29話「がんばれ寿さん」
自称クタビレ荘の癒し系ヒロイン寿!
今日は読者の皆さんと一緒にアパート住民の素晴らしい触れ合い風景を見ていきたい思います。
「うがぁぁぁぁぁ!!」
おや?さっそく完助さんの叫び声、なにかあったんでしょうか?
《203号室前》
「出せコラァァ!」
「僕は諦めないピョン!必ず完助君を黒魔術の生け贄にするんだピョン!」
相変わらず2人の仲は悪いようですね。
ピョン太‘2号’さん(前話参照)に檻に入れられて203号室に押し込まれそうになっている完助さん、これは非常にマズい状況みたいです。
そこに現れたのは完助さんの妹の終羽里ちゃん。
「う……小娘め、また僕の邪魔をするピョンね」
「……兄さんを返して」
「助けてくれ妹よ〜!」
はわわわ……終羽里ちゃんとピョン太さん一騎打ちです!
「くらえ!アイスビ〜ム!!」
ビビビビビッ
カキーン!
た、大変です!終羽里ちゃんが凍らされちゃいました!
バキーン!
はれ?簡単に氷が割れちゃったみたいです。
すると終羽里ちゃんは何も無かったかのような顔でピョン太さんに向かって指をさした。
「……アイスビーム」
ドキューン!
パキーン!
はうぅ〜、さきほどのピョン太さんの5倍はあると思われる威力!
ピョン太さん、カチコチに凍っちゃってます。
「……兄さん、今日の昼食を手に入れたわ」
「いらん!とにかく助けろ」
そんな日曜日の朝に起きた出来事でした。クタビレ荘では、こんなことが毎日のように繰り広げられているんです。
《昼過ぎ》
私は今、103号室にいます。
「ゆ、ゆゆ……結衣さんが裁縫!!」
「なんだよ?別にいいじゃねぇか?」
「だって何と言うか、‘いめーじ’が」
あの凶暴で金髪で、いつも煙草を吸いながら睨みつけてきて怖くて…………ちょっと言い過ぎました。
しかし間様ならともかく結衣さんが裁縫は似合わない気が……。
「結衣は手先が器用でな、知り合いの結婚式用に服を作ってもらってるのじゃ」
「そーなんですか」
「店で買ってもよかったんじゃがの、結衣がどうしてもって言うもんじゃから」
結衣さん、頬を桃みたいな色にさせて恥ずかしがってます。
やっぱり結衣さんにも可愛いところがあるんですね。
「そろそろ行くかの結衣」
「はい!」
はれ?結婚式って今日なのかな?
「では、出かけてくるぞ寿殿」
「は、はい!いってらっしゃいです」
結婚式、私も見たいです。こっそり付いて行っちゃいましょう。
庭へ出ると、間様が育てている花達の近くに青い水晶玉が落ちていました。
「はわぁぁ、綺麗です〜」
「ふん、早く届けてやった方がいいんじゃないか?」
ビンの中に閉じこめられて、すっかり大人しくなったキングさんが私に話しかけてきた。
「どーいう意味ですか?」
「その水晶玉はフェノクロスが結婚式の時に着る服に付いてたヤツだぜ。それが無いとアイツ困るんじゃねぇか?」
それは大変です!
早く届けてあげないと、二人を追いかけましょう!
ピュー!
と、言っても何処へ向かったんでしょうか?
空からキョロキョロと辺りを見回すものの二人の姿は見えません。
とりあえず駅に向かえばいいのかな?
一番近い駅は、とんぼ駅でしょうか?
私は急いで駅へと向かった。
「ワン!ワン!」
はわわわ!こんな時に近所の山田さん宅のメロちゃんに吠えられ追いかけられちゃいました!
「犬は苦手ですぅ〜!なんで鎖で繋いでないんですか〜!」
《とんぼ駅前通り》
ぜぇ……ぜぇ……幽霊も逃げ回ると疲れるんですね、知らなかった。
はうぅ〜、どうやら駅には来てないようです。今度は何処へ行けばいいのでしょうか?
「さっきの車椅子の女性、美人だったよな〜」
「あぁ、一緒にいた金髪の人もなかなかだったな」
‘さらりーまん’さんが話している人って……まさか!
「そ、その人は何処へ行きましたか!?」
って、私の声が聞こえるわけ無いか……。
「あぁ、とんぼ池に向かっていったよ」
はうぅ〜、私って本当に幽霊なのでしょうか。
「ありがとうございます」
《とんぼ池》
見つからない。
とんぼ町には居ないんでしょうか?
まさか池に落ちちゃったんじゃ?
いやいや、私と違ってドジじゃないんだし。
でも念のために探しましょう。
グィッ!
「きゃぁぁぁ!」
なになになに?なんなんですか!?
襟元を引っ張られます〜!
「おや?娘っ子が釣れてしもうたわ」
はうぅ〜釣り人のお爺さんに釣られちゃいました。
お魚さんと間違えられたのはともかく、どうして針に引っかかるんでしょうか私?
幽霊なのに……。
《再びアパートへ》
ひどい目にあっちゃいました。
ややや!103号室から声がします。
「早いお帰りですね間様、結衣さん?」
「……ん、買い物へ行ってきただけだからな」
「えっ!結婚式じゃないんですか?」
「結婚式は明日じゃぞ、部屋に服を置いていったじゃろ?」
はわわわ、私の勘違いでした〜。
「とりあえず結衣さん、水晶玉です落ちてましたよ」
「なんだソレは?俺は知らないぞ」
がーん!
キングさんに騙されました。
嘘つくなんて、ひどいですよキングさ〜ん!
「泣くでない寿殿、結衣……せっかく寿殿が拾ってくれたんじゃ。その水晶玉を明日着る服の胸元に付けておくれ」
「よろしいのですか?」
「うむ」
「かしこまりました」
はうぅ〜結果オーライでよかったです、こんな私でも役に立てました。
次の日、私は間様達と一緒に結婚式に参加しました。
新郎さんも新婦さんも幸せそうで、とても素晴らしい結婚式でした。