16話「アルバイト」
クタビレ荘で暮らす此似手完助19歳。
とんぼ町にある大学に通い、帰りの大学前にあるコンビニに週4回から5回はアルバイトをしている。
夏休みの間はほぼ毎日だった。
今日は1人で店を任せられている……というのも、もう1人のアルバイト定員が原因不明の腹痛で家から出られないらしい。
……最悪だ。
早く代わりのヤツ来い!
つーか店長は何処だ!?
……ピロリンピロリン
「いらっしゃいま……」
「やぁ完助君!頑張ってるかピョン?」
ピョン太と友蔵、そして光太郎さんが来た。
アパートの女性陣ならまだ嬉しいのだが、何故にこの3人なんだ?
すご〜く嫌な予感がする。
他に客がいないのが何よりの救いか……。
「あんたらコンビニならアパートの近くにあるじゃないか、わざわざココまで来るなよ」
外には光太郎さんの車がある。
車に乗ってまでココに来た理由はなんだ?
「僕達は野望のために来たピョン」
「野望?」
すると友蔵と光太郎さんがお酒コーナーからビールやワインを手当たり次第にカゴに放り込んだ。
「酒?野望ってなんだ?」
「とんぼ町にある全てのコンビニの酒を買い溜めすることだピョン」
迷惑な話だ……そして意味不明。
「お前に会社で働くサラリーマンの1日の安らぎを奪う権利があるのか?」
「飲みたいとき飲んでなにが悪いかピョン?前にも一度やったことがあるピョン」
アルコール中毒で死んでしまえ!
……ドン!
……ドン!
と、レジカウンターに次々とお酒の入ったカゴを置く友蔵と光太郎さん。
「はっはっはっ!真面目に仕事をしとるようで関心したぞ完助君」
「そんなに飲んだら早死にするぞジジィ」
「心配無用!ワシは酒と床では死なんわい!」
床で酒飲んで死ぬタイプだと俺は思う。
「父さん……摘まみも買いますか?」
「そーじゃな、この辺で買っておくか?」
光太郎さんと友蔵は摘まみコーナーへ……。
「なんだ?酒の買い溜めはココで終わりか?」
「そうだピョン、前はアパート付近で今回はとんぼ町……次回は市内にあるコンビニを総なめにするピョン」
たぶんそのへんで規模の大きさに絶えかねてギブアップするだろう。
……ピロリンピロリン
「動くな!コンビニ強盗だ!」
えぇ〜!!
自らコンビニ強盗を名乗り出るのも驚きだが、覆面はしてないし銃もナイフも持っていない。
強盗する気あるのかよコイツ。
「コレに金を入れろ!」
うわぁ〜、小さくて可愛いサイフだな。
……しかしコイツも運が悪いな、よりによってピョン太達がいる時に強盗に入るとは。
たぶんピョン太の召喚魔法で終了だな。
「た……助けてピョン!撃たないでピョン!」
ガタガタ震えながら両手を上げるピョン太。
つーか銃持って無いじゃん!
ビビり過ぎだぞウサギ……。
「だぁぁぁ!」
叫び声とともに光太郎さんが強盗犯の顔面にドロップキック!
お弁当コーナーに突っ込んで倒れた強盗犯を友蔵が押さえ込んだ。
おぉ!スゴい!
おもわず俺は拍手をした。
「作戦B成功だピョン!」
テメェは何もしてないだろ!
……ピロリンピロリン
「動くな!……あ?この状況はなんだ?」
ウソッ!本日2度目のコンビニ強盗!
しかもまた覆面とかしてないし〜!
「くっ……よくわからんが金をよこせ!」
強盗犯2号はレジカウンターの前に立ち俺に言った。
俺はレジから金を取り出す。
「邪魔だ!」
強盗犯2号はレジカウンターの上に置いてある酒の入ったカゴを持ち上げて地面に落とした。
……ガシャーン!
「ピョーーーン!」
ピョン太の目は真っ赤に光り、体から黄色いオーラが漂う。
「あれは雷魔法のサンダーオーラ!あまりの恐ろしい魔法故に魔法協会で使用禁止された魔法だ!」
光太郎さんのさりげない解説。
「オーラが魔法ッスか?」
「いや……オーラを利用して魔法を繰り出すんだ!」
光太郎さんの言うとおり、ピョン太の掌に黄色いオーラが集まりだした。
「よくも僕のお酒を〜!許さないピョン!」
僕達だろ?
「危ない完助君!光太郎!伏せるんじゃ!」
友蔵に言われて俺と光太郎さんはその場に伏せる。
「サンダーーーボーーール!!」
ピョン太が放った丸いサンダーボールは強盗犯2号の心臓部分に命中した。
「うぎゃああああああ!」
強盗犯2号はその場に倒れ意識を無くしたようだ。
……あれ?でも焦げてないぞ?
魔法協会が禁止にするほどの雷魔法なのに威力がない感じだ?
「おいピョン太、ソレ本当に雷か?」
「いや……水だピョン」
「は?」
よく見ると強盗犯2号の服が濡れていた。
「サンダーボールは雷と思わせといて実は水魔法だピョン、あまりのギャップの違いにショックで倒れたんだピョン」
確かに痺れると思ったのに急に心臓部分が冷たくなったらビビるな。
恐ろしい‘雷’魔法だぜ……。
しばらくして強盗犯1号2号は警察に捕まった。
翌日、俺達は新聞の片隅に小さく載った。