッと言った。

「何て言いましたの結衣?ハッキリ言いなさい」

「不器用で手作りも作れないし、店で買うのも面倒くさい。もともとチョコをあげる相手もいないからバレンタインは意味がないんだろオマエは」

「ハッキリ言うな!」

むちゃくちゃだな相変わらず。

とにかく、この二人には期待できないな。少し残念だけど……。

《ピョン太の場合?》

俺はイヤな予感がして203号室を覗きこんだ。

「ヒョヒョヒョ、ついにできたピョン!バレンタイン専用究極ホレ薬だピョン!」

最近実験室に引きこもってるって話は聞いたが……これか。


あとで間様にチクってコイツの暴走を止めてもらおう。

《間様&シュバリエさんの場合?》

103号室前で異様な光景を見た。

間様がシュバリエさんにチョコを渡しているのだ。

「なんだコレは? 女の私がもらっても仕方がないだろう?」

「ワイロじゃ」

「ワイロ?」

「だから、もう少しだけ子供のままでいてくれな♪」

「バカ者!私がチョコをエサに……そんな……」

なんだか雲行きが怪しくなってないか?


もう一押し……と言わんばかりの顔で間様が言った。

「大人に戻るのは、もっと終羽里殿と仲良くなってからでも良いとは思わんか?」

「……ぬぐ」


これはシュバリエさんの負けだな。

《シュバリエさん&終羽里の場合?》


先ほどの続きと言えばいいのか。シュバリエさんがチョコを片手に終羽里をアパートの庭に呼び出した。

「ツッコミどころ満載だが、何も言わずに受け取ってほしい」

「……うん、ありがとう」

やったねシュバリエさん……と言いたいが。

「間様に言いように遊ばれてないッスか?」

「黙れ完助、もの凄く埋めてやろうか?」

「すみません」

シュバリエさんは赤らむ顔を隠すように小走りで去っていった。

《恵理華ちゃん&鈴木の場合》

これを見ないと終われないな。

まだ鈴木のことを想っている恵理華ちゃん。

その様子を陰ながら見守る麗華ちゃんが今回の特別解説ゲストだ。

そして今まさに、101号室のインターホンを鳴らそうとした時。

「あれ?」

戸に貼られた紙に気が付いた。

『チョコお断り』


「おちょくるヤツは死あるのみ」

「ストップ麗華ちゃん!もう少し見守ろうよ!」

ココで麗華ちゃんが飛び出したらアウトだ。

「……これくらいじゃ負けません」

恵理華ちゃんはドアノブに手をかけ、ゆっくりと開けた。


「早く帰ってこないかな〜軍曹♪手作りチョコ、受け取ってくれるかな〜♪」


キッチンで楽しそうにチョコを作る鈴木を見て……倒れる少女。

刀を片手に暴れる少女。

見なかったことにして立ち去る俺。


こうしてクタビレ荘のバレンタインは終わった。

後に間様からもチョコをもらった。

間様は何も言わなかったが俺は本命だと信じている。

今年は3つもチョコをもらって満足だ……と思っているのは俺だけかもしれない。

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