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32話「デート」

クリスマス、それは2匹のトナカイを連れた優しそうな白ヒゲのオッサンが子供達にプレゼントを渡して回る特別な日である。

「……その言い方、回りくどいわ兄さん。キリスト降誕祭でいいのよ」

「コラッ終羽里!勝手に人の心の声を覗くな!」


ピンポーン

ベキッ!


「今日はクリスマスイブだから、その説明は必要無くないっスか?」

「コラッ東野さん!返事してないのに部屋に入るな!しかもドアノブを壊すな!」

おのれ殺人マシーンめ。まぁ、何にせよ俺には関係の無い話か……クリスマスなんて。

「どうぞ手紙です」


「うおっ!オフクロからだ」

終羽里も気になって手紙を見に来た。


『お元気ですか?アパートで元気にやっていますか?私とお父さんは元気すぎて逆に疲れてます、たまには帰って顔を見せに来てくださいね。

……母より』

相変わらず仕事と遊びしかしてないって感じだな、まぁ手紙を寄越しただけでも良しとするか。

『PS.完ちゃんの部屋のベッドの下に隠してあったエロ本は掃除の時に捨てておきました』

余計なことするな糞ババァ!


「ついでにコレも」


ん?映画のチケットのようだ、オフクロからのクリスマスプレゼントってやつか?

なんかしっくりこないな。


《PM19:00》


「なにぃぃ!完助が間様とデート!?」


結衣さんの叫び声。


最高のクリスマスイブをありがとうサンタさん!さきほどは侮辱してスマン、まさか間様が映画『殺戮のクリスマス』を観たかったなんて思わなかった。

「ホラーなのに恋愛アクションなんて興味があるからの、ちょっと二人で観に行くだけじゃよ結衣……そう怒鳴るな」


「‘二人’だから怒鳴るんです間様、何故コイツと……」


結衣さんは俺の頭を鷲掴みタバコを俺の額に押しつけた。


「あつつっ!」

「いいか完助、間様に何かあったら殺すぞ」

冗談に聞こえないから怖い。

「結衣、終羽里殿にお前を監視させるようにお願いしたからの」

「……う」

「分身の術を使って尾行するのも駄目じゃぞ」

「……うっ!」

結衣さんの考えてること全部、間様はお見通しのようだ。

結衣さんは終羽里の肩に手を置いて言った。

「頼む終羽里、兄ちゃんを止めろ」

「……兄さんとは帰りにケーキを買ってきてもらう約束をしているの、だからその頼みは聞けない」


「食いもんに釣られてんじゃねぇよ!」


ともあれ俺と間様の‘デート’が始まった。


《公園前の道路》


俺は間様の後ろに立ち信号待ちの間、心臓のドキドキが止まらない。

アパートの奴らと一緒にいると毎回死にかけるような事件に巻き込まれるが、間様と二人なら巻き込まれない気がする。


「完助殿、信号が変わったぞ」

「あ……あぁ、すみません」

俺は車椅子を押して道路をわたる、間様の鼻歌が聞こえてくる……かなり機嫌が良いようだ。

しかし肩が震えているのが後ろからだとよくわかる。

寒そうにしている間様に俺は巻いていたマフラーを首に掛けてあげた。

「……ん、ありがとう」


イイ!

なんかイイ感じだぞ!これで近くにクリスマスツリーとかあったらムードは最高だ!

やっぱりデートって感じかな?周りから見たらお似合いのカップルにみえるかな?

「完助殿、ちょっとコンビニに寄ってくれないか?」

俺はコンビニへ向かった。コンビニはすでにクリスマス一色、飾り付けもハデだし店員もサンタの格好をしている。

「ふぅ〜寒いな」

間様は白い息を吐き出した、確かに寒いが間様の笑顔は絶えない……たぶん実際のところ寒くはないのだろう。

さっき震えていたのも俺と対等であるように気を使ってくれたに違いない。

アパートの住民と一緒で間様も人間離れしたところがあるからな。

「そういえば完助殿はコンビニでアルバイトをしていたの、それだけで学費とかを払っているのか?」

「実のところ、両親に少しだけ払ってもらってます。アルバイトの給料は生活費とかでほとんど消えるッス」

「……そっか」


俺達は二人でホット缶コーヒーを買いコンビニを出た。

「もう今年も終わりじゃな」

「そうですね」

「実家には帰らないのか?」

「母親から手紙がきたんですよ、まぁ年明けてから顔出しに行こうかなって思ってます」

「うむ、家族はいいぞ。私にはいないが……」

間様は寂しそうな顔をした、缶コーヒーのフタをあけて飲み始める。

「星の姫で活動していた時は面白いことがなかったが、今はアパートの管理人になって住民と触れ合うことで毎日が楽しいぞ」

「そうですね、一緒にいると疲れるけど……いないと寂しいですね」

「うむ、私にとってアパートの皆は家族じゃ」

缶コーヒーを飲み干し、俺達は映画館へ向かった。


《とんぼシアター》


「完助殿?」

「……はい、涙が出そうです」


『殺戮のクリスマス2』


あのババァ、去年のチケットを寄越しやがってぇぇ!

「そういえば去年あたりに『殺戮のクリスマス』のCMがやっていた気がするの……ま、気付かなかった我々も悪いのじゃ完助殿」

「でも、せっかくのデ……映画が」

「レンタルで借りればいいではないか、2も来年レンタルして一緒見よう……な!」

間様の笑顔が、俺を‘ま……いっか’て気持ちにさせる。


「まずは終羽里殿と約束したケーキを買いに行こう、行くぞ完助殿」

こんなことがあってもいいじゃないか。言葉にはださなかったが俺には間様がそう言った気がした。


しばらくして、俺達を優しく包むように……空から雪が降りだした。

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