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21話「文化祭」

昨日、恵理華ちゃんから文化祭の招待券をもらった。


親からのわずかな仕送りとコンビニでのバイトだけで食いつないでいる俺と妹にとって、今日の文化祭は少しばかり贅沢を堪能する日である。

「終羽里、今日は遠慮しなくていいからな」

妹はコクリと頷く。


たぶん妹の脳裏には

「文化祭の出店食い荒らし計画」

を練っている最中なのだろう。

立花姉妹が通う

「とんぼヶ丘女子学園」

の校門の前で、俺は妹に千円を渡して言った。

「無くなったら俺をさがせばいいからな」

妹はコクリと頷いて俺に手を振り、出店が並ぶ学園のグラウンドへ歩きだした。


「それにしてもスゴいな〜」

俺は学園の大きさと設備の良さに驚嘆した、すでに文化祭も始まっていて賑やかだ。

とりあえず俺は立花姉妹をさがすことにした。

「校内をウロウロしてみるか」

俺は靴箱にいる数名の教師と客を避けながら、スリッパに履き替えて校内へ。


2階の渡り廊下で恵理華ちゃんを見つけた。

「やぁ恵理華ちゃん、招待してくれてありがとう」


ドスッ!


「うぐっ!」

いきなり恵理華ちゃんは素手で俺のアバラ骨を粉砕した。

俺はその場に膝を折りアバラをおさえた。

「まったく、コレで3人目ですわ」

この喋り方は麗華ちゃん!?

右目に眼帯をしているから恵理華ちゃんだと思ってしまった。

すぐに麗華ちゃんは左目に眼帯を付け変える。

「なにしてるのさ麗華ちゃん?」

「文化祭のような特別なイベントには恵理華に声をかける男性客が多いから、私が文化祭委員のパトロールついでに追い払っているんですのよ」

「だからって俺も殴らなくても」

「フン、イヤラシい顔付きだったので……つい」

痛みが薄れてきたので、俺はゆっくりと立ち上がった。

「刀で斬られなかっただけでもマシかな」

「私を戦闘狂みたいに言うんじゃありませんわ!私は争いの嫌いな普通の女子高生ですわ」

うそつけ!

この前、結衣さんと終羽里と三つ巴の戦いになりそうになったくせに。(18話参照)


「ややや?完助君や〜ん!」


ガバッ!


後ろから晶子ちゃんが抱きついてきた。


「あら?晶子、ライブはどうしましたの?」

麗華ちゃんが聞いた。

「ウチのグループ欠席者が多くて中止やねん」

どーやら晶子ちゃんは今回の文化祭でバンドを組んでライブをする予定だったらしい。

「残念だったね晶子ちゃん」

「ウチの学年最後の文化祭やってんけどな、しゃーないしゃーない」

無理しているようにも思えたが、晶子ちゃんはいつもの明るい表情になった。


麗華ちゃんから恵理華ちゃんが喫茶店をやっていると聞いて、3人で行くことにした。

廊下には

「あなたの未来がわかる占い屋」

「歌が好きになるカラオケ塾!」

など様々なチラシが貼られている。

至って普通の文化祭、学園に来る客の数も増える一方だ。


恵理華ちゃんが喫茶店……

もしかして流行のメイド喫茶か!?

恵理華ちゃんがメイドか!?

期待を胸に

「喫茶教室‘斬’」

の扉を開けた。

たぶんネーミングは麗華ちゃんだろう。


「いらっしゃいませ!」



店員の生徒は皆、学園の制服。


もちろん恵理華ちゃんも普通の制服で、レジ担当だった。


恵理華ちゃんのメイド姿……儚い夢だったな。


「来てくれてありがとうございます完助さん」

恵理華ちゃんは俺に向かってお辞儀した。

「こちらこそ誘ってくれてありがとう」


俺達はイスに座り、俺はコーヒーを注文、晶子ちゃんはというと恵理華ちゃんのソワソワした顔に気づいて聞いた。

「どないしたん恵理華?」

「そ、それが」

恵理華ちゃんは俯きだした。

「私、昼から体育館で『とんぼヶ丘女子学園の美少女コンテスト』に出るんですけど……」


「ちょっと!私は聞いてないですわよ恵理華!」

勢いよく席を立った麗華ちゃんを晶子ちゃんが押さえた。

「断りきれなくて……」

確かに恵理華ちゃんの性格上では無理だな。

「それでコンテストに出るには体操着がいるんだけど、今朝は教室にあった私の体操着が無くて」


何っ!!

恵理華ちゃんのブルマ……いや、体操着を盗むなんて!

どこのどいつだ!?


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

麗華ちゃんは念仏のように連呼した。

その手には刀が握りしめられている。


しかも目にも止まらぬ速さで抜刀!

「フッフッフッ、NO.87『朱刺八参摩(あかしやさんま』文化祭の日にしか鞘から出せない伝説の名刀で恵理華の体操着を盗んだ犯人を解体してやりますわ」

相変わらず意味わからん刀だな。

「ね、姉さん……まだ盗まれたわけじゃ」

「黙りなさい!」

麗華ちゃんの体から久々に夥しいオーラが溢れ出た。

こりゃ文化祭に来た客を全員殺しかねんな。


シュタタタタ!


走り出した麗華ちゃんを二人は追いかけた。

俺はというと、麗華ちゃんを追いかけずに終羽里のもとへ。


「終羽里、大変だ!」

終羽里は文化祭の出店に売っている、ありとあらゆる食べ物を抱えていた。


こっちも大変だ!!


つーか千円で買える量じゃね〜ぞオイ!


「……どーしたの兄さん?」

「え、恵理華ちゃんの体操着が盗まれたんだ!」

「……それで?」

「お前の力で鼻の利くヤツを召喚してくれ、恵理華ちゃんの体操着の匂いを追えるかもしれん!」


「……鼻が大きいヤツでもいいの?」


「なんでもいいから頼む!」

「……わかったわ」




妹に頼んで一安心かと思いきや、恵理華ちゃんが走って来た。

「か、完助さん!ごめんなさい、コンテストのために体育館の倉庫に体操着を入れてたの忘れてました!」


何っ!!


「ス、ストップ終羽里!召喚中止だ!」


「……もう遅いわ兄さん」


バサッバサッバサッ!

ズシーン!!



学園の屋上に緑色のドラゴンが舞い降りた。


鼻どころか全てが大きいヤツを召喚した終羽里に反省の色なし。


とんぼヶ丘女子学園は美しく崩壊した。

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