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30話「妖刀」

ある日、俺は恵理華ちゃんに呼ばれて102号室へ向かった。何でも差出人不明の荷物が届いたらしい。

「間様が出かけてるから相談でけへんしな〜」

おや?晶子ちゃんもいるようだ、麗華ちゃんに呼ばれたのかな?

102号室に入ってすぐに目に入ったのは例の荷物、かなり細長いダンボールである。

「誰が持ってきたんだい?」

「空豆ですわ」


「……やっぱり」


何で荷物を届けて来るのはいつも『青い空豆』の店員なんだろうか?

世の中が狭いというか、世界観が無いというか……。


その時、荷物の中身が気になってしょうがない晶子ちゃんはダンボールを持ち上げて降り始めた。

「何も音せぇへんな……」

首を傾げる晶子ちゃんだが、麗華ちゃんだけがハッとした顔で晶子ちゃんから荷物を取り上げて箱の匂いを嗅ぎ始めた。


「クンクン……これは!」

「中身がわかったのか麗華ちゃん!?」



「……刀の匂いがしますわ」

麗華ちゃんは目を光らした。

確かに彼女にしかわからない匂いだ……ちょっと無理があるけど。

そしてガムテープで密封された箱を開け始める。

「姉さんダメよ勝手に開けちゃ!」

「刀を目の前にして止まる私じゃありませんわ!」

そんな無責任な!


「せめて間様が帰ってきてからにした方がいいんちゃうの?」

晶子ちゃんも心配になってきた。

もちろん俺もだ。


「なまくら刀だったら承知しませんわよ!」

ココにいる麗華ちゃん以外の全員がそう願った。


ビリッ!

ピカァァァ!


麗華ちゃんが箱を開けると同時に隙間から光が漏れた。

「なんやなんや!?」

しばらくして光が収まり、柄の部分が見取れてしまうぐらい美しい紫色をした刀が姿を現す。

それを手にした麗華ちゃんは黙り込み、そして様子がおかしくなった。

いきなり笑みを浮かべて刀を抜き出したのである。


「クックックッ、久しぶりに人間が斬れるぜぇ」

明らかに口調が変わった!

麗華ちゃんの声じゃないぞ!

「しまった!コレは妖刀や!」

「妖刀!?」

「間違いないで完助君、前に本で読んだことあるねん。妖刀に支配された人間の見分け方は……」


「み、見分け方は?」

「……やたら横にカクカク動くねん」


うわっ!本当だ、カクカク動いて気持ち悪っ!!


カクカクカク


「姉さん!しっかりして!」

「クックックッ、久しぶりに肉体を手に入れて気分がイイゼ。この体の持ち主がさっきから心の中で呟いている『101号室のチャールズ』とか言うヤツを斬り刻みに行くかな?」


それはマズい!つーか何呟いちゃてるのよ麗華ちゃん!

これは男である俺が前に出て止めるべきか……しかし刀持ってるしな〜、めちゃくちゃ強そうだしな〜。

すると麗華ちゃん(妖刀装備)が部屋にある大量の刀に気が付いた。

「ほぉ、これだけ刀があれば懐刀に困ることねぇな」

いやいや、懐とかの次元じゃないじゃん!


ブンブン!


大量の刀を所持して闇雲に振り回す麗華ちゃん(妖刀装備)は恵理華ちゃんに襲いかかった。

「きゃあああ!」


「ヒッヒッヒッ!もうチャールズとかどうでもいいや、斬らせろぉぉぉ!」


え〜い考えても仕方がない、女の子が襲われているのに男が黙って見ているなんて……


ピキーン!


あ……目が合っちゃった、麗華ちゃん(妖刀装備)と目が合っちゃった。

どうしよう、ピタッと止まってコッチ見てる。


カクカク


カクカクカク


ひぃぃぃ!怖ぇ!ホラー映画とか比べものにならないくらい怖いよ〜!

何てったって目の前に殺人鬼いるんだからな!

怖いに決まってるじゃん!


……いかん、ションベン漏れそうだ。


「この世の終わりや」

「なんとかならないの晶子ちゃん?」


恵理華ちゃんはあまりにも変貌した麗華ちゃんを見たショックで倒れてるし、頼れるのは晶子ちゃんしかいない。

「無理言うなや、あんたは文化祭の麗華を知らんからそんなこと言えるんや」


「……へ?文化祭なら俺もいたけど?」


「問題は妹さんがドラゴン呼んだ後やがな」

「……いったい何が?」

「麗華な、恵理華の体操着を盗まれてないことに気が付かんと文化祭に来た男性客全員に峰打ちカましよってん。そんな恐ろしい子が妖刀持って暴走したら死人が出るどころやないで」


カクカクカク


「まずはテメェだ!主人公面したクソガキがぁぁ!」


「ぎゃああああああ主人公でゴメンナサ〜イ!」


ピタッ!


う……俺の鼻先から約1センチのところで止まった妖刀。


「完助君、麗華の様子がなんか変やで」


「くっ……な、生意気な刀ですわね〜」


震える俺の目の前で、いつもの麗華ちゃんの声がした。

かなり苦しそうにしている。

「大丈夫か麗華ちゃん!?」

「きぃぃ!精神を持っていかれてたまるもんですか〜!」


歯を食いしばりながら妖刀と戦う麗華ちゃん。

しばらくして麗華ちゃんの手から刀が離れた。

完全にいつもの麗華ちゃんに戻った。


「はぁ……はぁはぁ」

「すごいよ麗華ちゃん!刀の呪いを解くなんて……」


「苦労しましたわ。でも、これでこの刀は私の物ですわ」


地面に落ちた刀を拾おうとした麗華ちゃんだが


ドキューン!


妖刀は空を目掛けて飛んでいった……つーか逃げた。俺にはそんな気がした。


「あんな物騒な物が世の中に出ないように処分しようと思ってましたのに」


「うそつけ!絶対にコレクションにしようとしてただろ!」


「まぁいいですわ。恵理華、起きなさい買い物行きますわよ」

倒れている恵理華ちゃんの頬を軽く叩いて起こした。

「は……姉さん、いつもの姉さんに戻ったのね?よかった」


泣きながら麗華ちゃんに抱きつく恵理華ちゃん。

「まったく、心配かけよってホンマに……」

ホッとしてため息をもらす晶子ちゃん。


しかし異様な光景だな、空飛ぶ刀って……まぁこのアパートにいればあんなのも慣れてしまうけど。


「さぁ支度しなさい恵理華、刀ショップ行きますわよ!」

この女、全然反省してないな。



……その夜、部屋に麗華ちゃんがやって来た。

何でも差出人不明の食器皿が入った荷物が届いて、それを手にした恵理華ちゃんが暴れだしたと言う。


この姉妹、バカにも程がある。

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