26話「自衛隊体験」
ある日101号室の鈴木から突然、チャールズと一緒に買い物に付き合ってあげてほしいと頼まれた。
なんでも母親が危篤状態らしく、付き合えないらしい。
まぁ買い物くらいなら……と、俺はチャールズと一緒に。
日本特殊自衛隊基地に着きました。
軍の訓練1日体験ができるらしく、チャールズに忠誠を誓ったはずの鈴木も去年……死にかけたらしい(後にチャールズから聞いた話)
はい、そーです。
鈴木に騙されました。
え〜、銃が大量にあります。
まさに軍の危地(基地)です。
終羽里……お兄ちゃんを助けておくれ。
「1年に1度の自衛隊体験の日に母親が危篤とは鈴木二等兵は実に残念ダ」
残念だなチャールズ、ヤツは逃げたんだよ。
あ〜、俺も逃げたい。
落ち込む俺、そんな俺の気持ちを知らずに近づいてくる一人の男。
コイツが教官か……。
いきなり腕立てとかさせられるんだろうな、いや……その前にストレッチかな?
「1周、約1キロあるグラウンドを20周してもらおうか?」
いきなりグレード高くねぇかオイ!?
せめて最初は軽くランニングだろ?
これが軍のウォーミングアップなのか?
「サッサと行かんか!」
くそっ!行けばいいんだろ、行けば……。
スタタタタタタッ
俺を一瞬で追い越すチャールズ。
そんなハイペースで体力持つのかよ?
《30分後》
持っとる。
つーか走り終えとる。
俺はまだ10キロも走っていない、すでにヘバッている。
「はぁはぁ……無理、もぅ走れん」
俺はその場に倒れ込んだ。
汗の流しすぎで、もはや汗も出なくなっている。
「だらしないヤツだな、仕方ない……次の腕立てを千回から千五百回にするから走らなくていいぞ」
すでにヘロヘロの俺には意味の無いオマケだな。
鈴木のヤツは俺より体力無いからな、確かに死にかけたのが納得できる。
「さぁ休憩無しだ!はじめ!」
「イエッサー!」
意気込むチャールズ。
「イ、イエッサ〜」
「情けない声を出すんじゃない此似手完助!」
ドスッ!
容赦ない鬼教官のボディーブロー!
「ぐはっ!」
「ヘイ、完助ボーイ!教官に逆らわない方が身のためで〜ス」
そう言って俺に駆け寄るチャールズ。
くっ、チャールズに慈善されるとは情けない。
俺とチャールズは横に並んで腕立てを始める。
すでにボロボロな俺は半泣き状態、一方チャールズはペースよく腕立ての回数を増やす。
俺が50回を終えたときには200回を超えていた。
「完助ボーイ、運動不足にも程がありますヨ」
「うるせぇよ、俺より運動不足なのは203号室のウサギだろが!見る度に太りやがって……この訓練を受けるべきなのはアイツだろ」
「言われてみれバ、そうですネ」
すると、教官は俺とチャールズの間に佇み叫ぶ。
「私語を慎め!」
バシッバシッ!
持っていた竹刀で俺とチャールズの背中を叩く。
「ぐっ!」
「ぐオッ!」
「この後に腹筋や戦闘訓練があるんだぞ、気合いを入れていけ!」
マジで生きて帰れるのだろうか?
間様や皆が居るアパートに帰れるのだろうか?
「すみませ〜ん『やりすぎ宅急便』で〜す」
あれ?東野さんだ?
空豆店長もいるぞ?
「おや?完助さんにチャールズさん」
「東野さん、どーしてココに?またロボットになって暴れたりしないでしょうね?」
「ははっ、大丈夫ですよ」
肩を弾ませて笑う東野さんの後ろから、空豆店長が声をかける。
「東野、早く要件を済ませるんだ」
「あ……そうですね、教官どうぞ」
東野さんは教官に一通の手紙を渡す。
その手紙には極秘と書かれていた。
封を開けて読みだす教官。
「なにっ!?日本が戦争を始めるだと?」
えぇぇぇぇぇ!?
何で?
平和な国じゃないのかよ日本!
「ついに来たか……時代ガ」
お前は黙れチャールズ。
「よしっ!訓練体験生のチャールズ!そして此似手完助を正式に我が軍の兵士として勧誘しよう!」
「イエス!ありがとうございまス!」
興奮するチャールズ。
「ふざけんなコラァ!イヤに決まってるだろ〜!」
狂いだす俺に向かって拍手をする東野さん。
「よかったッスね完助さん」
俺に握手をして涙を流す空豆店長。
「おめでとう完助君!」
意味がわからん!
い〜や〜じゃ〜!!
……
「……さん」
「……兄さん」
「……起きて兄さん」
終羽里の声で目覚める俺。
周りを見ると201号室の布団の上だった。
外はまだ夜中、さっきのは夢だったのか?
「……大丈夫?すごく魘されてたわ」
「あぁ、大丈夫だ……夢でよかった」
リアルな夢だったな。
《午前7時》
ピンポーン
誰だ?こんな朝っぱらから?
ガチャ
ゲッ!……鈴木。
「兄貴、ちょっと頼みたいことがあるんですが……」
あれ?夢で見たときと同じ状況だぞ?
あれれ?
……まさか。