33話「旅行〜前編〜」
明けましておめでとう御座います。
今年も『クタビレ荘の生活』をよろしくお願いしたいのですが……寒い、凍え死ぬかもしれん。
今、俺達クタビレ荘メンバーがいるのは……とんぼ町から電車で約2時間、バスで約1時間のところにある雪山。
そう、スキーを兼ねて温泉旅行に来たのだ。
「大丈夫か完助殿?」
「うぅ〜大丈夫じゃないですよ、旅館はまだなんスか?」
俺は寒いのが苦手だ……。
「バスを降りたら少し歩かないといけないからの、もう少しじゃよ完助殿」
間様の車椅子を押している結衣さんはムスっとした顔で俺に言った。
「体を鍛えろバカ野郎」
ザッザッザッ
雪に埋もれた道を確かめながら、友蔵が先導する。
「だっはっはっはっ、ワシに付いてこい皆の衆!」
何が楽しいんだよ!
アレだな、雪を見るとハシャぐタイプだな……年考えろよ。
しかし、とんぼ町の淡雪とは大違いだな。
「……あれ?なんか1人足りなくないか?」
キングと光太郎さんはアパートで留守番だし、寿さんを含めて14人のハズだが……1人足りない。いや、1匹足りない!
「お〜い!ドコだウサギ〜!」
「ココだピョン」
全裸(白い毛皮のみ)で俺の隣に突っ立っているピョン太。
「うぎゃあ!いつの間に隣に、ってか服を着ろ服を!」
「いや〜、コレの方が動きやすいんだピョン」
「寒くないのかよ?」
つーかマジで雪と同化して見えない。
かろうじて赤い眼が見えるくらいだ。
キラーン
終羽里の目が今年もギラギラに光る。
「……非常食」
垂れるヨダレを手で拭きながらピョン太を目掛けて走り出した。
「ぎゃあああああああ!くるなピョン!」
逃げるデカウサギ。
しばらく好きにさせておこう、2〜3分したら肉片と化して帰ってくるだろう……もちろんピョン太が。
それにしても、このコンビはいつ見ても飽きないな。
「あっ!見えましたよ、宿泊する旅館が」
寿さんが指をさした方向に見えるはクタビレ荘に引けを取らないボロ旅館。
「ココまで来て……あんなボロ旅館に泊まるなんて冗談じゃありませんわ」
駄々をこねる麗華ちゃん、そして毎度同じく慰める双子の妹の恵理華ちゃん。
「姉さん、せっかく間様が私達の旅費まで出してくれたのにワガママ言わないで」
「そうだ、なんなら今からアパートに帰れよ」
結衣さんの一言に麗華ちゃんはブチギレ、持っていた刀で快心の一振り。
懐かしきコレクションNO.103『花鳥戦光』
「うおりゃぁぁ!」
ザシュ!
「なんの!変わり身の術!」
変わり身にされたのは結衣さんの近くにいた鈴木。
「がはっ!」
見事に命中。大量の血が噴き出し、白い雪が赤色に染まる。
「死ぬな戦友ヨ!」
チャールズは鈴木を抱き寄せる。
しかし麗華ちゃんの攻撃は続いていた。
「こしゃくな!立花流奥義!怒羅魂・土裸射舞!」
「変わり身の術2!」
第2の変わり身被害者はチャールズ。
グサッ!
「ノォォォォォォォォ!」
再び変わり身されたものの、麗華ちゃんは満更でもない顔だった。
宿敵チャールズだからな。
ヒュ〜
ん?空から槍が降ってきたぞ?
ズサッ!
雪上に刺さる槍、そして空から降ってきた1人の少女。
見慣れた紫色の髪、世界防衛指揮官のシュバリエさんだ。
「……フェノ?」
「シュバリエ!お主が何故ココに?」
「今しがた仕事が終わったところよ。何やら騒がしかったので世界の平和を乱す敵だと思い、とりあえず天守閃幻を投げてみた」
とりあえず投げられるのは困るな……さすがに。
「よし、ならシュバリエも参加だな」
「なにに?」
キョトンとした顔で尋ねるシュバリエさん。
温泉旅行に強制参加した。
《旅館内の露天風呂》
チャポーン
《男湯》
「いい湯じゃな完助君、夜空に満月とは絶景かな」
「そうだな友蔵ジィさん、露天風呂も悪くない」
温泉に漬かる俺の足元でチャールズと鈴木は潜水ホフク前進、プールに行った時以来まったく成長しとらんのかコイツらは……。
すると木の柵の向こうから女性の喋り声が聞こえる。
すぐ隣は女湯だったのか!?
俺は耳を傾けた。
《女湯》
「いい湯ですね皆さん♪」
「幽霊がわかるわけないでしょ」
「姉さん!寿さんに謝って、それは言い過ぎです!」
はわわわ……と、寿さんの声が聞こえた。泣いてるのか?
「む……結衣、お主なかなかに胸がデカいな」
「お、恐れ入ります間様」
へぇ、結衣さんの胸がデカいとは……。
いつも着ているスーツは膨らみがわかりにくいからな。
「本当に光太郎さんには悪いわねぇ……」
「仕事なのだから仕方ないよ、仕事は大事だ」
愛子さんとシュバリエさんの声。
1人クタビレ荘にいる光太郎さん、実は俺も最近知ったのだが光太郎さんはサラリーマンなのだ。
今日は休みがとれなかったらしい。
てっきり現役プロレスラーかと思ったのだが(やっぱり体型的に)
《再び男湯》
「さすがにダメだよ兄ちゃん、女湯を覗くなんて」
「俺達は十分に大人なんだ弟よ!終羽里の裸を……いや、とりあえず馬になれ!」
十分な大人でも覗きはダメだぞ拳使郎。
「てめぇ俺の妹の裸を見れると思ってんのか?兄として断じて許さんぞ!」
「じゃあシュバリエの裸を……」
「違うだろ拳使郎!普通、男が見るならなら恵理華ちゃんの裸とかだろ!もしくは大人のお姉さん的に間様とかだろ!」
「年上には興味ねぇよ」
シュバリエさんはテメェより年上だ!
「なんか飛んで来たピョン?」
ピョン太の一言に俺は柵の上を見た。そこから石鹸や刀が降ってきた。
「ギャアアアアアアアアア!!」
《広間》
温泉ではヒドい目にあった、確か夕食は旅館の広間でカニ鍋だったな。
よし、たらふく食うぞ。
「お母さん、食べ物が無いよ?」
「本当ね恥芽ちゃん」
……あれ?あるはずのカニが無い?
全て食べられている、誰の仕業だ?
俺は女将さんに聞いた。
「あぁ、さきほど1人の女の子が広間の方をウロチョロしてましたよ」
そーいえば、温泉から聞こえない女の声が1つ……。
あの食いしん坊はどこに消えた!?
沈黙の中、ただひたすら間様の笑い声だけが広間に響いた。
笑い事じゃないですよ間様!