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15話「キャッチボール」

平日の夕方。

大学から帰宅した俺は終羽里に夕飯の買い物を頼んだ。

俺は洗濯物を干して、前に間様から借りた小説を返しに玄関を出ると庭で拳使郎と恥芽がキャッチボールをしていた。


「恥芽!カーブいくぞ!」

「うん」

……シュ!

……パン!


明らかにストレートだな。

恥芽は素手でボールをキャッチしたが、硬球ボールなのに痛くないのかな?

「次はフォークだ!」

……シュ!

……パン!


ストレートだな。

アイツは変化球を投げる気がないのか?


「ストレートだ!」


……シュ!

……クイッ!

……パン!


ものスゴい勢いでボールがカーブした。


カーブがソレだよ拳使郎!


「お〜い!完助〜!お前も一緒にやろうぜ!」


「間様の所へ行かないといけないんだ……悪いな」

「その必要はないぞ完助殿」

間様の声が1階から聞こえた。

下を見ると間様と結衣さんが庭の花壇に水を与えていた。

俺は階段を降りて間様のもとへ向かう。


「あの……借りてた小説を返しにきました」

本を間様に渡す。

「うむ……他にも読みたい小説があればいつでも言ってくれ」

そー言って間様は結衣さんに本を渡した。


「よ〜し完助!3人でキャッチボールやるぞ!」

「仕方ない……少し付き合うか」

そう言って俺は拳使郎と恥芽の頭を撫でた。

「よし来い!」

俺が両手を上げて合図した。

「くらえ完助!」


……シュ!


意外に遅いぞ、体を鍛えまくってる一家でも子供は子供だな。

……パン!

……メキッ!!

「がはっ!重っ!」


……ドサッ!

俺はボールの重さに耐えきれず、その場に倒れた。

ボールから手を離しても地面を転がらずに、少しだけめり込んでいる。

「い……いったい何キロあるんだよ!このボール!」

「え〜と?恥芽、何キロだっけ?」

「200キロだよ兄ちゃん」

少しでも普通の子供と思った俺が情けない。

どーやって作られたんだ?このボール?


「情けないぞ完助!」

「うるせ〜!俺は一般人代表だ!テメェら人間兵器と一緒にするな!」

拳使郎は倒れている俺に近寄り、ボールをヒョイと片手で拾う。


「じゃあ間の姉ちゃんとキャッチボールするか」

拳使郎は間様に目掛けてボールを投げた。

「……ん?」

間様がボールに気付いた時にはすでに距離は約3メートル。


しかしボールは間様には当たらずに結衣さんが片手で軽く止めた。

「貴様〜!」


結衣さんは拳使郎を睨んで言った。

そりゃ怒るわな……。

「なんだよスーツ女?」

「間様に向かってボールを投げたうえに‘間の姉ちゃん’など気安く呼びやがって……覚悟できてんだろうなガキ」


両手をポキポキ鳴らして結衣さんは戦闘モード。

「もうよい結衣、すぐに気付かなかった私も悪いのだ」

「……甘すぎます間様」

なんか重い空気になってきたな。

「フン!謝んねーぞ俺は」

謝った方が身のためだと思うがな。

ようやく立ち上がる俺の背中に感じる寒気。

「わっ!」

幽霊の寿さんの透けた両手が俺の体を貫通して胸から出てきた。

後ろから脅かそうとしたのだろうが実に妙な光景である。

「何してるんですか完助さん?」

「キャッチボールだよ」

「きゃっちぼーる?」

めんどくさいが俺は寿さんにキャッチボールを教えた。

「はうぅ〜面白そうですね‘きゃっちぼーる’拳使郎さ〜ん、私もまぜてくださ〜い」

「おう!いくぞ幽霊!」


……シュ!


もちろんボールは寿さんの体を貫通して地面に落ちた。

しばらく庭にいたメンバーは沈黙になる。

結衣さんはハァ〜と溜め息をついた。

どーやら拳使郎を怒る気も失せたようだ。

寿さんの目には涙が浮かんでいる。

「はうぅ〜」

哀れだ……。

「き……気にしない気にしない!‘身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ’です!」


アンタ死んでるだろ〜が!


「……ただいま」

いつの間にか隣に立っていた終羽里。

「お……おう、お帰り終羽里」


キラーンと目を光らした拳使郎。

好きな子には余計イジメたくなる実に判りやすい性格の拳使郎は終羽里に目掛けてボールを豪速球で投げた。

「あぶない!終羽里!」


……パシッ!


余裕でキャッチ。

この妹に大して警告など杞憂でした。

「……なに?」

拳使郎を睨む終羽里。

額から大量の汗を流す拳使郎。

……マズい!拳使郎が睨み殺される!


「終羽里!ただのキャッチボールだ!ただの……」

妹を止める俺。

「兄ちゃん謝って!早く!」

拳使郎を止める恥芽。

俺と似たもの同士だな……恥芽。

「いいか終羽里、拳使郎に軽くボールを返せばいいんだ……軽くフワッと」

俺は終羽里の両肩をポンっと叩いて言った。

「えぇ……わかったわ、兄さん」


……シュ。


ボールは弧を描いて拳使郎の真上に……。

「ヒャハハハ!やっぱり女は弱いぜ!」


軽く投げた終羽里をあざ笑うバカ。

易々とボールをキャッチした拳使郎だが。


……ズズズズン!


同時に地中に沈む拳使郎。


「兄ちゃ〜ん!」


おそらく終羽里がボールに重力魔法をかけたのだろう。


1時間後……拳使郎は地中から救出された。

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