17話「告白」
頭が痛い……咳が止まらん。
風邪をひいてしまったようだ。
「……兄さん、安静にしててね」
「わかってるよ」
しかしヒマだな、天井を見つめてるだけなんて……。
……ピンポーン
「……はい」
妹が玄関の戸を開けると拳使郎が立っていた。
なんだか最近一撃家の連中ばかりと関わってるな〜。
……ん?拳使郎が着ているTシャツに何か書いてるぞ?
‘才色兼備’
才色兼備とは……才知と美しい顔立ちを共にそなえていること。
えっ!家訓Tシャツ!
そんなの作ったのかジジィ!?
拳使郎が才知で美しい顔立ち?
顔はともかく才知は無いだろコイツ。
「お……おい女!は、話があるから表に出ろ!」
相変わらず生意気だな、年の割にはガキみたいな性格だし。
「……外じゃないとダメなの?兄さんを看病しなくちゃならないの」
「いいから表に出ろ!」
「……わかったわ」
終羽里ちゃん置いてかないで……。
俺は外に出た二人を這いながら追いかけた。
戸を半分開けて外を見ると、一撃家の玄関前で二人が向かい合っていた。
「頑張れよ!拳使郎!」
……ん?ジジィの声?
上を見上げると友蔵に光太郎さん、愛子さんに恥芽……一撃家一同が集まっていた。
「なんでいるんだよ?」
「ここなら拳使郎が終羽里君に愛の告白をするシーンが見れるベストアングルなのじゃよ」
「だったらウサギの部屋の玄関前から見ろよ!………………告白?誰が?」
「兄ちゃんが」
こ・く・は・く!
オイオイ……マジかよ?
「なんで?」
愛子さんが答えた。
「拳ちゃんの口から直接聞いたわけじゃないんだけど、終羽里ちゃんみたいな魅力的で強い女の子が好きなのよ」
俺は再び終羽里と拳使郎に目をやると拳使郎は顔を真っ赤にしてモジモジしている、どーやらマジみたいだ。
終羽里は背中を向けているから顔が見えない。
「父さんアレを……」
「わかっとるわい!」
友蔵は袖から一枚の紙を取り出して拳使郎に見せた。
‘独断専行’
独断専行とは……自分だけの判断で思うとおりに実行すること。
拳使郎は小さく頷いた。
「何してるんですか?」
今回は屋根から顔をピョコっと出して寿さんが現れた。
「シィー!少し黙ってて千鶴ちゃん」
愛子さんの一言で口を塞ぐ寿さん。
ゆっくりと俺に近づき囁いた。
「あの二人は何してるんですか完助さん?」
「拳使郎が終羽里に愛の告白だとよ」
「はわわわ……ドキドキですね」
そして拳使郎が口を開いた。
「お……俺は……だな……おれ……オレ……お」
緊張するにも程があるぞ拳使郎。
拳使郎は何度も深呼吸をして瞳孔を大きく開いて終羽里の両肩に手をのせて叫んだ。
「俺と付き合え!」
「……嫌よ」
あっさり!!
そして拳使郎撃沈!!
一撃家の皆様お口が開きっぱなしでございます。
手に持っていたクラッカーを地面に落とした。
告白が成功すれば祝うつもりだったのだろう。
「な……何故だ?他に好きなヤツでもいるのか?」
拳使郎が終羽里に尋ねた。
「……えぇ」
なにっ!いるのか?初耳だぞ!?
「光太郎、愛子さん……終羽里君の好きな相手がわかり次第抹殺しに行くのじゃ」
「御意!」
この家族ムチャクチャだな。
「兄ちゃん可愛そう」
恥芽が心配そうに拳使郎を見つめる。
拳使郎は終羽里の肩を揺すりながら問いただした。
「誰だ?誰なんだ!?」
見物組は一斉に息を飲んだ。
「……私は兄さんが好きなの」
「えぇぇ〜!!」
終羽里を除く全員が叫んだ。
……え?僕ですか?
光太郎さんと愛子さんは抹殺のために一瞬だけ俺を見たが、すぐに見るのを止めた。
プルプルと震えながら拳使郎は聞いた。
「愛してるのか?」
「……愛してるわ」
すると拳使郎は狂うように笑いだした。
「はっはっはっ!馬鹿かよお前は!血のつながった兄と妹が付き合えるわけがないだろうが!」
「……無理ね」
「じゃあ何でだよ?」
「……私が認めるくらい兄さんに相応しい女性が見つかるまで私は兄さんを愛していたいだけよ」
そして周りは沈黙になった。
「……話が終わったなら失礼するわね」
そう言って終羽里は201号室に戻ってきた。
「……兄さん、ちゃんと寝てないとダメじゃない」
「は……はい!すいません!」
それから拳使郎は……しばらく部屋に引きこもったらしい。
部屋の壁には‘意気消沈’と書かれた紙が貼られていたそうだ。
意気消沈とは……気落ちして元気がなくなること。
拳使郎の小さな恋は幕を閉じた。